第七話: 韓流ブームの陰で

 
相談事例から“ちょっとためになるお話”

第七話: 韓流ブームの陰で

 相 談 概 要

 韓国のスターやアイドルグッズを扱うショップサイトがあり、そこから今まで何回も注文をしてきている。運営する事業者自体の所在地は韓国だが、サイトは日本語表示であり、メールその他も全て日本語対応である。
そこで、今回も韓国雑誌1冊、韓国CD1枚、合計2,250円を、いつもと同様に注文しようと思い、サイト上でクレジットカード決済を選択した。
しかし3回決済を実施しても、表示されるのは全て「決済失敗」であり、一回も「決済成功」とは表示されなかった。
それにも関わらず、サイトに登録していたメールアドレスに『ご注文ありがとうございました』という注文ナンバーを付した自動返信メールが届いた。

「3回失敗しているのにこのメールが来るということは、もしかしたら3回とも決済が成功していて、3重に請求が来るのではないか?」という疑問が生じた。そこで事業者に対しメールで、3回分の請求が来ないかどうか、すぐに問い合わせを行った。

それに対し事業者からは、以下の内容のメールが届いた。

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下記の利用案内文をもう一度お読みください。
 <クレジットカード注文の場合−配送状況ページの流れ>
「商品手配中」−「カード決済成功又は失敗」−「発送準備中」−「発送完了」
カード決済が失敗したのに、お客様に代金を求めるのは犯罪ですし、こちらなりのプライドを持っているのに、このような質問には侮辱感を感じます。
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 これを読んで腹が立ったので、『そちらこそ大侮辱で失礼である』『不安になったから聞いただけなのに、あまりに失礼な対応で怒りが収まらないから、即効謝罪を希望する』『謝罪しなければ、掲示板にこの内容をそのまま書き込んで他の人に伝え、また他のアドレスの人にも送る』といった返事をした。今に思えば感情的になっていたのだと思う。

それに対し、以下の回答があった。

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今回の件は、こちらでも法律的に解決したいと思います。
他の人に言うのであれば勝手にしてください。明日からの営業損害分は、あなたに請求します。 こんな脅迫がどれぐらい大きな犯罪になるのか、日本の関係機関に訴えます。

わざわざ説明しなくてもいいと思うが、カード会社の人は、24時間、パソコンの前に座っているのではありません。
だから、初めが一応商品手配中にしてから、カード会社からの確認が届いた後、決済失敗か成功か知らせるのです。日本語わからないですか?

自分の言い方に気を使ってください。このような脅迫メールのためこれからのあなたの人生がめちゃくちゃになる可能性があります。

これ以上いかなるメールも断りします。なおこちらでもこれからは、日本現地の法律事務所を通って、弊社の名誉毀損及び営業妨害に関する脅迫件について、法的手続き開始します。
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 本当に裁判を起こされてしまうのだろうか。もし起こされた場合、どのような行動を起こせばよいのだろうか。もちろん「脅迫」とか「営業妨害」するつもりは毛頭なく、単に「侮辱感を感じる」というくだりが、客であるこちらに対してあまりにも失礼なのでこれを謝罪してほしかっただけである。謝罪すれば全て許すつもりだった。もちろん掲示板に中傷のカキコミなどは一切していない。

 友人と相談の上、「こちらは裁判の意思は全くない」というのを証明するため、事業者にメールを送った。こんな思いする位なら商品はもちろんキャンセルするし、今後このサイトを使う気も全く無い。
それより最後のメールを送信して以降、こちらのIDを勝手に無効処理したようで、既にサイトにログインは出来なくなっている。従って、注文が決済されたか否かも、今ではサイト上で確認する事は出来ない。

ちなみにこのサイトは、多かれ少なかれトラブルを起こしているサイトのようであり、理由は違っていても、同じようにIDを無効にされている人もいるようだ。
日本語でのやり取りだが、日本人が対応しているようではないので、価値観やものの考え方の違いも十分にあるとは思うが、今後どういった対応をすればよいのか教えて欲しい。

 処 理 結 果

 事業者のショップサイトを確認すると、クレジット決済が失敗した場合、下記のような記載があった。

 『カード決済が失敗された場合、ご注文は自動キャンセルされ、商品は発送できません。
カード決済が失敗された場合は、こちらで詳しい案内メールを送信しますので、メールの内容をご確認ください』

従って、事業者の主張するようにカード決済が失敗した場合は、自動返信メールが届くことに関らず、後から案内が届くような流れになっているのである。

しかし、それにもかかわらず「商品手配中」という表示を見て相談者が不安になり、事業者に質問をしたという経緯は良く理解できるので、そのような行為自体に何も責められるところは無いということを伝えた。

その上で、事業者から思いもよらぬ強い口調で、法的手続きの話を持ち出されていることによる相談者の不安を、まずは取り除いていあげることが必要と思われたので、今までのやり取りを鑑みても、事業者側が相談者を訴える理由も無く、裁判をすることはまず考えられないこと、もう当該事業者から注文する予定が無いのであれば、そのまま何もせずに様子をみて、また何かあればすぐに連絡するよう伝えた。

 解 説

 このサイトは冒頭に書かれているように、事業者の所在地は韓国であり、サイトは日本語表記である。メールその他も日本語対応なので、まさに韓流ブーム真っ只中の日本人向けに商売をしているものと思われる。
 そして、この事業者に対する相談は数件寄せられていたが、それら相談内容のほとんどには、トラブルが発生したことよりも、事業者側から送られてくる痛烈なメールに対し戸惑っている状況がうかがわれた。

 この事業者は、トラブル無く取引する分には何の問題も無い。しかし何らかの(ほんのわずかの)トラブルが発生し、別途事業者とやり取りすることが出てくると、とたんに態度が豹変し、注文者を脅すようなメールを送ってくるようになるのである。そして一方的にIDを削除されてしまうのである。注文者にしてみれば、『たかがこんなことで、なぜそこまでされちゃうの?』と思い、事業者の対応に全く理解が出来ないでいる。

 他の相談で、今までは普通に取引できたが、あるとき商品が期日を過ぎても届かなかったのでショップサイトの掲示板にどうなっているのかと書き込みをしたら、途端にIDを削除され、『掲示板の違反使用だから今後二度と注文を受けない、返金してやるが最大限遅く手続きしてやる』とメールで返され、あわてて謝ったところ、『長文メールは迷惑であり営業妨害である、返金してやったので、今まで取引したものも全部返せ、返さなければ財産返還内容証明書を透明封筒にいれて送る、重い気持ちで正月を迎えるだろう』という返信が届いたというものがあった。

今回の相談においても、注文者にとってみれば、注文後、注文内容が記載された自動返信メールが届けば、注文は正常に受け付けられたものと勘違いするのは当然であろうと思われる。それについて質問したことが、まるでクレームをつけられたものとして過剰反応するこの事業者の対応は、いまひとつ理解できないものがある。ただ、現実的にこのような事業者はインターネット上に存在するのである。

また、トラブルが発生しないと、その事業者の顧客対応がどこまでのものか、なかなか図り知ることは出来ない。リアルの店舗であれば、店に入った瞬間から、店員の対応を見ながら五感をフルに働かせて、その店のサービスや雰囲気を感じ取ることは出来る。しかしオンラインショップでは、なかなかそうはいかないのである。
 そして、いくら国が違うとはいえ、顧客にはそれなりの対応方法があるということは万国共通であろう。価値観等の差では無いと思われる。

 ただ、グローバルな取引が可能な海外インターネットショップの中には、悲しいかな、その価値観により、単に『日本が嫌い』な事業者も存在する。そういった事例は、また機会をみて紹介したい。