友人から譲ってもらった人形用ウィッグが不要になったので、ネットオークションに数点出品したところ、こちらの予想をはるかに上回る高値(19,000円〜20,000円)がついた。オークション終了間際に、このウィッグの販売業者から「転売と同じような状況になっています、
この落札者には落札価格ではなく販売価格(定価4,800円)で売ってください」とクレームが入った。
出品したウィッグはこの販売業者から直接購入したわけではなく、友人がこのサイトから購入し、試着した後、「このウィッグ、うちの人形に似合わないからあなた要らない?」と言われたので、その友人から実費(定価+送料)で数点購入したものである。
ただ、私もこの販売業者サイトの販売規約に「オークション等での転売目的の購入を禁止する」というような条項があり、それに同意したうえで購入するシステムになっていることは知っていたし、過去にこのショップで一度ウィッグを購入したこともある。
でも、私も友人から購入したものの、自分の人形にかぶせてみてやっぱり似合わなかったので、いつまでも不要なものを手元に置いていても仕方ないので出品したのだが、直接このサイトから購入したウィッグじゃないのに、この販売者の言うことを聞かなければならないのだろうか。そもそも法的に「転売の禁止」と言うのは効力があるものなのだろうか。
ちなみにこの販売業者は、普段、販売価格(定価)での取引なら容認しているそうなので、私が「じゃあ次回からオークションに出品するときは、実費価格を希望落札価格に設定するようにしますね」と回答したら、販売業者が「今、販売規約に「実費価格」で売ることも禁止する条項を加えることも検討している」と言ってきた。
そこまで、販売業者が購入者の販売後のことまで干渉する権利は有るのだろうか。大体オークションの価格を操作しようとすること自体、オークションの規約に反していると思うのだが。
まだ手元には数点、今回のように友人から譲ってもらったり、直接このサイトから購入したウィッグで不要なものがあり、手放したいものがあるのだが、今後もオークションに出品することは、法的に問題があるだろうか。
1 事実関係について
① 友人が、販売業者から本件ウィッグを購入した際、「オークション等での転売目的の購入禁止」の規約がついていた。友人は転売目的でなく、本件ウィッグを購入した。
② 友人は、本件ウィッグを相談者に転売した。
③ 相談者は、本件ウィッグをネットオークションに出品した。
④ 販売業者から、転売を指摘するクレームがついた。相談者は、過去の取引経験から、販売業者が「転売目的の購入禁止」という特約を付していることを知っていた。
2 転売禁止特約の有効性について
本件ウィッグの前の売主である販売業者が、どのような文言の特約を付していたのか具体的に明らかでないため、転売禁止特約の一般論として検討する。
民法は、私的自治の原則のもと、当事者間で自由に契約内容を取り決めることを認めている(契約自由の原則)。したがって、売買契約に、転売禁止特約を付けることも可能である。
もっとも、転売禁止特約も当該売買契約の一内容であるから、その効力は、売買契約の当事者間に限られる(債権の相対性)。つまり、転売禁止特約違反があった場合、売主は、買主に対しては特約違反を主張できるが、原則として、転買人に対しては、特約の存在を主張できない。買主と転買人との間の売買契約は有効であり、転買人は品物を有効に取得でき、自由に処分できる。
3 本件の検討
本件の場合、具体的にどのような文言の特約が付されているのかが不明だが、単なる「転売目的の購入禁止」であるとすれば、いわゆる転売禁止特約とはいえない可能性がある。そこで、場合を分けて検討する。
(1)「転売目的購入禁止」の場合
買主の当初の購入目的が転売目的ではなかった場合は、買主が事情によって転売することは特約違反にならない。買主が相談者に転売すること、相談者(転買人)がオークションに出品して転売することは、いずれも問題ない。
なお、「購入目的」については、買主本人の主張だけでなく、購入数や転売状況などの客観的事情をもとに判断される。
(2)いわゆる転売禁止特約の場合
相談者は、本件ウィッグについての販売業者(売主)との売買契約の当事者ではないので、原則として特約の効力は及ばない。
ただ、相談者は、過去に販売業者(売主)と取引をしたことがあり、転売禁止特約の存在を知っていたという特殊事情があるため、例外的に特約を対抗される可能性がないとは言い切れない。
4 今後のオークション出品の可否
転売禁止特約の文言が具体的に明らかでないので、なんとも言えないが、販売業者が「転売目的の購入」のみを禁止しているのだとすれば、自分用に購入した後に転売することは自由である。
ネットオークションでは、出品者と落札者との間で自由に価格を取り決めることが可能であるから、ある意味その商品の持つ価値が一番分かりやすい市場ともいえる。
なので、ネットオークション上では、実売価格にプレミアが付いて、出品者が予想もしなかったような高い金額で落札されるといったことは良くあることで、それはオークションの醍醐味のひとつだと思っている。
ただ、そうであれば当然高値が付くことを予想して、ネットオークションでの転売目的で商品を購入する人も出てくるわけで、販売している事業者側にとっては、自分たちの販売している商品において、知らないところでそのような不当(?)な取引がなされるのを避けたい、といった心理が働くのも分からないでもない。販売時に、予め特約で縛っておこうとするのであろう。
事業者によっては、ネットオークションで販売することすら禁じているところもある。ある化粧品販売事業者は、ネットオークションで自社の商品が出品されているのを見つけるや否や、「すぐに出品を取り下げるように」と、出品者に警告を出すのである。輸入品を扱っている販売事業者では、「自社のみが、その商品について独占販売する契約をしているのだから、オークションで勝手に売買するな」と警告を出す。
そして、ファッションメーカーなどでは、「オークションで取引した商品についてのお問い合わせには応じられません」と表明しているところもある。ブランドショップなどでも、オークションにて個人間売買で入手した商品について「ニセモノか否かを判断して欲しい」と、商品を持ち込まれたりするケースも多いと思われる。
このようにネットオークションが大きな市場を形成し一般化するようになったこと、個人間で不用品を簡単に取引出来るようになったことで、その取引されている商品のメーカーや販売事業者にも、少なからずその影響が及んできていることが良く分かる。
もちろん、オークションで入手しようが何だろうが、今の所有者からの問い合わせに対し、分け隔てなく対応しているメーカーや販売事業者も多数ある。相談を受けていて、そのようなメーカーや販売事業者を見ると、とても心強く感じる。
そして、ネットオークションで行われる取引価格を、メーカーや販売事業者が縛るのは、やはり行き過ぎではないかと思う。もし、ネットオークションで自己責任を追及されるのであれば、逆に、ダフ行為や事業者と判断されるような状態でなければ、個人が行う程度の転売や利益を得ることぐらいは多めに見てもらえないと面白くない。