第十二話: チケット注文の罠

 
相談事例から“ちょっとためになるお話”

第十二話: チケット注文の罠

 相 談 概 要

 Fuji Rock Festival の『チケット早期割引』を、チケットぴあで申し込んだ。インターネットのみの受けつけで、抽選で当選した人だけが購入できるというシステムである。結果はメールにて期日までに各個人に送られるということであった。
 コンサートチケット+キャンプサイトチケットX2枚 と手数料で66,000円をクレジット決済した。倍率が高く、ハズれることを考えて私と夫でそれぞれ2枚ずつ申し込みをした。

メールチェックをしていたが、期日までに私宛てにも夫宛てにも結局メールが送られて来ず、当選者から順次メールが送られるということだったので「当落に関する問合せには一切お答えできません」という但し書きもあり、これはハズれたものだと理解した。

そこで『チケット先行予約』(正規料金だが特典付き)に再度インターネットから申し込んだ。今回も抽選で、結果はメールにて送られるというもので、コンサートチケット+キャンプサイトチケットX2枚 と手数料で78,600円、クレジット決済で今回はメールが届き当選を確認した。

 その後 カード会社から明細が届き、まず私のほうの明細がクレデイセゾンから届き、ぴあへの支払明細が載っていた。私は金額まできちんと確認せずに『チケット先行予約』で申し込みしたチケット代金78,600円だと思いこんでいた。
 すると数日後、夫のカード明細が出光カードから届き、それにもぴあへの支払明細が載っていた。
そこで不審に思い、双方のカード明細の金額を改めて確認してみると、当選のメールがこなかった『チケット早期割引』66,000円のチケット代金で、それぞれの口座から今月引き落とされることになっていた。

 翌日にぴあに電話をして、当選の通知が来ていないのにもかかわらず代金が引き落としされようとしている事をつたえると、「確かにメールを送っており当選しているし、今から取消しは出来ない」と言われた。
では、チケットが外れたと思い『チケット先行予約』で申し込みをして当選したほうのチケットをキャンセルさせて欲しいとお願いしたが、キャンセルは一切受けつけていないという一点張りであった。そして、その『チケット先行予約』の分は、今日クレジット会社に伝票をまわしてしまった、とも言われた。
 そして、「メールの未着等の事故の責任は一切負わない」と申し込みページにも明記しており、こちらからは絶対にメールを送ったので取消しはできない、と全て購入(総額 210,600円)してもらうということであった。

翌日、カード会社に連絡をして、今月引かれる『チケット早期割引』分の支払いを止めてもらうことにした。クレデイセゾンは、それ以外の請求分について振込みをすることで2ヶ月は待ってもらえるとのこと。又、昨日請求をまわした分についても、確かに請求がぴあから来ているが、ぴあからの申し出があれば取消し(赤伝処理)可能と言われた。それをぴあに伝えたが「できません」とのことであった。

夫の出光カードでは、カード会社からぴあのほうに代金を返却するように要請する、と言ってくれた。ぴあと話をした結果、メールの受領確認をしようということになり、ぴあが「メールのログを確認します」ということになった。

その後、ぴあから、「プライバシーの関係でログは本人にしか確認できないということで、そちらからログを調べて欲しい」というメールが入った。
使用していたのはHotmail だったので、MSN Hotmailに問合せをした。電話窓口が無く、メールでのやりとりを暫く続けたが、3月の時点でのログは既に残っておらず、確認できないとの最終回答があった。また、もしもメールボックスが一杯であったりした場合にはエラーメッセージが送信者にかえるシステムになっているが、必ずしも完全ではなく、まれに送られない場合もあるかもしれないとのことである。

 この「ログの確認はできない」という回答をぴあに伝えようと電話をしているが、いずれも話中で担当者と繋がらず本日に至っている。公演は2ヵ月後で、チケットが送られてくるのは来月以降。仮に全て購入しなくてはならなくなった場合、公演日直前にチケットを手にしても転売先が見つかるのか大変不安である。

「メールにて当選確認」という場合、メールを受け取っていなくても購入しなくてはいけないのだろうか。ログの確認ができない場合はどうしたらいいのだろうか。また、売主、買主、どちらが証明しなくてはならないのか。そして、ぴあのいうとおり、全て(計6枚)のチケットを購入しなくてはいけないのだろうか。
取消しは出来ないというぴあの主張だが、支払方法をクレジットカードではなく、振り込みにした人は期日までに振り込みしなければ無効になるようであり矛盾している。

 処 理 結 果

 今回、『チケット早期割引』については、申し込んだ双方ともに当選メールが届いていなかったのか確認したところ、夫と相談者ともに届いていなかったとのことであった。
そうであれば、客観的に見ても、相談者が『チケット早期割引』分は落選したと考え、改めて『チケット先行予約』の手続きを行ったという行動は十分理解できた。

そこで相談者には、まず事業者に連絡をするのであれば、ログの確認が出来なかった、と言うのとともに「当選メールを貴方様に送っていたと主張するのであれば、それを確かに送ったという根拠を示して欲しい」と主張してみてはどうか、と伝えた。
そして、事業者がメールを送っていたとしても、ネット上の取引においては承諾の通知は到達主義をとることを助言した。そこで、クレジット会社には引き続き早期割引分の引き落としについて事業者に調査を依頼し、引き落としを待って欲しいと主張してみるよう伝えた。

 相談者から、事業者に対し相談室からの回答を伝えたところ、送信ログを知らせてきたとのことであった。そこには「2件ともぴあのメールサーバからhotmailのメールサーバに対し、送信が行われています。 (夫の名前)17時50分41秒 、(相談者の名前)17時50分53秒  に送信されています。 送信内容は下記のテンプレートで送信されています。 (テンプレート文)」と書かれてあった。
 そして、メールの到達主義に関しては「相談室と話をしたい」とのことであった。
 そこで相談者の希望もあり、相談室より事業者に連絡を取った。

 事業者からの回答は以下のようなものであった。
・「早期割引申込みのサイト」には以下の表記をしており、当選通知の送信をもって売買契約が成立するものとしている。
■当選結果について
ご登録いただきましたメールアドレス宛に 随時メールにて当選者のみ、当選通知をお送りいたします。
ただし、インターネットの途中経路の障害や、お客様のご利用されているメールサーバの問題等により上記期日以降に到着されたメールにつきましては弊社はその責を一切負いません。
また、ご当選された場合のチケットお引き取り方法につきましては、同当選通知内に記載させていただきます。ご了承ください。

・相談者への当選通知は告知していた予定日に登録されているアドレスへ送信し、エラーは無かった。
・興行のチケットは、ご購入後のキャンセル、変更は出来ないことを告知した上で販売しており、これに基づき取消し対応は出来かねる旨を返答している。

 しかし、この『■当選結果について』の記載は、当選メールが遅延して届いた場合に責任を負わない旨、書かれているが、そもそもメールが到着しなかったケースにまで該当するかは疑問であり、またこれをもって事業者がメールを送信したときに売買契約が成立するとも読み取れなかった。

 ただ、事業者は「プロバイダで受信履歴が確認できなかったという点もあり、再度解決に向けて検討する」とのことであった。また、相談者にも「対応が決まったらメールする、それがいつになるかはお答えできない」との電話があったとのことである。

 その約1週間後、相談者のところに事業者から電話があり、「検討した結果、今回は特別に先に申し込みの『チケット早期割引』の4枚を取り消す処理を行う、すなわち『チケット先行予約』分の2枚のみ購入となる、ただ、都合でカード会社のほうに赤伝処理ができないので、今引き落としを止めてもらっているが一旦引き落としをして欲しい、後日ぴあより現金書留にて払い戻し金額を郵送する。その間社内処理の都合で1ヶ月はかかるが了承頂きたい」といった回答だったとのことであった。相談者はそれに合意するとのことであった。

 その後、相談者のところに事業者からメールが届き、チケット代132,000円、郵送料1,200円、合計133,200円を現金書留で郵送するとの連絡があったとのこと。そして翌月、現金書留送付があり、コンサートも心置きなく楽しめたとの報告があった。

 解 説

 オンライン上で申し込むチケットに関わるトラブルは、コンスタントに寄せられるトラブルのひとつである。それは、「チケットと言うものは原則キャンセルできない」という慣習があるからという点と、もうひとつ、チケットによっては受付開始とともに注文が殺到し、一時的にもサーバに負荷をかけ、結果、システム的なエラーが発生する可能性もあることが考えられる。

 相談でもっとも多いのは、「注文完了まで行かなかったのにチケットが送付されてきた」というものである。申し込み手続きの中で、最後の完了画面が表示されないままログアウトしてしまったり、「戻る」ボタンを押したにも関わらず、後から確認メールが送られてきた、というケースも多々ある。

 何らかのトラブルで完了画面まで行かなかった消費者は、その後どういった行動に出るかというと、ほぼ例外なく、チケットは欲しいので慌てて再度申し込みを行い、結果、二重注文になってしまった、というパターンである。
 客観的に見れば、同じ内容で同じ数量にて、時間をほとんどあけずに注文しているような履歴があれば、何らかの理由により二重注文をしてしまっていると考えられるのではないかと思われる。そうであれば、後から注文してしまった分は本意ではないので、キャンセルや取消しに応じて欲しいと、基本的には思っている。

 ただ、事業者から見れば、極めて怪しい注文者も多いかと思う。後から必要なくなったのでキャンセルしたいがために、無理難題を主張するケースもあると聞く。そこを相談現場でも見極めるのがなかなか難しい部分がある。

 そして、インターネットトラブルで苦労するのは『メールの不着』に関するものである。郵便物ですら不着や紛失があるのだから、メールが受信できなかった、なんてことも結構良くあることなのである。相談室の対応も原則メール対応であるが「相談室からの回答が届いていない」とお叱りを受けたこともある。エラー無く、またあて先違いもなく送られていたはずだったのだが、届いていなければ仕方ない。

送ったほうは、自分のメールサーバには送信した履歴が当然残っていて、その履歴を確認するのも簡単だが、受信できなかった、という履歴を証明することは、実はかなり難しいのではないかと思う。送信側がいくら「送信した、その履歴がある、エラーも返ってきていない」と主張しても、それが即ち「受信した」という証拠には、ならないのではないかと思う。ただ、それが技術的に可能なのかどうかは、残念ながら分からないのだが。

このケースでは、事業者もカード会社も誠意をもって対応したので解決できたが、簡単に「じゃあチケット転売したらどう?」なんて回答は、事業者も相談機関も、決して言えない(ハズ)。