1997年9月27日、相談者(会社社長)が、ドメイン ***.net の取得代行手続きを Cホスティング会社に依頼し、同社がレジストラである、米国Nにドメイン ***.net をインターネットオンライン注文、登録。
相談者傘下の会社がこのドメイン ***.net を管理、Nが英語対応なので管理しにくい為、2003年5月13日、ネット責任者がWEBより「N登録ドメイン名の移行」申請し、5月22日ドメイン ***.net の管理を V株式会社管轄下へ移行する。
6月23日、ネット責任者の元に、V株式会社カスタマーサポート担当者より、他のレジストラであるDよりドメイン移管申請のメール(英語)が転送されてくる。
そのメールには、英文で下記記載があった。
「下記のドメインに対する、移管申請が提出されました。下記のリンクをクリックして、ドメインの移管申請を確定して下さい。(リンク先)
もし貴殿が、このドメインの移管申請をおこなっていない場合は、上記のリンクをクリックしないで下さい。クリックしなければ、ドメイン移管が実行されるのを避けることができます。自動ドメイン移管システムからのご連絡でした。ありがとうこざいました。」
最初にこのメールの内容文書を翻訳し即座に、***.net ドメイン名を狙った迷惑メール扱いで処理(フォルダ一時移動)し、相談者側ではメールに一切、手をつけていないとのこと。
後日問題が起きてから確認すると、同様の英文メールが6月26日、6月30日、7月11日、7月15日、7月24日 、7月28日の計7回にもわたってV株式会社を経由し届いていた。
その後ある日、http://www.***.net/をブラウザで開いてみると、まったく違うページが表示されていた。履歴を確認してみると、Dのメールアドレス販売のページがPOPアップされ、それからドメイン販売斡旋します、というようなオランダ語?英語、韓国語を織り交ぜたレジストラ的な(要するにベリサインであるとか 日本レジストリであるとか)ページに転送されるようになっていた。
最初相談者は Cに問い合わせるが、同社はドメイン取得代行手続きのみ 請け負っていただけと知り、V株式会社に問い合わせる。そこで確認すると、ドメインのレジストラが、V株式会社からDに移管されているとの説明を受ける。
Dのホームページは英語であり、相談者会社側には英語がわかる社員がいなかったため連絡の取りようがなかった。8月4日にレジストリ更新がなされていたが、9月に入ってもV株式会社の"***.net"ドメイン管理口座は生きている状況。
V株式会社から、『今Dの法務担当と話をしており、不正にレジストラ移管が行われているので、この移管を無効にし、元の所有者に返還するよう要求しております』との回答があったので、おとなしく現在回答待ちといった状態。Nとも話をしている模様。
そこで、相談者側では、今後ドメイン***.netの運用不能によってもたらされた被害総額約推定2500万円の損害賠償の請求をV株式会社に対して起こしたいと考えている。
会社の看板だった ***.netの予期せぬこの事態に関連企業や関連団体 ユーザーに対する信頼と信用の失墜 多大なる御迷惑 御不満 御不審に対しては説明する余地もなく、致命的な金銭では到底図りきれない多大な損害損失であり、ダメージは日に日に現実感をともなっているといった状況とのことである。
相談室は損害賠償請求の手伝いは出来ないが、相談室にて、その転送されていたというDからの英文メール内容を確認すると、本文中にサイトのリンクが貼ってあり、そこをクリックするとドメイン移管が即、成立すると記載されていた。
つまり、他国の某企業よりDに当該ドメイン***.net取得を希望する旨があり、それに対してDが当該ドメインを管理している事業者V株式会社に対し、移管手続きのメールを送り、そのメールをV株式会社が相談者に転送したという流れである。
相談者はそのメールは一切見ずに捨てていたとのことであったが、V株式会社の調査により手続きされたときのIPアドレスは相談者からのものと断定された。 実際処理していたのはネット責任者である社員であったが、相談室よりその社員に話を聞いても、当初はそのような転送メールは全て破棄していたとの主張だったが、IPアドレスの提示があると、もしかしたらクリックしたかもしれないとの事を言い出した。
そこで、こういった移管手続きが正当なものであるか相談室にて調査したところ、こういったドメインを総括するICANNにて、この移管手続き方法は認められていることがわかった。
こういったドメインに関するトラブルに関しては日本知的財産仲裁センターがあげられるが、日本知的財産仲裁センターでは、ドメイン名登録紛争では、.jpドメインのみを扱っており、.netドメインは扱っていない。通常、今回の相談者のような .netドメインの紛争処理は、WIPO仲裁センターで扱うことになる。
.jpドメインの場合は、登録者とレジストリ(JPNIC/JPPS)とのRegistry-Registrar Agreementにより、 日本知財仲裁センターの裁定に従って、移転ないしは取消がなされることになるが、今回の.netドメインに関しては、相談者とICANN認定レジストラとの間に登録合意書があり、 その規定に従って、処理がなされたものと考えられる。
そこで、既に移管されてしまったドメインはV株式会社の管理下にはないため、相談者には、当該ドメインを取り戻すには現在のレジストラであるDと直接交渉する方法を勧めた。相談者より同意があったので、相談室より英文メールを作成し、相談者よりDに送信するよう伝え、その回答を待った。
Dの回答では、現在当該ドメインはトルコの企業が取得しており、取り戻すには、相談者より、V株式会社のレジストラであるアメリカ企業、V株式会社からのインボイス(請求書)を証拠として提出するよう記載されていた。
相談室よりV株式会社に和訳した記載内容を伝え、そのインボイスらしきメールが見つかったとのことで、それを再度Dに送った。 その後、突然ドメインが返還され、相談者が運営するサイトに戻ったとの報告があった。相談室では同様のことが起こらないよう、ドメイン管理を自社に変更するよう助言した。
相談者は30代の会社社長であり、会社概要を見ると、かなりの数のドメインを既に事業のため所有していた。まだ企業のインターネット進出が大きくなく、ドメインがそれほどの価値を持たない時期より保有しているドメインも多く、今であれば他者が欲しがるようなドメイン名を持つものも少なくなく感じられた。今回の***.net は、まさに『目をつけられた』感じである。
ただ、そういった『目をつけられる』ようなドメインを所有している割には管理が杜撰であり、所有しているドメインは、ドメイン取得代行サービスや管理会社に全て任せきりでいたようである。まさか任せている管理会社を無視して、保有するドメインが、いとも簡単に他国に移行するとは夢にも思っていなかったことであろう。
しかし世界的に見ると、ドメイン移管申請はメールに書かれているURLをクリックしただけで、いとも簡単に移行完了してしまうのである。またそのドメインの移管に承認するのは、あくまでドメイン保有者であり、レジストラ側はその権限が無いため、送られてきた移管申請メールを転送するしかなかった、という主張もある程度理解できる。
少なからずドメインを保有する場合は、ドメイン取得代行や管理会社に任せきりにせず、ある程度の基礎知識を身につけておくことが望ましいと言えるだろう。この件では解決に3ヶ月以上かかったが、相談者は懲りもせず、後日また第三者にドメインを取得されてしまった、といった相談を相談室に寄せてくることになるのである。
ちなみに今回トラブルとなった、相談者の所有していたドメイン、***.netは、いかにもアダルト関連サービスにふさわしいものであり、事実、相談者の提供していたサービスも、いわゆる出会い系サイト、といったアダルト関連サービスであった。無事ドメインが相談者に返還されたことは喜ばしかったが、***.net本来のサイト内容を確認したときは、なんとも複雑な心境であった。