第二十一話: 準拠法ノープロブレム

 
相談事例から“ちょっとためになるお話”

第二十一話: 準拠法ノープロブレム

 相 談 概 要

 剣道用品を専門に扱っているネットショップより、5月ごろにスポンジ剣を7本購入(約10,000円)し、クレジットカードで支払い、商品も届いている。

ところが9月30日に、またスポンジ剣が7本送られてきた。カード会社に電話したところ、今のところ請求が来ていないのでカード会社のほうでは何も出来ないとのこと。ショップの所在地が韓国なので言葉が通じないのではないかと思い、まだ電話やメールはしていない。どうしたらよいのだろうか。

 処 理 結 果

 サイトを確認すると、ショップの所在地は【韓国 釜山市 金井區 回東洞・・・】となっていた。
ただ、サイトは全て日本語表記であり、明らかに日本人向けの商売をしているものと見受けられた。しかし、その文章は日本語として文法的にかなりおかしな部分が多く、フォント設定のせいか、ところどころ文字化けを起こしていた。

 さて、購入の申し込みをしていない商品を送り付け、その代金を請求することに関しては、日本であればネガティブオプションが考えられ、消費者が商品購入を承諾せずに、商品が届いてから14日を経過するか消費者が引取りを要求して7日を経過するまでに、事業者が商品を引き取らない場合には、事業者はその返還請求権を失うと考えられる。

 今回、具体的な請求がされているのかは確認できなかったが、ただ、この事業者は韓国であったため、規約を確認したところ以下の記載があった。

第7条(準拠法及び合意管轄)
1. 本規約の準拠法は日本法とします。
2. 本規約に関して紛争が生じた場合、当社所在地を管轄する地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とします。

 この内容だと、準拠法は日本法だが管轄裁判所は韓国(?)になってしまうように思われた。ただ、これはどうみても現実的な内容ではないので、恐らくこの規約は、どこかの規約をそのままコピーしたものと推定された。

 そこで、相談者には、とりあえず無理に返送することは避け、サイトが日本語表記である以上、電話やメールでも全く日本語が通じないとは考えられないので、まずは事業者には日本語で構わないから問い合わせをしてみるよう伝えた。
 その上で、クレジットカード会社には事情を説明し、この事業者からの請求があったらすぐに伝えるよう依頼しておき、その場合は、改めてこちらにも連絡するよう伝えた。

 解 説

 よく日本語表記の海外事業者サイトでトラブルになる相談を受けるのだが、そのとき、どこの国の法律が適用されるのか判断に迷うケースもある。大体、小さなショップサイトなどでは、準拠法などは予め書かれていないことも多い。

英文サイトの場合は、その事業者所在地の法律が、予め準拠法に指定されていることは理解できるが、日本語表記のサイトであれば、日本に住んでいる人以外に日本語を普段使用する民族はあまりいないと思われることから、事業者は明らかに日本人向けに商売をしており、それで法律だけ海外に指定されていたとしても、それは全く合理的ではないと考えたりする。ただ、過去に日本語表記のサイトで準拠法がカナダになっていた相談のケースもあった。
また、逆に海外に所在地があるにも関わらず『特定商取引法に基づく表示』とリンクを張り、そこだけ表示義務を律儀に守っていたりするショップもある。

 この事業者のサイトは、果たして意味を分かっているのかどうかは不明だが、所在地が韓国のわりに準拠法が「日本法」となっていたので、かえってこちらには好都合、何も問題なし、と思ったのである。それなら特定商取引法といった消費者保護法規も一緒に考えることが出来ると思われた。

 このようにインターネット取引では、いとも簡単に国境を越えてしまうのに、トラブルが起こった際、どこの法律を適用するかについては、今まであまり問題にされていなかった。そもそも消費者がインターネット上で取引する額自体が、国際紛争として解決が必要となるには小さく、今まで必要性がなかったからかもしれない。しかし電子商取引に関する準則などにより議論が進み、越境取引にて発生したトラブルに対する考え方が定まることについては、実は思っている以上に有意義なものではないかと思う。