第二十九話: 個人輸入代行の落とし穴(その2)

 
相談事例から“ちょっとためになるお話”

第二十九話: 個人輸入代行の落とし穴(その2)

 相 談 概 要

 日本語表記の、使い捨てコンタクトレンズを専門で取り扱っているサイトから、娘の使い捨てコンタクトレンズを片目8ヶ月分、インターネットを通じて発注し、同日午後指示のあったとおり、近所のコンビニエントストアから代金27,350円を支払った。
商品がなかなか届かないので住所等を調べたが、サイトには、所在地がシンガポールのような記載しかなく、電話番号等、それ以上の連絡先は分からなかった。

注文から3週間経ったころ、成田税関と厚生労働省から手紙が届いた。「米国からコンタクトレンズが届いているが個人輸入の限度を超えているので国内持込ができない」とのこと。米国から商品がくるとは知らなかったので驚いた。
こういった場合は、どうしたらよいのだろうか。

 処 理 結 果

 相談者は、当該サイトが輸入代行業者であることの理解が無かったため、その仕組みを説明した。サイト上には、会社概要に『コンタクトレンズ個人輸入代行』と記載されていたが、事業者の所在地はシンガポールとあり、P.O.BOX(私設私書箱)となっていた。
 商品が米国から届くことに関しては、サイト上に『カナダから国際航空便(USPS)にてお客様にお届けいたします』と記載があったので、北米より送られた可能性があることを伝えた。

 相談のケースの場合、個人輸入の限度を越えて国内に持込をしようとして、税関で止められたということなので、その注意点に関する記載があるのかどうか、サイト上で確認すると、「良くあるご質問」の文中の一部分に『個人輸入の場合、ご注文できる数量は1回につき両眼で2ヶ月分(使い捨て「ワンデータイプ」は4箱まで、「2ウィークタイプ」は2箱まで)となります』という記載があったが、非常に分かりにくく、初めて注文する利用者は見落とす可能性が高いことがうかがえた。

 従って、相談者は、個人輸入のシステム自体を良く理解しておらず、さらに個人輸入の限度を超える注文がサイト上で可能になっていた(システム制限がかかっていなかった)こと、その割に、それに対する注意喚起がサイト上で不十分であったため、このような事態に陥ったものと考えられた。

今後、注文した商品がどう扱われるのか、税関ホームページの「税関相談官」に訊ねたところ、『個人輸入の持込の制限を超えているので、個人輸入ではなく商売とみなされ、薬事法の許可を受けるか、若しくは輸入元に送り返すか、どちらにするかを成田の税関に対して本人からアクションをおこすことが必要』とのことだった。

そこで相談者には、すぐに成田の税関に連絡を取ること、また、事業者のアドレスにメールを送り、今後どのように対処するか、交渉してみるよう伝えた。

 解 説

 コンタクトレンズは高度管理医療機器に該当するため、国内で販売するには都道府県の許可が必要となる。しかし、個人が使用する限りであれば個人輸入が可能であり、輸入代行業者であれば都道府県の許可はもちろん必要ない。
従って、インターネットでは、国内外事業者を問わず、(その1)で紹介した医薬品等の個人輸入と同じぐらい、このような使い捨てコンタクトレンズの輸入代行も盛んに行われている。使い捨てコンタクトレンズの場合、このような輸入代行業者を利用すると、市販の約半額程度らしい。
 もちろん、(その1)のケースと同じく、個人輸入できる個数には限度があり、販売、譲渡はできないことになっている。

 このケースでは、個人輸入に慣れていない注文者が個人輸入限度を知らずに、その限度を超えた注文をサイト上で行ってしまい、税関で国内持込が止められてしまった。その原因は2つあり、ひとつはサイト上の説明が不十分であること、また、もうひとつは限度を超えていても1度に注文できてしまうといった、システム的な問題がある。
 このようにサイト側に問題があると考えられたのは、当該サイトにおいて、同様に税関でストップがかかって困っている、といった同様の相談を何件か受けているからである。

 また、この個人輸入代行事業者もシンガポールの海外事業者であり、しかも住所は私書箱、電話番号も記載が無いため、事業者と連絡を取る手段がおのずと限られてきてしまう。しかも、個人輸入代行業者であるから、形式上は個人輸入の事務手続きをしているだけであり、実際の購入先は北米のどこだか知らない会社になっているのである。

 また、同時に個人輸入に対して無知なまま、ネット上で取引を行う消費者も少なくない。このケースもサイトの説明不足はあれ、個人輸入ということがどういうものかを、もっと知っていれば避けられたトラブルなのではないか、とも思う。別のケースで、薬品名を検索して目当ての医薬品が安価で販売されているサイトを見つけ、そこから注文を行ってトラブルにあったという相談があったが、サイトはカンボジアにある個人輸入代行業者であり、相談者は個人輸入だとは思わず、安く購入できるのはジェネリック薬品だと思い込んでいた、というケースもある。

 病院での診療にどことなく抵抗がある医薬品や、安さが売りの使い捨てコンタクトレンズ、こういった商品を海外より簡単に個人輸入したい、と考える心情は分からなくは無いが、何か問題があれば身体に直接影響が及ぶ危険な商品でもある。個人輸入事業者は医薬品等に対する質問には一切答えられない。すべて自己責任である。
そのようなリスクを伴うぐらいなら、専門家のもとに、きちんとした入手を行う方が、身体の安全を考えれば正しい選択だと思うのだが。