第十九話: 安い理由

 
相談事例から“ちょっとためになるお話”

第十九話: 安い理由

 相 談 概 要

 ショッピングモール出店舗から、Y社のエレクトーンを2台購入した。購入金額は2台で1,150,800円、付属品としてフロッピーディスクドライブを12,600円、そのほか購入の際に旧モデルの下取りを540,800円でしてもらったので、支払い金額は622,600円である。

この商品は、Y社のエレクトーンの新商品で、楽器として音の品質やリズム等を旧モデルから向上させたこと、楽器そのものを買い換える事なくユニット交換で上級モデルにできること、楽器の分解・組み立てを容易にできることで、どこへでも運べるようにしたこと、インターネットへダイレクト接続することで、エレクトーンのアップデート、ソフト、音源等を購入できる等、が大きな特徴であり、売りであった。
このうちの目玉の一つであるインターネットのダイレクト接続については、購入後、ショップにダイレクト接続しようとして必要な情報を電子メールにて問い合わせたところ、そのとき初めて、ダイレクト接続はできない、ユーザ登録も出来ない旨知らされた。

ショップからのメールには「その内容に対しては事前に承諾してもらっている」といった事実に反する主張が繰り返されていた。しかし、承諾どころか事前にそのようなデメリットについての説明は一切なく、この機能欠落やユーザ登録特典をうけられないことについては到底承諾できるものではない旨、再三主張したが、「承諾済みであり、ご理解いただきたい」のみの回答である。

商品に機能不能があることへの説明がなされなかったばかりか、「説明し、承諾を得ている」とウソの主張を繰り返され不信に思う。心情的にも非常に傷つけられた。
 商品の返品・返金を望んでいる。ただ、もし接続が可能になればそれでも構わない。

 処 理 結 果

 まず、購入したエレクトーンは、どうして「ダイレクト接続」が出来ないのかを相談者に訊ねた。すると、インターネットダイレクト接続には、Y社エレクトーンHPからオンラインメンバーとユーザ登録が必要であり、エレクトーンのシリアル番号とID番号が必要となる。このナンバーは、エレクトーン本体に貼り付けられているシールに記載されており、当該商品は、このシールがはがされた状態で納品されたということである。
店側の事情でこのシールをはがした状態でないと売れないということで、その際、シールをはがすことは何のデメリットもないという説明があり、商品の保証、不都合は、店で対応するということだったので、それならば、とシールをはがすことは承諾したとのことであった。

そして、Y社の窓口であるインフォメーションセンターに問い合わせてみたが、販売店を通して話を進めるように、という一点張りだったので保証部門に掛け合ったところ、『Y社は特約店以外には納品していない。どのようなルートで特約店でない当該ショップが流通しているかはわからない。しかしながらお客さんが商品を使えることを最優先にするべきである。出所がどこかなど一切の責任は問わないので、とにかくショップには何とかしてシリアル番号とID番号を調べて、ユーザに知らせるように言ってください』とのことであった。

そこで、相談者よりショップとのやり取りメールを送ってもらったところ、『商品は出荷時にシールをはがして発送されるため、ショップでは製造番号等の情報は一切分からない』とのことであった。また、『「ダイレクト接続は出来ません」と出荷の段階で、電話で伝えており、それに承諾したお客にしか商品を販売していない』といった主張が見られた。
 そして、ショップの主張から以下の事実が分かった。

・Y社は値引きと販売エリアがうるさく、その規約を破るとペナルティが発生する。Y社特約店の制度で ① Y社の積立をしている方 ② Y社の音楽教室に入会している方、 ③ショップの販売エリア外の方、には20%引きで販売が出来ない。
・Y社では殆どの地域で定価販売を実行し、又、音楽教室や積立をやっきとなっている。つまり、このようなことで他の楽器店が販売に入りこめず、自社で定価にて販売する事が出来る。Y社音楽教室に入会している方は、すでに、Y社音楽振興会の入会書に申し込みする事により登録されるため、Y社音楽教室の生徒には販売が難しい。
・しかし顧客の立場からすれば、何処で買おう自由のはずだが、各社のHPを見るとY社に強行に見張られているので販売価格は明記していない。
・ショップでは条件を飲んでいただける方にのみ20%引きで販売している。エレクトーンについては、鍵盤の棚の下のところにシリアル番号の黒いセロテープのような物に番号が貼って有り、この番号を調べますと、何処の楽器店が販売したかが分かり、メーカーからペナルティが発生する。このシールを剥離してOKの方のみに販売できる。
・保証書は同梱され、メーカーの1年保証は同じ。その後のサービスは有料となるが弊社で対応する。有料になればシールは関係ない。又、エレクトーン機種番号も電源を入れればエレクトーン中央の液晶に現れるので、下取りの時にも何らの関係は無い。
・シリアル番号の登録をしないと直接エレクトーンでのデータはもらえない。著作権の関係でパソコンからはダウンロードが出来ない。シリアル番号のシールを剥がしてしまうと製造番号が無いために登録が出来ず、シールが無いために製造番号が不明となるためダイレクト接続は出来ない。
・しかし登録しなくても他のエレクトーンで必要なデータをFDに落として自分で保存しておけば、問題なく必要なデータを取得する事ができる。また、楽器店の店頭でFDを買える機械から購入する事が出来る。

そこで、ショップの言うY社会の規約違反に対するペナルティの件で相談者がY社に再度訊ねたところ、『独占禁止法に引っかかるのでそのようなことができる立場にない。又、そのようなペナルティはない』ということだった。その上で、『どうしても番号が調べられないというなら他に番号を得られる方法がないので、その場合は番号のわかるものに交換してもらってください』と提案された。『ショップがY社の正規特約店でないので、Y社から直接はショップに掛け合えない』ということだった。
 
 そこで、こちらよりあっせんとしてショップに問い合わせたところ、ショップからは『インターネットで接続して、情報をもらえないので契約を解除したいということであれば、直接自宅のパソコンから情報がもらえる方法が今月出来たので、それで対処して欲しい』とのことであった。その上で「カードレーダーライター」を利用する方法等、具体的な方法が指示されていた。ただ、こちらが見てもいくつか条件があり、大分複雑な方法のように感じた。

 相談者は、『その方法は一見解決策のようではあるが、結局受けられないサービスもあり、納得できない』とのことであった。
 そこで、こちらから相談者には、さらにY社側で何か対処が可能かどうか問い合わせてみるよう伝え、相談者よりY社に直接対処をお願いしたとのことであった。こちらでも、その結果を待ってみることにした。

 その結果、『Y社の調査にて納期や流通経路より商品を流した特約店は浮上してきたが、やはり決定的な証拠は押さえられず正規の製造番号奪回は困難なようである。しかしY社のほうへは、ダイレクト接続のための番号として手続きを経て、新たに番号をもらうことができた』ということであった。
相談者からは最後に、『心痛な思いであったが接続が可能になる道筋が立ち、なんとか解決したことで、今は報われた気持ちである、自分が間違っているのかと、くじけそうになったこともあったが、こちらの訴えに同意してサポートしてくれたおかげである、感謝している』とのメールがあった。

 解 説

 エレクトーンといった商品の流通経路や販売方法においては、メーカー、及びショップの主張がどこまで正しいのかは、はっきり分からなかったが、このような販売ルートは存在しているようである。ただ、そうであれば、この相談者は個人でエレクトーン教室を開いているようであったので、そのようなことを全く知らないとも思えなかったりする。

 ショップが通常より20%安く販売するには、それだけの理由があった、と言うことであるが、ただ、いわゆる横流し品による正規登録不可のデメリット部分を、どこまで正しく相談者に伝えていたのかは最後まで疑問であった。
この相談者は、「シリアル番号の記載されたシールをはがすことについて、デメリットが無ければ承諾する」という認識であり、そのシールをはがすことにより正規登録やインターネットへのダイレクト接続が出来なくなることまでを承諾したわけではないことは、経緯からも良く分かる。「こういう方法を取れば登録なしでもデータが入手できる、若しくは接続できる」と後から言われたとしても、それに手間がかかったり接続環境に条件がある場合は、現実的な方法ではなく解決にはつながらない。

 安く商品を販売するには理由があるわけで、その理由に購入者に不利益なものがある場合は、その内容をきちんと説明する必要がある。その理由を納得した上で購入すればトラブルは発生しない。インターネット上では、消費者はサイト上の広告を信じて購入するしかないのであるから、デメリット広告も必要である。