第三十三話: 海外からの被害届け

 
相談事例から“ちょっとためになるお話”

第三十三話: 海外からの被害届け

 相 談 概 要

 バーレーン在住の相談者。
 Overseas Traders という会社より、三菱ふそうトラックを3台購入。内金として、330万円を口座へ振り込んだ(請求金額の半額)。
 その後、既に商品を出荷したと言っていたが、今は登録の書類に問題があったため出荷できないと主張、ここ3ヶ月、携帯も使われておらず、事務所も閉鎖されているため、連絡が取れない。もしかして、どこかへ失踪してしまったのかもしれない。
 返金を希望している。330万円の支払いを証明する書類は、すべて提出する。どうか解決してほしい。

 処 理 結 果

 サイトは既に存在しておらず、相談者より入手した事業者の住所を確認したところ、(近い町名はあるが)実在しない町名が記載された住所であることが分かった。そして、知らされているアドレスにメールを送ってみたが全く返信は無かった。電話番号は携帯電話番号のみで連絡不能である。

 以上の経緯より、詐欺か、それに近い被害と考えられたため、警察の協力が必要という旨を相談者に伝えたところ、海外在住のため日本の警察に被害届けを出せないため、こちら相談機関より被害届けを出してほしいと依頼があった。
そこで、海外在住者の代わりにこちらが警察に被害届けを出せるのかどうかを検討した。

 町名は実在しなかったが管轄と思われる警察署に相談したところ、刑事課が対応し、最初はダメとのことだったが、事情を説明していくと結構親身になって話を聞いてくれて、本部に問い合わせた結果をこちらに連絡してくれた。結果は以下の通りだった。

・委任状があれば、被害届の代理提出は可能。
・ただし、信頼性の問題で、代理人は公的機関であることが望ましい。(前例も少ないので、それほどきっちりした要件はないようである)
・委任状の様式は特になく、英語で良いが、訳をつけて欲しい。
・委任状の内容としては、当然盛り込まれるべき内容に加え、「被害届を提出したいという意思」が書いてあることが必要。
・これで受理はできるが、その後の捜査がどこまで可能か、被害者から話を聞いたり証拠をもらったりすることの困難さ、それらの信憑性等々を考えると、解決の見込みは高くない。
・詐欺なので、お金が返ってくる望みも薄い。

これらを相談者に伝えたところ、是非、委任状を提出するので、被害届を出したいという返事が返ってくるとともに、委任状も送られてきた。

 そこで、この件について弁護士に見解を求めたところ、以下の回答があった。

・警察が言っているのはその通りだろう。被害届を出したからと言って、目に見える効果的なできごとがすぐに起こることはないし、被害回復の可能性も低いと思われる。
・ただ、被害届を出しておくと、同種の事件が発生した場合などに警察が本格的に捜査をするきっかけになることはあり、そのときに連絡が来たりすることはありえる。
・こちらから被害者の代理人として告訴状を出すのか(その場合は、被害者本人は委任状を書いて、告訴状はこちらが書く)、被害者に告訴状を書いてもらってそれをこちらから警察に届けるだけにするのかの選択が可能。
・どっちにしても被害者が外国にいるのであれば、警察からの問い合わせ等はこちらにくるので、その対応は覚悟するほかない。
・公的機関性は問題なく認められると思われる。

 そこで相談者には、委任状をもらったが、仮に警察署に被害届けを受け取ってもらえても、今までの経緯より残念ながら解決の見込みが極めて低く、こちらではこれ以上のお手伝いが出来ないことを伝え、どうしても被害届けを出したいということであれば自力でやってみるよう伝えた。

 解 説

 日本に事業者に対する海外からの相談を受ける場合、日本の中古自動車の取引に関するものが多い。日本車は人気があるのだろう。また現地で中古日本車を購入するよりも、日本の事業者から購入して輸入するほうが種類も多く安価なのかもしれない。
 そのような購入層をターゲットに、インターネット上では英語表記された中古車販売事業者のサイトが多く確認される。

 ただ、中古車のインターネット取引では日本国内においてもオークションなどでトラブルが多く、引き渡された車に瑕疵があっても「現状渡し」を理由に事業者から対応がなされないことが多い。
 中古車は販売事業者による店頭販売が、現車確認できる点からも一番信用できるが、その次、カー情報雑誌にしろ、インターネットにしろ、それらはあくまで広告媒体であり、それでも現車確認が基本と思う。現車確認できないような取引は危険だと思われる。ましてや現車確認を前提としない、しかも海外に販売されるような中古車であれば、残念ながら一部の誠意の無い事業者によって、日本ですら買い手がつかないような状態のものが送られていく可能性が否定できない。

 このケースは事業者の所在地は全くの架空であり、連絡もつかないことから詐欺の可能性が高いと考え、また被害額が高額なことからも、警察の協力を検討したケースであるが、やはり海外在住地から動かないまま、解決に向けて何か行動をするということは、現時点ではなかなか困難だといえる。グローバルなインターネット詐欺は、やったもの勝ちに近い。