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価格誤表記に関する考え方(ECOMネットショッピング紛争相談室)


通販価格誤表示問題に関するネットショッピング紛争相談室の考え方
一連の報道を契機に、これまでトラブル解決という立場で同様の事例に関わった経験から、当相談室の考え方を述べさせていただきます。

1.自動返信で契約成立と言えるか
自動返信メールの内容が「承諾の通知」と考えられる場合には、オートリプライした場合でも契約成立となります。また自動返信メールが無くても、「電子商取引等に関する準則」によりますと、注文後のウェブ画面が「承諾の通知」と考えられる場合には、その画面が注文者のモニター上に表示された時点にて契約成立となります。

例えばショッピングモールに出店している場合に、ショッピングモールのシステム上、このような設定になっていたとしても、それ自体は事業者の自主的な選択によるものです。
しかし、下記のような条件がそろえば、必ずしも契約成立とはなりません。

(契約成立しているとは言えない場合)
※ あらかじめ注文を受ける前にウェブ上にて
「自動返信メールを受信しただけでは、まだ契約は成立しません」といった明記があり、尚且つ、自動返信メールに 「このメールを受信しただけでは、まだ契約は成立していません」といった内容が明記されている。
※注文後のウェブ画面に、「別途ご注文に対する承諾のメールを送信します」 といった内容の記載がされている。
尚且つ、注文に対する請求書的な内容の記載がされていない。

反対に、下記のような場合は、原則として契約成立していると考えられます。

(契約成立していると考えられる場合)
※「在庫が確認でき次第、注文をお受けできるか否か返答いたします」 などの留保をつけずに、「ご注文ありがとうございました」といった 内容の受注確認メールを自動返信で送信した場合、またはウェブ画面に同様の内容を表示した場合。

2.契約成立している場合、事業者は、錯誤による契約無効が主張できるか
基本的にはウェブ上で販売している事業者にとって、最も重要な留意事項の一つである価格の部分でのミスは、民法95条但書きの「重大な過失」に該当すると解釈される可能性が非常に高く、その場合、事業者は原則として錯誤無効を主張できません。
しかし注文者が、当該商品の表示価格が誤表示であると認識していた場合には、例外的に事業者は錯誤による無効の主張ができます。 その場合、商品の持つ性質、また一般流通価格との格差により判断が異なります。
パソコンや家電製品のような商品だった場合、いわゆる「メーカー製」であり、しかも現行モデルであれば、一般流通価格も比較的安定しており、極端な安価での販売はされないと考えられます。 そのような商品が、例えば「激安」「限定」といったコピーが特に無く、一般流通価格の1/10以下の値段表記がされていたとなれば、注文者はその価格が誤表記であると認識した上で注文をしたと推測されます。
逆に、例えばあまり流通していない部品等、正常な価格の判断が素人には難しい製品や、時価変動の大きな商品については、「価格の掲載ミスを消費者が認識していた」との主張は認められにくいと考えられます。

また、以下の場合についても、注文者が価格誤表記を認識して注文していたと判断される場合があります。
※複数の注文。または転売目的なのが明らかな場合。
※価格の比較サイトなどで、予め他事業者での流通価格を認識できたと判断される場合。
※掲示板等で、予め情報交換していたと判断される場合。

ネットショッピング紛争相談室としては、これまでの事例の蓄積をもとに、上記のような考え方の整理に従って、解決に向けたご提案をしていきたいと考えております。
しかし、ネットショッピング紛争相談室はADR機関でもありますので、個別案件に関しましては、決して法律のみに拘束された解決は行いません。

ネットショップを開かれている事業者の皆様には、ちょっとしたミスがもとで上記のようなトラブルが発生してしまう電子商取引のリスクを十分にご認識いただき、契約成立までのプロセスやお客様へのご説明、受注確認メールの内容などを、もう一度見直されることをお奨めいたします。
更に、ご注文に対し、キャンセルを依頼される際には、それ以前の段階でお手元に集まったお客様の個人情報のお取り扱いにつき、お客様の納得される形で処理されますことを、併せてお奨めいたします。

 

事業者側から注文をキャンセルする場合の注文者の個人情報の取り扱いについてネットショッピング紛争相談室の考え方
事業者がウェブ上で価格誤表記その他の表記ミスをおこしてしまい、受けた注文をキャンセルする場合、当然その時点では、注文とともに送られた注文者の個人情報が事業者側に残っています。注文者から見れば、注文を受けてもらえなかったのだから、結果的には自分の個人情報を事業者に知られてしまっただけと感じるケースは多いと思われます。
そういった場合、事業者は、その知り得た個人情報をどのように扱ったら良いか判断に悩むところであると思われ、またその対応によっては二次クレームを引き起こしかね ません。
このような場合どうすれば適切なのか、いくつか同様の案件についてトラブル解決のお手伝いをした過去の経験から、当相談室の考えを以下に述べさせていただきます。

1.個人情報保護法上の事業者の義務
はじめに、「個人情報の保護に関する法律」に照らし、法的にはどのように考えるべきかを検討してみます。

まず、事業者が注文者の個人情報を集めた方法が、同法第十七条の「不正な手段」に該当するかどうかが問題になります。ここでいう「不正な手段」とは、偽りの説明や不正アクセスなどによって個人情報を収集することが想定されていますので、表記ミスのように、事業者の過失により、結果として個人情報を収集してしまった場合は、必ずしもこれに該当するとは判断されない可能性もあります。その場合、事業者は、同法第二十七条の「求めに応じて利用停止等を行う義務」はそもそも負わないと考えられます。
しかし、仮に該当すると判断された場合で、かつ、本人から要請があった場合には、同条の「利用停止等の義務」を負います。「利用停止等」には個人情報の「削除」も含まれますので、本人から削除の合理的な要請があれば、それに応じることが困難かつそれに代わる措置をとれるのでない限り、応じなければなりません。
また、同条第三項に従い、本人に対し、どのような措置や決定を行ったかを通知しなければなりません。

2.事業者における個人情報の扱いについて
当相談室としては、こういった場合、事業者側に対しましては、キャンセルされた注文者の方々の心情も踏まえ、キャンセルにいたった事情の説明とお詫びとともに、注文者の個人情報の取り扱いに関し、できるだけ早いタイミングで、ウェブサイト等に対応方針を公表されることをお奨めいたします。
事業者の立場としては、今後に備えて個人情報を保存しておきたい気持ちはあると思われますが、注文者の方々からすれば、注文をキャンセルされ、注文時の条件で購入できる可能性が少ないにもかかわらず個人情報が事業者側に何年も保管されることは、決して良い気持ちはしないと思われるからです。
また、注文の有効性や契約成立の有無について争いのある場合、例えば価格誤表記のケースにおいて注文者側が商品引渡しを求めるときに、注文のあった事実について証明するのは注文者側になります。従って、販売店側に、その証拠となる情報を保管する必要はありません。また、誤表記価格で商品引き渡しを求めることと、個人情報の削除を
求めることを同時にすることは、ある意味相反する内容になると考えられます。

これらを踏まえますと、上記1.のような法律上の考え方を前提としつつも、法に規定される義務の範囲如何によらず、過失によって収集された個人情報については、原則として全て削除していただくことをお奨めいたします。
もちろん、事業者と今後の取引を希望され、削除を希望されない注文者もいると思いますので、削除予定日を決めてトップページに告示するとともに、注文者全員にメールなどで通知をし、保存しておいて欲しいと申し出た注文者については削除しないといった方法も考えられます。
ネットショッピングにおきましては、小さなミスが大きなトラブルにつながってしまいますので、取引当事者双方がトラブルを避ける努力をしていただくことが原則です。

3.削除の具体的方法について
事業者側からは、「削除した」と言っても注文者が信用してくれないのではないか、といった危惧の声も聞かれます。ここで、再度、個人情報保護法の規定に戻って考えてみますと、削除に際し監査機関等を設置する必要は特に無く、本人への通知を行えば良いとされています。従って、あくまで第三者による証明を求められる場合、どのような形とするかは、法的な義務ではなく事業者側の判断になりますが、実務上、できることは限界があると思いますので、どんな手段をとるにせよ、注文者の方々に誠実なご説明をされることが、最も望ましいのではないかと考えます。
また削除要請があった場合、要請があったという事実を保管することには、法律上の問題はないと考えられます。