第四十三話: メール通信情報の開示請求

 
相談事例から“ちょっとためになるお話”

第四十三話: メール通信情報の開示請求

 相 談 内 容

 個人間の古書売買サイトにて、12/9、注文が確定したという「注文確認のメール」が届いた(本、630円)。しかし、購入の覚えが全くないので、サイトに「不正アクセスによる購入操作の可能性が有るので、調査して欲しい」旨連絡した。後日、サイトからは「購入操作により確定した可能性が有る」と返答があった。

 そこで更にサイトに対し「自分は12/7にも同サイト上にて購入操作をしているので、そのときのログ(IPアドレスなど)と比較することにより、不正アクセスかどうか確認可能だと思うので検討して欲しい」と伝えると、後日、状況が一転し、「予約されていたものが、12/9に成立した」と回答があった。
 予約時のログの調査をお願いするが、「ない。取っていない」との回答で、他の電話オペレータに再度連絡すると、「取っている・取っていないを含め、ログについては、開示しない」ということであった。

 これに対し、更なる調査を依頼したが、サイトは「これ以上、調査できない」と回答したため、最寄りの警察署へ相談した。そこで、ようやく注文したとされる時間が判明したが、誰が操作したのかが明らかにならず、「個人情報にかかることなので」とサイトは開示をしなかった。
 予約をしたとされる日から2ヶ月経過しようとする頃、ようやくサイトがIPアドレスを開示し、そのアドレスは私がインターネット接続に利用する会社のものと判明し、当時、私のモデムに割り当てられていたものであった。

 私は、その注文したとされる時間に操作をしていないのはもちろんだが、実はそのとき、私が操作した履歴が同社サーバ上にない事が判明した。また、サイトから注文操作をすると自動的にメールが発信されるが、サイト事業者のサーバには、その発信した履歴が無いことが分かった。
 従って、私が操作した履歴を改ざん・消去し、新たに履歴を作り出して、購入確定に至ったようである。

 誰が改ざんしたのかは不詳だが、サイト側は、不正アクセスの痕跡が無く、サーバの誤作動、ウイルス障害を否定しているので、どうも人為的な操作であると思われる。それを確認する為には、メールを追跡して、受信していること・受信していないことが確認できれば、改ざん、消去が明確になると思う。

 そこで、第三者に当たるプロバイダに、メールの通信履歴の開示を求めたいのだが、どのような根拠により開示請求できるだろうか。個人情報保護法やプロバイダ責任法は適用されるのだろうか。
 また、アカウントとパスワードで制限されたサイトでの、売買の相手方に対して責任を負うように見られるが、今回の件の場合も、私に契約成立の責任が有るのだろうか。

 処 理 概 要

 先ず、相談者に対し「警察からは、どのような協力を得たのか」と訊ねたところ、先ず警察では「相談」として受けてもらい、その後、警察よりサイト事業者に調査をかけ、2ヵ月後にサイト事業者がそれに応じ情報開示したとのことであった。しかし、詳しい内容については教えてもらえず、サイト事業者が、「これ以上協力をできない」という回答で終わったということであった。

 また、サイト上では、相談者の意思とは別に、個人間における書籍の取引が行われているとのことだったので、その取引についてはどうなっているのかを訊ねたところ、取引された商品については、実際に相談者の自宅へ送付されたが、購入の意思がないので返送したとのことだった。代金はサイトに登録している銀行口座から引き落とし済みだが、出品者側の対応により、返金処理済とのことであった。

 そこで、相談者の話を整理すると、以下の状態と思われた。

・当該サイトでは、注文手続きした際に、先ず、サーバより自動的にメールが送られ、その後注文確定メールが届く。取引が成立すると、代金が登録している口座、若しくはカードにより、サイトを通じ自動的に出品者に代金が支払われ、出品者より商品が送付される。
・相談者には、注文した覚えもないのに、12/9に注文確認メールが届いた。商品も実際届いている。しかし、注文時に送られるはずの自動返信メールは届いていない。
・サイト事業者側は、警察の協力によって2ヵ月後に情報開示、その際、予約時間がわかり、そのときのIPアドレスは相談者のものであった。
・サイト事業者側のサーバには、注文時に自動配信されるというメールの発信履歴が無く、不正アクセスその他、ウイルス感染の形跡もない。
・商品の取引自体は、既に返品返金にて解決している。

 そこで、それら状況を確認するために、メールを利用しているプロバイダに、そのときの相談者のメールの送受信履歴の開示を請求できるかどうかを弁護士の意見を聞きながら検討したところ、今回の件の開示請求は、特に個人情報保護法やプロバイダ責任法には該当せず、通信の秘密に関しては、民事では解決が困難とのことであった。この点は、強制力のある警察での捜査が必要と考えられた。

 しかし、もし相談者のアカウントやパスワードが不正に利用されていた場合、それが例えば相談者の管理の手落ちから発生している場合は、それに対して責任が発生する場合もあると考えられた。この点、サイト上の利用規約のアカウントに関する事項にも記載があるが、ただ、不正な方法により悪用されていた場合は、その限りでは無いと思われた。

 従って、取引自体は既に出品者との話し合いにより無事解決しているため、今回の一連の注文操作における、これ以上の相談者側での確認作業には限界があるということを伝えた。

 解 説

 システムのトラブルに起因する可能性のある相談は、いくつか事例でもご紹介しているが、その原因が解明されて、すっきり解決、とならないことも多い。もたらされた取引自体には何らかの結論が出ても、最後まで、そのシステムに関わる原因が分からないままで、相談者が納得できる終わり方をしないからなのかもしれない。

 このケースも、この相談者の注文を、本当にサイト側の人間が意図的に操作をしたのかどうか、それとも相談者のIDとパスワードを利用して誰かが注文を行い、たまたまそのときシステムにトラブルが生じたのか、それともそのほかの理由があるのかどうか、そのトラブルの原因は一切分からないが、少なくとも本人が、その原因を探ろうとして動くには限界があるということである。また、全く関係ないプロバイダに、自分のメール送受信の履歴を開示するよう求めるための根拠も実質なく、今回、警察の協力が得られたということで、多少進展が見られただけ良かったと言えるかもしれない。

 そして、今回、幸い金銭的な被害が無かったことに関しても、もし、本人の手落ちによりIDやパスワードが第三者に不正に利用されて注文されていた場合、ともすればそれに対し責任を負わなければならない可能性もあり、それにもかかわらず事情を汲んで、いったん自動的に支払われた代金を返金にて対処した出品者側のおかげでもあろう。

 ただ、相談者はそれでもこの件について最後まで執着しているようであった。ただ、これは相談者の性格にもよるものであり、第三者的には、他のサイトでも同様な被害に遭遇しているようでなければ、あまりこれにばかり執着していてもどうかと思われた。