法律解釈2: コピーCDとその著作権

 
相談事例から“法律解釈と実務”

法律解釈2: コピーCDとその著作権

 相 談 概 要

  ネットオークションで、「Windows XP Pro SP1 & Office Pro 2003」を3,800円で落札した。それはVL(ボリュームライセンス:会社や学校において複数のPCに使用するため、その台数分のライセンスを購入すること)版で、倒産したところから流れてくると知った。他にも落札者が多数おり、違法性は無いと思って購入した。

しかし入金後、若干不安になり、さらに調べると、どうやら違法コピーらしいことが分かった。そこで商品到着前に出品者に対し「違法性はないでしょうか?」と聞いたが回答が無かった。まだ商品を発送していないのではと思い、その数時間後、解約を申し入れるが連絡は無かった。本日朝に商品が郵送で届いたが、封筒に連絡先など記入は無かった。
見ると、CD-Rに焼いてあるものなので違法コピーの可能性がさらに高まり不安になったが、完全に違法かどうかわたしには分からない。この出品者は今でも出品を続けている。

現在手元にある、このCD-Rの扱いについて、どうしたらいいだろうか。

 法 律 解 釈

1 落札したCDがコピー商品だった場合、落札者が保有していることについての違法性
(1)違法コピー商品であった場合
 落札者が、コピー商品を取得(落札)した時点において、違法にコピーされた商品であることを認識していた場合には、そのソフトをパソコンにインストール等して業務上使用する行為は、著作権法113条2項の「プログラムの著作物の著作権を侵害する行為によって作成された複製物を業務上位電子計算機において使用する行為は、これらの複製物を使用する権限を取得したときに情を知っていた限り、当該著作権を侵害する行為とみなす」に該当して著作権侵害となり、民事的責任を負う他、刑事罰の対象にもなってしまう。
 ただし、この規定は、「業務上の使用行為」に適用されるので、家庭内で業務以外にプログラムを使用する行為には及ばない。

 他方、取得(落札)時に違法コピーであることを知らなかった場合には、著作権法113条2項の「取得したときに情を知っていた限り」に該当しないので、当該ソフトを使用する行為は、著作権の侵害行為とはみなされない。
 もっとも、仮に刑事事件の対象となった場合、捜査機関は、客観的な事情から取得者が違法コピー商品であると認識していたか否かを判断することになると思われるので、本件のソフトの価格が小売価格に比して極めて廉価であること等、コピー商品と強く疑われる客観的な事情がある場合には、落札者にも、違法なコピー商品であることの認識があったと判断され、刑事責任を追及される危険が皆無であるとも断言できない。

 ですので、違法コピーであるとの認識を持ち、それでも構わないとう認識で購入した場合には、理論的には本規定により、当該プログラムの使用行為が著作権侵害となる可能性もあるので、慎重に対処なされるべきと考える。

(2)正規の商品であった場合
 本件のソフトが、コピー品でなく、売主が正規に購入した物を、そのまま転売したものである場合には、転売行為に著作権侵害はないので、落札者においても本件ソフトを使用することは問題はない。
 著作権法26条の2第1項では、著作物の譲渡行為も規制しており、販売行為自体も著作権侵害に該当することを定めているが、著作者の承諾の下に正規に一度販売された場合には、以後の再譲渡行為には規制が及ばないことを規定している(26条の2Ⅱ)。これは、著作物利用の流通促進を図るという法の趣旨から、いったん譲渡に許諾を与えた複製物に関しては、以降それが転々と流通したとしても、最初の譲渡行為によって著作権者の権利はすでに使い切ったものとして、それ以後の譲渡行為には権利主張を制限するという制度、「消尽」とか、「用尽」と呼ばれている理論である。
 譲渡した人は、複製物の保有が禁止されている(47条の2Ⅱ)ので、売り主は、手許に残ったプログラムの複製物を廃棄するかプログラムを消去する必要がある。

2 会社倒産品等の再販についての違法性
(1)正規のプログラムソフト商品(パッケージ商品)そのものの再販の場合
 (2)のとおり、倒産会社だとしても倒産会社が一度正規に購入したソフトであれば、著作権法26条の2Ⅱの消尽理論によって、その後の商品自体の譲渡行為は著作権侵害とはならない。なので、落札した商品の所有者(落札者)において、ソフトをパソコンにインストール等して使用することに問題はない(著作権法47条の2第1項)。
(上記のとおり、譲渡した人は手許にプログラムを保存することはできない)

 ただし、パソコンを購入した場合のプリインストールソフト版(OEM版)等は、当該プログラムソフトの使用が特定のハードと一体でなければ使用出来ないことや、譲渡を制限する使用条件となっている場合もあるので、それに反する場合、サポートを受けられない等、契約違反による不利益を被る場合がある。

(2)複製物の出品の場合
1.著作者の許諾無く、正規のプログラムソフト製品(ライセンス1個の場合)を複製して、そのコピー品を譲渡(販売)する行為は、「必要と認められる限度」の複製を超えており、著作権侵害となる。
 プログラムの著作物の複製物の所有者は、そのプログラムをパソコンにおいて利用するために「必要と認められる限度」において、プログラムの複製をすることができるにすぎず、例えば、CD―ROMをパソコンにインストールする行為である。従ってプログラムを使用するための複製(インストール等)やバックアップのための複製を超えて、他人に譲渡や貸与をするためにプログラムの著作物を複製することは、「必要と認められる限度」を超えた複製となり、著作権侵害となる。

2.また、サイトライセンス(使用者数やインストール台数に応じて、複数ライセンスを行い、ライセンス量を大幅に割り引く制度)における複数ライセンス(正規に受けたライセンス数)を切り売りするために、ソフトを複製して譲渡することも「必要と認められる限度」の複製を超えるものとして、著作権侵害の疑いがある。サイトライセンスにおける使用許諾の範囲は、特定の組織内のパソコンへのインストールに、その複製を制限している場合がほとんどであり、そのためライセンスも格安となっている。
また、サイトライセンス契約の趣旨に鑑みれば、当該契約にかかるパッケージ商品の販売をもって、プログラムソフトの複製権等が消尽の理論(著作権法26条の2Ⅱ)によって消滅すると見るのは疑問である。
 よって、このような方法で複製ソフトの販売をしている人がいるとすると、その行為も著作権侵害となる可能性がある。

3 同様の商品はオークション上にて常に出品されていることについて
 出品者が、正規に販売された製品を購入して、手許に複製物を保存せずに、パッケージ製品をそのまま出品したもので有れば、ネット上の販売行為によっても、「消尽」の理論によって譲渡禁止権の制限は及びませんので問題はないと思われる。
 もっとも、著作権侵害を伴う違法コピーを出品しているのだとすれば、直ちに警告の上、出品を禁止させる等の措置をとる必要がある。

4 その他民事的対応
 本件が、正規の商品を購入したつもりであったところ、届いた商品がコピー品であったという事案であれば、出品者の詐欺を理由に契約を取り消した上(民法96条)、代金を返還して貰うこともできる事案だと思う。また、落札者は正規の商品と思って購入していたのであろうことから、意思表示には要素の錯誤があり、契約は無効(民法95条)であると主張して、代金の返還を請求することもできると思われる。

 解 説

 取引したパソコンソフト等がコピー品ではないか、またはコピー品だった、といった相談は多かったが、特に最近、オークションサイトなどでは知的財産権の保護について力を入れており、トラブルは以前と比べて大分少なくなってきた感はある。
ただ、中には『相手方がてっきり国内だと思っていたら、いきなり海外からコピー品が送られてきた』『ドラマのDVDを購入したら、単なるテレビ録画物だった』といったケースもあり、トラブルは減少傾向でも、その内容は悪質化してきている。

 相談者は、確かにWindowsのOSが3,800円は安すぎ、と思っていたようであるが、『もしかしてこの商品がコピー品で、出品者が著作権法違反などで捕まってしまったら、出品者のパソコンのデータには、わたしの情報も入っているだろうから、そこからわたしも捕まってしまう可能性はあるのだろうか、心配なのはその一点』ということだったので、相談者の不安な思いを考え、法的に判断してもらったケースである。

 取引した商品がコピー品であったときに、相談者が真っ先に心配するのは、このケースと同じく、自分も著作権法違反で捕まるんじゃないか、という点である。それも口をそろえたように『相手のパソコンには、自分の情報が入っているからそこからバレるはず』と思うらしい。中には同じ出品者から4点も落札した後に、このような不安に陥っている相談者もいた。

 この相談者の場合も微妙な部分はあるが、実務的には、今後何か問題が発生してくることはほとんど考えられなかった。ただ、正規のユーザ登録手続きを踏まないままソフトをインストールして使用しても、今後不具合が生じたときにサポート等は一切受けられないだろう。

 今回はVL版であったが、ソフトのベンダに訊ねると、通常であれば、上記の解釈にもあるように、ライセンスのユーザ登録変更手続きをすれば、引き続き同じソフトを別ユーザが使用することが可能であるとのこと。長い目で見れば、そのほうがずっと得ではないかと思う。