第二十話: あるショップの憂鬱

 
相談事例から“ちょっとためになるお話”

第二十話: あるショップの憂鬱

 相 談 概 要

 弊社はファッション雑貨や洋品類を販売しているネットショップ。ショッピングモールに出店している。
 今、注文したお客様の1人から何度も電話があり、「今から商品を取りに行く」と強引に言われている。このお客様の住所は、弊社の所在地から車でおよそ5分のところである。

しかし、現在弊社はショッピングモールの運営により、会社概要に記載している方法でしか商品の決済や発送を受け付けられない。そう答えると、そのお客様は「送料や代金引換手数料で1,000円近くも取るのか」と声を荒げて怒鳴り始めた。「落ち着いてお話を」という、こちらの問いかけには一切無視で、一方的に「今からいったろか、こら」等の暴言を吐いてくる。

なので、弊社顧問の調査会社に相談をして、なんとか郵便局発送で送料をおさえるという方向でひとまず折り合いはついたが、このような電話等では、どのように応対すればよいのだろうか。
 一度店舗販売をしてしまえば、ショッピングモールから警告を受けて退店処分を受ける可能性があり、お客様へ何を申せばよいのかと悩んでいる。

 処 理 結 果

 ショップのサイトを確認すると、代金支払方法はクレジットカード決済か代金引換、商品引渡し方法は、宅配便を利用する旨、明記されていた。

 通信販売において、商品の引渡し方法や送料等の商品代金以外にかかる料金があれば、それを明記しておく必要があるが、それらが明記されているのであれば、注文者は基本的にそれに承諾した上で注文を行っていると考えられること、従って、そのショップサイト上にて注文を行ったのであれば、注文時の方法で商品を引渡しすれば良いと思われること、距離が近いからといって、サービスで行うのでなければ、必ずしも直接の商品引渡しに応じなければならないとは限らないのでは、と伝えた。

従って、直接の商品引渡しが、ショップとショッピングモールとの契約関係上、問題があるのであれば、今後同様の申し出があっても、ネット上で同意した発送方法や支払方法に則って欲しい旨、注文者に伝え、納得を得られるための説明をすることになろうかと思われること、もちろん、注文者からの甘受できない要望に対しては、きちんと断ることも必要であることを伝えた。

 ショップからは、このお客様からの電話は「今からいくぞ、こら!あほかぼけ!いったらぁ!」と身の危険を感じるほどの勢いであり、調査会社の顧問はおいているが、いざ自身の対応となるとおっくうな対応となってしまった、今後このお客様とのお取引は一切したくないと思っているとのことであった。
また、このような電話に対処するために、現在は電話の録音機能が無いので、調査会社の人と相談する、とのことであった。

 その後しばらくしてショップよりメールが届き、検討した結果、ショップサイトに以下の文章を載せようと考えている、とのことであった。

●重要なお知らせ
1・商品の引渡し等はいかなる場合でもヤマト運輸発送形態を使用致します。企業規定に承諾した上での注文とみなす為又店頭販売の実態のないゆえ商品引渡し等のクレーム及び暴言等は弊社顧問調査会社Z社に委託する旨ここに明記致します。
 弊社とショッピングモールとの契約上の問題及び規則ゆえ注文者の上記要望に関しては承諾不可とする。いかなる場合でも店頭受け渡し等の要望には一切お答えいたしかねる店舗運営を規定と致しております。

2・弊社に対しての根拠ない暴言及び身の危険を感じる表現等の内容を提示いたした方に対しては健全なる運営を行う為弊社顧問調査会社Z代表S氏に一任するかまえを記載致します。

3・商品受け取り拒否や理由なきキャンセル等の悪質なる注文者様に対しては一律2000円を手数料として頂戴するものと致します。


 ただ、ショップサイトのトップページで「重要なお知らせ」といったタイトルで、このような攻撃的な内容を掲載することは、ショップを訪れる、ほとんどであろう善意の顧客に対しても余計な不安感を与えかねないかと懸念された。
 内容自体に一部理解できる点もあるものの、せめてもう少し穏やかな文章で表記するよう助言した。

 するとショップからは、最近、代金引換受取拒否等のトラブルが多発しており、また、売上に応じてその件数も上がってきている現状があり、かなり神経過敏になっていたのかもしれない、指摘には感謝している、本日中に柔らかな表現等に変更し、お客様へのサービスとしてとらえていくように努力改善する、とのことであった。
 また、ついつい調査会社顧問の意見に耳を傾けがちになり文書掲載だけで後々のリスクを減らしたいという際立った自分の気持ちこそ改善していくべきだったのかもしれない、今の常連客様に対しても不安をあおらないような記載を心がけていきたい、とのことであった。

 解 説

 小さなショップでは、トラブル対応に不慣れだったために客との対応に悪戦苦闘をしたとき、その苦い経験から、そのようなトラブルを二度と起こさないように、ある意味やりすぎとも思えるような注意書きをしてしまう、といったケースを、過去に何度も見てきている。

 一番多いパターンは、このケースでも出てきているが、注文者の代金引換に対する受取拒否への対策である。注文者が代金引換で注文したにもかかわらず、その途中で気が変わった等の理由にて、キャンセル不可にもかかわらず一方的に受取拒否をするのである。その場合、商品の被害は発生しないが代金引換手数料が発生する。これは最終的にはショップ側が負担せざるを得ない。これを何とか避けようと思うのである。ただ現実問題として、代金引換を一方的に受取拒否するような性格の注文者から、その手数料を新たに取り立てることはまず不可能だと思うのだが・・。

 また、代金未払い客への厳しい制裁を堂々と謳うケースもある。具体的にはショップサイトでの個人情報の張りだし、加盟している組合からの代金回収業務の可能性、高額なペナルティ等、である。

 それら内容に、法的な、若しくは消費者保護の観点から問題があれば、それは絶対に掲載するべきではないのだが、それとは別に、そのような攻撃的な内容を掲載することで、少なからず他の客に対し悪影響が出ることは必至だと思われるのである。
残念ながら中には悪意のある注文者もいることは確かであるが、ほとんどの注文者は問題なく取引をしているはずなのであるから、そのような注文者に対しても悪影響が出るような記載は避けなければならないと思う。

 一番悲しいのは、今まで代金後払い式できたショップが、たまたま代金未払い・連絡不能の注文者が出たことにより、全てを前払い式に変更してしまうケースのときである。
 代金後払い式は確かにショップがリスクを負うが、それは資本力があることを意味し、また消費者保護の観点からも推奨できる支払方法である。ショップが注文者を、最初から不審な目で見るようにはなって欲しく無いと思う。

 このショップは、その後サイトを確認すると、調査会社の名称は全て消え、かなり穏やかな表現を用いた注意書きになっていた。