現実には売買が行われていないバーチャル世界のアイテム、例えばゲームのアイテムや、そのアイテムを出すためのパスワード等、ゲームデータを、ネットオークションで売買することは問題ないのだろうか。もし、この売買を規制する法律等があったら教えて欲しい。
1、
まず、バーチャル世界のアイテムの売買についてであるが、これを厳密に考えると、「コンピュータデータの提供」というサービスを提供している行為、ということになるだろうと思われる。
このようなデータの提供行為を規律する法律としては、特定商取引法が考えられる。特定商取引法の適用を受けるサービスに「プログラムを電子計算機に備えられたファイルに記録し、又は記録させること」がある。
このような「データ」が「プログラム」に含まれるかどうかについては、解釈の余地があるが、特定商取引法における通信販売の場合の規制はそれほど遵守することが難しいものではなく、表示義務等なので、規制を守っておいた方が安全かもしれない。
2、
また、「データ」を何らかのゲームのプログラムから複製する場合には、著作権(特に複製権)の侵害に該当する、と判断される可能性がある。したがって、この点について誰のデータなのか、という点については注意が必要である。
3、
次に、「特定のアイテムを出すパスワードを教える」という点については、これは単なる情報の提供を行うだけですので、上記1で検討したデータの販売とは違い、特定商取引法や複製権の侵害については検討する必要がないと考える。
ただ、こちらの場合、いわゆる「ときめきメモリアル」のメモリーカード販売に関する最高裁判決が気になる。この判決は、本来はゲームが相当程度進行しないと実現しない筈の特定の女性キャラクターとのデートを、ゲームの初期段階において可能とさせるメモリーカードを販売していた会社が、著作権法違反とされた事案に関するものである。その論理は、本来進行すべき筈のゲームの進行を変更させたという点で、そのようなメモリーカードの販売は、著作物の同一性を侵害したというものである。
上記のような判決の論理が直ちに妥当するかどうかは、実際のゲームの内容がどういうものであるかによって異なってくると思うが、しかしながら、ゲームを相当程度進行させた結果として問題のアイテムを取得するためのパスワードを知ることができ、また、それがゲームの展開上非常に重要な点である、というような場合には「ときめきメモリアル」事件と事案が類似してくる可能性がある。
また、アイテムのデータそのものを売買する場合でも、上記の同一性侵害の点は問題となり得ると考える。
4、
なお、最後に、このようなバーチャル世界のデータやアイテムは、その存在自体が簡単に判別可能なものではない、という点に注意して欲しい。事前に購入を希望する方に対してこの点を十分説明しておかない場合、いわゆる錯誤による契約の無効や、あるいは詐欺による取消などの主張を受ける可能性がある。
PCやテレビゲームのようなバーチャルなゲームでは、ユーザやユーザの持つキャラクターがだんだん強くなっていくことに、そのゲームの醍醐味があると思うのだが、そこまで待てないユーザが、その成長過程を飛ばして、いきなり強くなりたいと願ったときにこのような商品に手を出すのである。しかし、複雑なゲームが増える一方で、このように思うユーザは多く市場は大きい。ゲーム上のアイテム等を現金にて取引する行為をリアルマネートレーディング(RMT)と言う。
また、ほとんどのオンラインゲームでは、そのようなRMTを規約上禁止しているが、現実にはそのようなアイテムや武器、ゲーム上で使用する通貨の取引を行うRMT専用掲示板等が、ネット上に多く存在している。また、大手オンラインゲームの社員が、ゲーム上の通貨を会社に無断で複製し、そのようなRMTを専門に行う業者に売っていたということで逮捕された事件が起こっているが、この場合は「不正アクセス禁止法違反」とされている。ゲーム上の通貨を無断で複製したことには触れていない。
しかし、このような商品の販売は著作権法上、かなり問題ありきな取引に思える。また、このようなグレーな取引は、詐欺の温床にもなりかねない、というか、現にこういったRMTで詐欺に遭ったという相談も入っている。その上、例えばオンラインゲーム事業者にRMTをしていることが見つかれば、規約違反として即アカウント停止措置を受けることになり、その後のサポートを全て拒否されてしまう。
このようなバーチャル世界のトラブルは、これといって具体的、効果的な解決方法が無いところが、一番大きな問題だと認識している。