第四十二話: 内部告発

 
相談事例から“ちょっとためになるお話”

第四十二話: 内部告発

 相 談 内 容

 私は実際の被害者ではなく、それを売っていた会社のアシスタントを昨日までしていた。今は、その仕事はやってはいない。

 この会社のオンライン英語カリキュラムは、未だに中身が半分も作られていない状態で、昨年夏から売りに出された。契約書は無くパンフレットのみで、代表者の個人口座(日本)に直接お客様から1年分の代金(約15万円)を振込んでいただき、パスワードを利用してオンライン上の問題にログインし、問題を解いて行く形のものである(ダウンロードをするタイプではない)。

 受講者は、「受講したい」というメールを送りお金を振り込むと、そのメールにログインパスワードが送られてきて、問題へアクセスすることができる。一度ログインすると、何度でも同じ問題にアクセスでき、繰り返して勉強をすることができるようになっている。最初にレベル分けテストを受け、受講者のレベルに合わせたところから開始できるようになっている。

 実は、途中のレベルから上は作っていないので、数ヶ月間受講をすると、それ以上には進めなくなる。(完成率50%)頭の良い人だと、最初のスタートレベルが高いので3ヶ月程度で先に進めなくなってしまう事がある。
 お金を取っておいて、途中から商品がなくなるなら返金義務があると思うのだが、会社としては、一度払ったものは返さないし、挙句の果てには最初のレッスンに戻ってもう一度同じレッスンを繰り返してやれば英語力は上がる、とまで言い出し、結局お客様を訳の分からない理由でねじ伏せ、問題を出させないようにしていた。

 パンフレットにも、上記の商品のほかにKIDS用の商品を載せているが、そのもの自体が存在していない。また、出来上がっているレッスンも日本語が間違えていたり、文字化けしたり、音声が聞こえない、など問題が多くある。お客様から問題点を指摘されるたび、お客様のPCのせいにしてきた。

 こんな状態で、このような商品を売ることに耐えられず、私は会社をやめた。来月に代表者が日本に来日し、学校関係や個人に対して営業をしていくとの事であるが、この詐欺に近い商品を広めないために、何ができるのかわからず今回相談をさせてもらった。細かいことを言えば、代表者の経歴詐称もある。

 また、会社がアメリカのモンタナ州にしかなく、現時点で日本国内に支店が無いので、お客様が商品に対してクレームをつけること自体が難しい気がする。
 これは、実際に被害が出てお客様本人が訴えを起こさない限り何もできないのだろうか。自分がこのような会社と関わっていただけでも胸が痛む。ただ、実際に自分の本名を出して、会社を相手に物事を訴えるのは避けたい。

 処 理 概 要

 サイト上では、事業者の所在その他の会社情報が確認できなかった。ただ、相談者が言うには、会社はアメリカのモンタナ州にあるとのこと。サイトは英語の習得を目的としたサービスを提供しているようであった。
 また、サイトは日本語で、日本人向けにサービスを展開しているものと思われた。サイト上には、特に準拠法の定めがなく、日本の法律が適用されることと思われた。仮に海外の法律に準拠法が定められていた場合も、消費者は、自国の法律のなかの消費者保護規定(強行規定)を主張すれば、その規定が適用されるとされている。

 そこで、先ずそのサイトを利用する消費者に対しては、このようなサービスをネット上で海外から日本人向けに提供することは、特に適用除外に該当するものが無くまた定義には場所の限定が無いため、日本では特定商取引法の特定継続的役務提供における語学教育に該当すると考えられ、その場合、2ヶ月以上、5万円を超える契約の場合は、その場合は契約書面等交付義務や、8日間のクーリングオフ制度、中途解約権などがあること、必要事項の記載された契約書を交付していなければ、消費者であればクーリングオフの主張がいつでも可能と解される可能性があり、また、それ以外にも、いつでも中途解約する権利があること等、個々に契約した消費者に関しては、このような考え方により救済できる可能性があることを伝えた。

 ただ、直接このサイトに関して、相談者から知らされた内容をもって、すぐに何か直接規制等を行うことは難しいかもしれないこと、ただ、特定商取引法に違反する行為がある可能性があるので、その場合は主務大臣に対し、適切な措置を申し出るといった制度があることを伝えた。
 現在は海外にしか会社がないということなので、規制対象とするには難しいかもしれないが、情報提供としても申し出制度の利用を検討するよう伝えた。

 解 説

 このケースは、内部告発という形で寄せられたものだが、他にも不正を行っている事業者に対し、その被害拡大を防止するために何が出来るか、また、その事業者に対し何かしら規制や指導、対策をしてほしい、といったニーズがある。もちろん、それがどのような内容であっても、こちらにそのような権限は一切ないので、関係機関への紹介となる。

 現在、日本の消費者に向けて商売をしている海外事業者が、インターネット上には多数存在している。でも、内部告発を受けたり違反があるからといって、日本から海外事業者に向けて何か規制等をすることは、現実問題としては非常に難しいように思われる。また、インターネット取引の被害は被害金額も被害者も少ないことが多い。

 すると、結局は個人個人が申込みに際してリスクを踏まえ、充分気をつけるよう啓発するところで終わってしまう。サイト上の説明書きをよく読み検討するように、と。
 ただ、誰が見ても怪しいところならともかく、普通に取引しようと思えるようなサービスや商品、サイトのつくりであれば、それにひっかかったのも自己責任、ではやるせないので、こういったインターネット取引に対する規制に関しては、何か柔軟性を持たせた別の仕組みが必要な気がする。