法律解釈11: 確認画面と錯誤無効・消費者契約法(後編)

 
相談事例から“法律解釈と実務”

法律解釈11: 確認画面と錯誤無効・消費者契約法(後編)

 相 談 概 要

 海外のチケット代行サービスより、インターネットのサイト(申し込みフォーム)からミュージカルのチケット(31,712円:チケット実費[立替金額22,000円]+手数料)を申し込んだ。入力内容確認画面は無く、最初の申し込みフォームの「送信」ボタンを押した直後、いきなり「フォームが送信されました」という画面が表示され、入力内容がサイト側に送信された。その後、ブラウザを閉じた。
ただ、サイト上、申し込みページに『手配開始』と書かれている時点が、具体的にいつなのか明記されていなかったということ、また、このフォームを『送信』することで、即ち金銭取引が始まる旨が明記されていなかったということにより、私は、この時点で、まだ支払い義務は発生していない(=契約成立前)と思っていた。申し込みにはメールアドレスも記入したが、その後、特にサイトからはレスポンスは何もなかった。

ただ、同日中に、友人がミュージカルの会場のホームページにて直接、チケットを入手することができたため、申し込みが重複してしまった。すぐにサイトに申し込みをキャンセルする必要が出てきた。しかし自宅に帰ってメールを確認すると、2通のメールが届いていた。1通目は「申し込み確認メール」で、申し込み内容が書かれており、2通目は「チケット確保通知メール」で、支払い金額と入金先金融機関が書かれていた。

私はすぐにキャンセル依頼メールを送信したが、「すでに立替精算している。キャンセルする場合でも、サイト記載のように100%の料金を支払う必要がある」という返信だった。確かにサイトにはその旨の記載はある。その後、何度か担当者とメールでやり取りをしたが、話は平行線である。

サイトの主張は、「申し込みフォームを送信した時点で手配は開始されている」とのことである。サイトは「申し込みフォームの内容をサーバ受信した時点で契約成立」と想定していたのに対し、私は「一度、お互いに申し込み内容の確認という手順を踏んでからこそ契約成立」と思っていた、という点が、今回のトラブルの原因だと思っている。

しかし、そもそも私がそういう間違いをしてしまったのは、サイト上、申し込みページの記述が曖昧なことが原因だと思う。私は「注文」ボタンや「同意する」ボタンの扱いについては、十分に理解しているつもりであるし、インターネットでの契約を(金額の大小に関わらず)年間何十回も行なっているので、だから私が正しい、とまでは言わないが、少なくとも慣れていないことによる操作ミスではない。注意深く申込みページの内容を読んだうえで、「送信」ボタンを押したのである。

 ただ、サイトも一旦私がチケットを買い取った上で、その買い取ったチケットの再販売のお手伝いはしてくれるといっており、私も、決してサイトを悪徳業者と思っているわけではない。しかし、このように一方的に支払いを求められても納得できない。

 法 律 解 釈

(前編の続き)
2 消費者契約法による不当条項の主張について

 本件では、チケットを消費者からの申込みに基づき入手するという、あらかじめ商品入手が確実ではない売買であり、「チケット確保」という用語も使用していることから、「手配」とはチケット入手完了ではなく、チケット入手に向けて事業者が行動することを意味すると解される。
 そもそも消費者側からのキャンセルは、通信販売ではクーリングオフもないことから認められないところ、本件サイトではキャンセルできることを前提とするような記載が見られ、そうすると、この売買契約は無理由の任意解除権を認める契約であると考えられる。
 ただし、この販売方法は既に入手済チケットを販売するのではないという特殊性があること、無理由任意解除権を認めていることから、申込みのキャンセルに伴う損害賠償予定を規定することは、信義則に反して一方的に消費者を害するとまではいえないと思われる。したがって、消費者契約法10条(※1)にいう不当条項であるとはいえない可能性が高いと思われる。

 しかし、事業者はキャンセルに代金全額請求をしているが、このように申込み後のキャンセルを認めた上で、常に損害賠償として全額の取消料を取ることは、不当条項(9条1号)(※2)となりうると思われる。取得できるのは同法9条1号にあるように損害賠償の予定の平均的損害に限られると思われる。少なくともチケット取得前は、チケット代金分の損害はないわけだから、入手に伴う費用や手数料が最大限のものだと思われる。
また、キャンセルしたときにチケット確保済の場合にも100%請求というのは、チケットを事業者の手元においたまま全額を請求できることを認めることになるので、当然チケットの価値を差し引いた上で平均的損害を考える必要がある。なお、近時の判例の動向からは平均的損害額の立証は事業者側に立証する責任があるものと思われるので、事業者は平均的損害額の立証が必要となる。

 今回の件においては、相談者の解除権を認めた上で、その平均的損害額を請求するということになると思われる。そしてその額は、本件ではチケット確保済のようなので、コンサート開催日までの期間などから転売可能性を考慮した上で事業者が同種事案で一般的にこうむると思われる損害額を平均的損害額として請求できると判断される。

(※1)
(消費者契約法)
・消費者の利益を一方的に害する条項の無効・・第10条
民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

(※2)
(消費者契約法)
・消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効・・第9条
次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。

 一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分

 解 説

 消費者契約法には「消費者契約の条項の無効」として、第8条から第10条に、消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とすることが定められている。 
第8条は「事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効」として、例えば「どのような被害が発生しても一切責任を負いません」「届いた商品に不良があっても交換・返金・修理等は一切出来ません」のような条項を指し、第9条は「消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効」として、今回のケースのような「キャンセル料100%」という内容や、「代金5,000円の支払いが遅れたら損害賠償金として延滞1日につき1,000円加算されます」といった条項、そして第10条は「消費者の利益を一方的に害する条項の無効」として「代金はいかなる理由があっても返金しません」のような条項が該当すると思われる。
 相談を受ける際にも、問題となる条項が、どれに該当するのかをきちんと把握しておく必要がある。

 この件では、サイト上に「どんな事情があっても一切のキャンセルが出来ない」という記載こそなかったのだが、「注文後はキャンセルしても料金の100%がかかる」といった旨の記載があった。しかし、キャンセルしてもしなくても、同額の料金がかかるというのはどう考えてもおかしい。事業者は「じゃあ、キャンセルしなければいいじゃない」となるのだろうが、キャンセル不可と書いていないのだから、その主張もおかしい。

 ただ、事業者がキャンセルの際に、予めキャンセル料を設定すること自体は構わないと思うが、いつも問題になるのは、その額である。どう考えてもキャンセルにより、そんなに被害は出ないだろうと思われるような額が、キャンセルにより請求されることになっている事業者サイトも珍しくない。キャンセル料で儲けてどうするつもりなのだろうか。

 また、小規模業者がひしめくネットショップでは、消費者保護の意識が低い事業者が、残念ながらまだまだたくさん存在する。キャンセル料だろうが何だろうが、規約にさえ書いておけば何でもまかり通ると考え、その規約を盾に話が出来ない事業者もいる。
 以前、『輸入品につき一切返品等応じられません』と表記した上で、電化製品を安く販売するショップにおいて、購入した電気製品が動かないと苦情を言ったら、「ウチが輸入している商品は、大体半分は不良品。それをいちいち返品や交換に応じていたらウチは商売成り立たないじゃないか」と主張したショップがあった。ナイスな開き直りである。このようなショップに消費者契約法を一から説明するのは根気がいる。

 最終的に、この相談者は、自身が行ったダブルブッキングの責任は感じているとのことで、チケット実費[立替金額]に当たる22,000円を支払った上で、チケットの再販売をサイトに依頼することになったとのことである。