第十三話: 予価と実価

 
相談事例から“ちょっとためになるお話”

第十三話: 予価と実価

 相 談 概 要

 絶版・廃止された本に対し、ウェブ上から購入希望者を募り、購入希望者が一定数を越えた場合は、出版元や権利者に交渉し、本を復活させるシステムをとっている事業者がある。
 そこのサイトに載っていた復刻版の本をクレジットカード決済にて注文し、自動返信メールが届いた。そこには発送予定時期と共に、商品情報として、【復刻版 1個 1,905円 (本体価格) 消費税 : 95 (円) 送料 : 380 (円) 合計金額 : 2,380 (円)】と記載されていた。

 しかし、その後事業者よりメールが届き、『皆様にご注文いただきました復刻版の本体価格が変更となりましたので、お知らせいたします。お客様へのご請求金額はこちらで変更いたしますので、特に変更手続きなどは必要ございません。また、本の内容・表紙などにつきましては以前ご紹介した内容から変更はございません。詳細につきましては、再度、ご連絡いたします』として、【1,905円(本体価格)→2,381円(本体価格)】と値段が変わっていた。

 そこで、クレジットカード決済して一旦契約が成立しているにもかかわらず、事業者側にて、後から一方的に価格を値上げして請求してくることが納得できず、説明を求めると、『当方の手違いにより、一部の方に対して「価格は予価で変動の可能性がある」旨をお伝えできていない状況がございました。深くお詫び申し上げます』、『発行元出版社の判断により最終的に価格決定ということになりました』との返答があり、キャンセルするのであれば受ける、とのことであった。

クレジットカード決済後の一方的な値上げであり許せないと思うが、事業者からはキャンセルか値上げを受けるか、どちらかと言われて平行線である。
この事業者は独占ビジネスをいいことに、サイト上には価格が上がる可能性を表示していないのにも関わらず、このように予価という形で次々と商品を値上げしているという噂を聞いた。今回のケースは予価であると取引で知らせないで、勝手に予価だったとして値上げしたこと、また与信を通した後のクレジットカード決済で、勝手に金額を事業者都合で変更するのはどうなのだろうか。

 処 理 結 果

 相談内容には、「予価」という言葉が頻繁に出てきていたので、相談室では、まず、このシステムはどういったものなのか、例えば今回の場合であれば値段が完全に決定していない段階にて当該商品の注文を受け付け、クレジットカード決済をするということなのか、を訊ねた。
相談者からは『そもそも購入時には「予価」という単語はなく、またサイト上にも全く説明はなかった』とのことであった。そこで相談者が事業者に訊ねたところ、事業者から初めて『今回の価格は「予価」であった』という説明をされたとのことであった。

 事業者自体は、当該商品についてサイト上に「予価」であることを説明していなかったという点は認めているようであり、また、既にクレジットカード決済がされている可能性があれば問題があると思われたため、相談者の了承を得て事業者に連絡を取った。
 事業者とのやり取りで、以下の点が分かった。

・商品の発売元である出版社から、今回の商品について販売価格情報等の連絡があり、同時に販売価格が「予価」である情報も知らされていた。商品情報をサイト上に登録した時点で、担当者の意図しない勘違いによる間違いから予価表示をしていなかった。それを発見し、急ぎ、予価であることをサイトに掲載した。その後になって、出版社より価格決定の連絡が有り、急ぎ、今度は価格決定の案内メールを購入者に送信した。指摘の通り、相談者の注文した時点では予価表示はしていなかったことになる。

・価格変更された理由としては、出版社からの連絡では、付録(128Pの冊子、CD2枚)が当初の予定以上の製作コストとなったこと、ただ、読者の皆様に喜んでいただけることを最優先に考えて、付録をそのままに価格を値上げすることを判断した、と聞いている。

・販売価格が決定していないため、与信からクレジットカード決済までの作業は全くしていない。相談者のクレジットカードについても例外ではなく、相談者を含めて、この件では与信・決済作業は行っていない。

・クレジットカードの与信から決済までのこちらの流れとしては、販売商品であれば、最初の価格での請求金額で与信をかけ、その後、もし販売価格が変更された場合には、再度与信をかける。価格変更後の再与信については今まで問題があったことは無い。最終的に発売になったときには価格も決定されているはずなので決済をする。初めから与信と決済をすることは無い。

・予約商品の場合で「変更手続きをこちらで行う」ことについては、価格が決定したので、お客様の二度手間にならないように、こちらで請求金額の変更を行い、与信をかけることを意味していた。そこまでの説明も必要だったかもしれない。初めから「予価」であれば与信をすることは無い。もし予価では無い、それも止むを得ない価格変更であれば、与信はすでにしているので再与信をかけるが、どちらにしても、価格が決定するまでは「決済」は行なわない。

・今回の商品についても、うちから出版社への「交渉」から復刊できた本であり、非常に多くのユーザから感謝されている。もしうちが無かったら販売されない商品である。

 そこで念のため、相談者にはクレジットカード会社に対し、今現在、この件での請求が上がってきているのかどうか、また、このような予価といった販売店のシステムでクレジット決済が可能なのかどうかを問い合わせてみるよう伝えた。
 相談者より、クレジットカード会社からは、以下の回答があったとのことであった。

・この件では、与信の問い合わせも請求も届いていない。提携店でないか、あるいはデータを蓄積だけして後日まとめて請求を出す会社の可能性がある。
・契約書金額以上の一方的な請求は無効なので、実際に引き落としがされて契約書があれば引き落とし店に対して必ず調査をいれる。

 これらをふまえ相談室では、与信、決済を行っていないことは双方の回答にて確認できたが、相談者からは『価格変更の連絡の際、請求金額は事業者側にて変更するとのことで、変更手続きは特に必要ない』との通知が事業者よりあったと聞いており、事業者に対しては、クレジット決済を選択した注文者に対しては、少なくとも「予価」の段階でのクレジットカード決済は誤解を与えると思われることを伝えた。

 これに対し事業者からは、『現在も注文している方がいるので、急ぎ、お客様へのご案内や注意事項などの説明をより詳しく掲載するなどの検討に入っている』との回答があった。
 そして、事業者からは、『商品の販売が近づいていて出荷作業に入るため、相談者の分についても通常通り発送させて欲しい』ということ、『今後も価格については交渉にのることを条件に、今回は、先にクレジットカード決済をさせて欲しい』との要望があった。

 相談者に伝えたところ、相談者としては、『特に金額については数百円の話なので、もう固執することは無い』とした上で、『このような、説明も無く一方的に値上げをするようなやり方に納得できない』ということ、『それが数百円レベルだから許されるだろう、といった態度である』ということ、『「与信もしていないし、お手数をおかけしないでこちら側で処理をする」と体のよいことを言うが、逆に、もし通常のウェブ上の決済システムで、クレジットカード決済が即時に行われるシステムであれば、後から値段が変えられるわけがないはずであり、そうであれば再度値段が確定した際にクレジットカード番号を入れて契約を確定するシステムにしたらどうなのか』といったことなどを、相談室より伝えてくれればよい、とのことであった。

 事業者に伝えたところ、事業者からは、『指摘された通り、価格変更の可能性については商品の購入ページに明記した他、支払方法の説明ページなどにも掲載した、特に発売を控えた予約商品につきましては、価格変更の可能性が高い商品であることも明記している』ということ、『今後の価格変更のご案内時には、一方的にこちらで決済価格の変更を行なうようなことはせず、ご購入者様のご希望を伺ってから決めていきたいと思っている、ただ、お客様によってはこちらで価格変更した方がスムーズであるなどの理由から、決済額変更の希望をされる方も多くいるため、ご注文を一律にキャンセルできない事情を理解して欲しい』との回答があった。

 相談者が了承した上でクレジットカード決済がなされ、商品が相談者のもとに届き、相談を終了とした。

 解 説

 事業者の行うビジネスモデル自体は、事業者の主張の通り、大いに需要のあるものだと考えられるし、また、インターネット上だからこそ流行るシステムであるとも思われる。
 ただ注文後、サイト上に書かれている商品価格が、実は「決定」されたものではないと後から言われ、一方的に値上げがなされた上に、頼みもしないのに「こちらで請求額を変更しておきますからご心配なく」なんてことを恩着せがましく言われたら、ちょっと文句のひとつも言いたくなるのは分かるような気がする。

 そして、今回は「予価」販売であることを知らせないで注文を受けてしまったことが、トラブルの一番の原因だと思われるが、予価の販売においては、価格が決定するまでは、いくら与信を行わないからといっても、価格がはっきり決まっていないものに対して、先にクレジットカードナンバーを求める方法は、少々混乱を招くような気もした。
 しかも、ギャザリングのように値下げされていくならまだしも、値上げされる可能性があるのであれば、それなりの説明も必要だろう。

 そして当然のことだが、一旦クレジットカードの決済がされた後は、事業者の都合で価格を一方的に変えることは出来ない。ただ、今回の事業者では与信の後からも、まだ商品価格が変更される可能性が残っており、もし価格が後から変更されても再与信をすることで対処しているようであった。

 今は決済時、暗号化が当たり前になり、『インターネットでクレジットカードナンバーを知らせるのは不安』といった感覚を持つ人は少なくなってきていると思う。
ただ、そのかわりに取引においては、『この段階で相手にクレジットカードナンバーを知らせる必要があるのかどうか』と、少しでも考えるようにすると良いのかもしれない。