12月5日に、ソフトベンダAのサイト上から、1月中旬に発売されるソフト、価格134,400円を、クレジットカード決済にて購入申し込み手続きをした。
ところがこの14日になってAから「クレジットカードが使用不可になっているので調査をして欲しい」との依頼があった。クレジットカード会社で調べてみると、1回しか申し込んでないのに3回も引き当てがされていることがわかった。
Aの話では、「顧客が信頼できないので、毎週、購入の取り消しと購入の取引データを作成してクレジット会社に送っている」とのことだった。しかし、今回何らかの手違いで取り消しのデータがなかったために、与信限度を超えたということがわかった。
このように顧客の承認を得ない、架空の取引を事業者が勝手に行ってよいものだろうか。
当初の相談内容では、どういった経緯があったのかがわからなかったので、相談者に対し、さらに詳細な説明を求めることにした。
相談者からの話で、「12月5日申込み1回分に対して3回の引き当てがされていたのではなく、12月5日以降に架空の取引として、毎週、購入の取り消しと購入の取引データが、
クレジット会社に送られていた」ということ、「Aから一応謝罪の電話があったが、これら取引は、顧客には取引明細が見えないようにやっていると言う」ということ、「『顧客が信頼できない』というのは自分の感想だが、『毎週購入の取り消しと
購入の取引データを作成してクレジット会社に送っている』というのはカスタマーサービスより直接聞いている」ということがわかった。
1月下旬になって、相談者にAカスタマーサービスより書面が届いた。
書面の内容は、クレジットカード重複処理に関するお詫びと事故報告であった。
お詫びには、迷惑をかけたことに対するお詫びとともに、今回、クレジットカードの再承認処理後の取消し処理がされていなかったこと、それらはシステム障害によるエラーであり詳細については現在も原因を調査中であること、また商品に関しては1月15日付にて発送済みであることが記載されていた。
事故報告に関しては、以下の経緯が記載されていた。
12月5日 午前10時 予約販売の受付
同日 午前10時 第1回承認取得
12月11日 午前9時 第2回承認取得
同日 午後7時 第1回承認取り消し
12月17日 午前9時 第3回承認取得
同日 午後7時 第2回承認取り消し
12月23日 午前9時 第4回承認取得エラー
1月14日 午前10時 4回目承認取得エラーのためカスタマーより相談者に連絡
同日 午前11時ごろ 相談者よりクレジットカード会社に問い合わせた内容の連絡
同日 午前12時ごろ 承認重複はシステムエラーと断定・調査開始
調査と並行し追跡処理と確認作業中
本来であれば、第2回の承認取得後に第1回で取得された承認を取り消しする処理となっており、一時的に承認取得が重複するが、この重複に関してはすぐに解消するシステムになっているということ、しかし今回はシステム障害によるエラーのため、再承認処理後の取消し処理が行われていない「事故」が発生したということが記載されていた。
またエラーの対策として、今はオペレーションでカバーしており、承認取得エラーとなった分は個別にカード会社に照会し、出荷日に関しては遅延が発生しない体制にしているとのことだった。
相談者からは、「システム化されているということは、事業者側にて恒常的にこういった架空の取引がされていると考えられ、こういった架空の取引を顧客の許可なしでやっても良いのか、というこちらの疑問については全く触れていない」というコメントがあった。
ただ、事業者が予約した商品を特に遅延なく発送しているところからも、商品の取引については既に終了と考えられることから、相談室よりこのようなクレジットカード決済は法的にどう考えられるのかを法律専門家に訊ねることにした。
専門家から、以下の回答があった。
・クレジットカードによる購入について、このような取引を顧客の了承なく行うことは事実であるとすれば問題である。
・どのような意図でこのようなことをしているのか、またこのようなことをしても顧客の信用情報を獲得できるとも思えないが、いずれにしても架空の取引データを作成してクレジットカード会社に送ることは、クレジットカード会社に対する詐欺行為にもあたりうるものと思われる。
・相談者については、たとえば取消手続が行われていなかったために請求がきて引き落とされてしまった、というような場合には、当然ながら注文していない金額については損害として賠償請求することができる。
また、他でクレジットカードを利用しようとしたところ、取消手続が行われていなかったために利用できなかった、というような場合にも、事情によって損害賠償の請求をすることができることがある。
・ただし今回の件については、相談者個人には実質的な損害が生じておらず、また、プライバシーの漏洩といったケースとも異なるので、損害賠償等の請求は難しいかもしれない。
これら内容を相談者に伝え、相談を終了とした。
この相談は、2003年年末から2004年にかけて起こったトラブルであることを、まずは先に伝えておく必要がある。当該事業者が今現在もこのようなシステムをとっているかは不明である。当該事業者はPCソフトのベンダだが、取り扱う商品は個人が購入するソフトと考えた場合は、比較的高価格帯の商品が多い。
一旦、クレジットカード会社に承認取得した取引を、後日、再度承認取得し、その約半日後に前回分の承認を取消しするというシステムがあることは、正直今まで聞いたことが無かった。 もしかしたら他にもこういったシステムを採っている事業者が幾つもいるのかもしれない。
商品発送時に最終的なクレジットカードの承認をすることになっているのであれば、事前にそのクレジットカードが有効かどうかを確認しておきたいということなのだろうか。
ただ、それをわからないところで事業者とクレジットカード会社間にて勝手にやり取りされていることを顧客が知ったら、あまり良い顔をするとは思えないのだが。
顧客がクレジットカード会社からもらう明細には、それらやり取りがあったことは当然記載されていないから、トラブルが無ければ、表面上は何も問題ないことになる。しかし、今回のような『システムエラー』が発生したときに、それが表面化してきて顧客の不満につながるのだと考える。
また、今回のシステムの表面化には、第一に予約販売で商品購入申込から商品引渡しまで時間があったため、承認とその取消しの機会が複数あったという点、第二に商品販売価格が比較的高額であったため、承認重複により早期に与信オーバーが発生したという点が大きな要因とも考えられる。
インターネット取引においてクレジットカード決済は、いまや切っても切れない関係であり非常に便利な決済方法である。ただ、消費者がサイト上でクレジットナンバーを入力し決済を行った後、どのような流れを経て決済がなされていくのか、その間にどのような工程や会社が介在するのかは、実はなかなか消費者には見えてこなかったりする。
どのようなクレジットカード決済の方法が良くて、どのような方法がダメなのか、一概に判断することは出来ないが、少なくとも消費者の信頼を得られるシステムでなければ意味がないのではないだろうか。