第十五話: プロとして

 
相談事例から“ちょっとためになるお話”

第十五話: プロとして

 相 談 概 要

 和装関連の商品を扱う事業者より、ネットオークションにて、帯(八寸名古屋帯)を2点購入した。落札価格は、1点約2,200円である。また、この事業者からは、落札金額のほかサービス料、事務手数料と称して、落札金額の1割を別途請求された。多分消費税5%とオークション出品手数料5%を、名前を変えて別途請求しているものと思われる。

そして、オークションの説明では、特に不具合があることは記載されておらず、また、商品についても中古品では無く、「新品」と記載されていたにも関わらず、実際に届いた商品は、ひとつはおびただしい数のカビがあり、もうひとつもかなりの数の茶色いシミが見受けられた。

そこで、事業者にこのことを指摘して商品の返品・返金を申し出たが、「ノークレーム・ノーリターン」を主張して返品に応じてくれない。でも、オークションのガイドラインでは、「業者の出品の場合、ノークレーム・ノーリターンは謳えない」とも書かれており、この対応には納得できない。
 確かに金額は少ないのかもしれないが、あまりに商品がオークション説明と異なる状態であるので、事業者には返品・返金対応して欲しいと思う。

 処 理 結 果

 相手方は株式会社であり、着物や帯を専門に扱っていた。オークション上では確かに「新品」といった表示があれば、当然、使用できない状態の商品が届くとは思わないだろうし、まして商品のデメリットについて何も説明が無いようであれば、返品・返金の主張は可能と考えられると助言した。
その上で、もし、今後あっせん等を希望するようであれば、実物の画像と事業者とのやり取りを送ってくれるよう伝えた。

 相談者から、あっせんをして欲しい旨と、画像その他資料が送られてきた。画像はそれぞれの商品について、各4枚程度送られてきており、いろいろな角度から撮影されたものであった。
 ひとつは黄色のもの、もうひとつは赤地に柄が付いたものであったが、黄色の帯に関しては、特に帯の端の方に多くの茶色いカビと思われる、まだらな点々が付着していた。赤地のものに関しては、さらにひどく、全体的に黒と白のまだらな点々が付着しており、白い点々にはカビの胞子まで確認できた。とても使用に堪えうる商品には見えなかった。

 相談者と事業者とのやり取りについては、特に感情的なぶつかりは感じられなかったが、落札後、最初のほうのやり取りでは、相談者が、請求されたサービス料や事務手数料についての説明を求め、それに対し事業者が「了承した上で入札しているはず」といった回答をしている場面、商品到着後、相談者が状況を説明し、事業者に返品・返金を求めたのに対し、事業者が「返品はご遠慮ください」の一言で回答している場面があった。

 ただ、画像においては「新品」として出品されていることを考えると、あまりにひどい商品状態が写されていたので、相談者の希望もあり、こちらから事業者に対し連絡を取ってみた。しかし、最終的に事業者からの返答は無かった。
 相談者には、今後は書面で直接交渉するよう伝えた。

 解 説

 ネットショップを開いている事業者が、扱っている商品を通販サイトだけではなく、オークションにおいても販売するといった方法は、今やどこでも見受けられるものである。  
また、事業者が、返品商品や修理品、アウトレット商品や在庫の処分のために、通販サイトではなく、あえてオークションに出品し、入札者に自由に値段をつけてもらって販売することは有効な手段だと思うし、商品説明さえ、きちんとされていれば何も問題は無い。
なので、もし販売する商品にキズや痛みがあれば、それら状態をきちんと説明して、そのかわり格安で販売することも特に問題は無く、消費者も格安で商品を購入する選択肢が広がるし、それで在庫がはければ事業者としてもハッピーだろう。

 今回の事業者も自らショップサイトをあわせ持つ、着物や帯を専門に扱っている株式会社であり、ショッピングモールにも出店していた。
しかし、この事業者に関して問題だったのは、ひとつ目として、「新品」と謳っているほかに、その道のプロとして扱っているであろう商品に対して、ほとんど商品説明をしていなかった点と、ふたつ目として、その商品に関して、あまりにその状態が悪かった点である。既に『安かろう悪かろう』『少々難あり』のレベルを超えていた。
その他、オークションシステム上において、ストア登録していない事業者が消費税を上乗せすること、また落札手数料を落札者に負担させることが禁止されているので、それらの名目を変えて、別途、落札者に請求していたところも問題であろう。こちらのあっせんの問い合わせにも一切返答をしなかった。

 一般的にプロが、その扱う商品に対しては、それなりの商品知識があると同時に、その商品に対して少なからず愛着をもって商売しているのではないかと考えている。まず、誰の目にも明らかに使用に堪えない商品を、平然と販売する神経が理解できない。そして事業者は「新品」として出品していたが、その「新品」いう表示に抱く消費者のイメージは、単に『今まで使用した人がいない』というだけではなく、『当然に使用できるもの』と考えるのがごく普通ではないだろうか。

 全く別の相談であるが、契約した着物で、クレジット契約書に書かれた商品引渡し日を大幅に過ぎても引き渡さなかったために事業者とトラブルを起こし、後から納品に訪れた事業者と玄関先でもめ、相談者が納品された着物を事業者の車に戻したところ、事業者が、その着物を相談者宅の塀越しに放り投げ、あわてて車で逃げた、というものがあった。相談者は着物が好きで、何よりも、着物をこのような扱いする事業者なんて一切信用できない、と言っていた。事業者店主は二代目で、着物に関してほとんど知識が無いまま先代より店を受け継いでいた。

そう考えると、これら一連の事業者の行動は、法律とかをすべて排除して原点に戻って考えたときに、これは果たしてプロのやることだろうか。実際にこういった事例はごく限られた事業者だけがやっていることと考えているが、是非、自分たちの扱っている商品に対しては、プライドと愛着をもって欲しいと思っている。