法律解釈12: 刑事と民事の詐欺

 
相談事例から“法律解釈と実務”

法律解釈12: 刑事と民事の詐欺

 相 談 概 要

 わたしは自営業者で現在かなりの借金がある。
そこで、貸金業者を紹介している『C情報センター』というサイトを見て、ここを最後の砦に申し込み、『C情報センター』に取次ぎとして2万円を支払い(その際戻らないことを納得の上で申し込みをして下さい、ということだった)、『Oプレス』という貸金業者の連絡先を教えてもらった。

そこに連絡したところ「審査に2ヶ月間/その間他社で借りないことの約束で10万円を預けて下さい」とのことで、現在保留している。審査は信用情報ではなく、ほんとに返済するかどうかを独自に審査する為とのことだった。10万円は、融資可能不可能に関わらず返却するとのことである。

これは、詐欺なのだろうか? やりとりしたメール等は保存しているのだが、訴えることは可能だろうか、また2万円を取り戻すことは可能だろうか。私も悪いのは良く理解しているがアドバイスが欲しい。

 ちなみに『C情報センター』所在地は東京都中央区、2万円の振込先名称は、郵便局のぱるる総合口座で名義『Cワールド』。『Oプレス』は大阪市淀川区。

 法 律 解 釈

残念ながら必ずしも詐欺とは認定し難いように思われ、したがって、問題の業者を訴えたり、金2万円を取戻したりすることは困難であると申し上げるほかにない。
詐欺には、刑法上のものと民法上のものがあるので、順を追って説明したいと思う。

1.刑法上の詐欺の成否
  刑法上の詐欺罪は、極簡単に申し上げれば、一般の人に財産を処分させるような欺く行為(これを欺罔行為という)をして、その結果として欺かれた(錯誤に陥ったという)人が財産を処分した場合に成立する(財産処分まで至らなかった場合は未遂)。

 本件の場合、C情報センターは、貸金業社に取次をすると言って、相談者から金2万円の交付を求め(返還しないと明言した上ですが)、相談者は金2万円を支払ったという事案である。メールにある「取次」の内容が何を指すのか必ずしもはっきりしないが、C情報センターが最初から「取次」を行うつもりがないにも拘わらず、相談者に「取次」が行われるものと誤信させ(錯誤に陥らせ)、相談者から金2万円をもらったというのであれば、詐欺罪が成立するものと思われる。

ただ拝見する限り、貸金業者を紹介するために金2万円支払うようにとあり、実際、貸金業者が紹介されているようなので、C情報センターが相談者を「だました」とは言えないように思う。ホームページの業者と金2万円の支払い口座の名義人の名義が異なっているので「怪しい」とは言えるかもしれないが、それだけで詐欺だといいきれるものではない。従って、いただいた情報だけで詐欺罪が成立するとは判断できない。

 なお、刑法上の問題は警察が証拠収集をする。従ってC情報センターが、本当に欺罔行為を行ったか否かは警察が調査すべきことである。相談者が手持ちの資料を最寄りの警察に提示し、警察の調査を促すことも有用かと思う。この点は約束できるものではないが、真実、詐欺行為が行われたようだと警察が認識すれば、警察も調査してくれるかもしれない。ただ、いただいた情報だけでは詐欺罪の成立は難しいと思われる。

2.民法上の詐欺の成否
 民法上の詐欺と刑法上の詐欺の大きな違いは、その効果にある。つまり、刑法上の詐欺であれば、詐欺を行った者が裁判を経て刑罰に服することになるが、民法上の詐欺は、当該契約を取り消して支払ったお金の返還を受けることができる。
詐欺とは何か、という点については、民法上のものであれ、刑法上のものであれ、大きな違いはない。相手を「だまして(欺罔して)」財産を処分させたということが重要である。

 本件で、C情報センターがどのように相談者をだましたのかは、相談内容からは必ずしも明らかではないが、結局の所、C情報センターの言う「取次」の内容にかかっている。そして、C情報センターは貸金業者を紹介すると言って、実際に相談者に紹介したように思われる。そうだとすると、民法上の詐欺も成立しがたく、金2万円の取り戻しも困難と思われる。

3.金10万円その他について
 以下は質問の趣旨からはずれるが、金10万円の支払いは慎重になるべきである。当該ホームページの内容は必ずしも社会から喜んで受け入れられるような内容とは言えないように思われる。また、ホームページ運営業者、振込先及び紹介された連絡先の名義人がいずれも異なっているのは、やはり「怪しい」とは言えるからである。

 なお、金融業者を紹介することは、貸金業の規制等に関する法律第2条1項の「金銭の貸借の媒介」と言えると思う。同法に言う「金銭の貸借の媒介」とは「金銭の貸付け又は借り受けを行うに際し、消費貸借契約の成立に尽力する一切の行為」と考えられているからである。貸金業の規制等に関する法律に規制されている行為は、都道府県知事又は内閣総理大臣の登録を受けなければならないが(同法3条1項)、当該ホームページにはそのような記載は見受けられない。
そもそも当該ホームページの運営主体も実はホームページからは明確ではなく、このようなことからも、C情報センターが相談者の要望に応えうるサービスを提供するかどうか疑問を抱かざるを得ない。

 相談によると借金に苦しんでいるようなので、債務の整理につき最寄りの弁護士会に相談されることも一つの解決策と思われる。東京では四谷と神田でクレジット・サラ金問題についての法律相談を弁護士会が行っている。資金のない方のために法律扶助協会(※1)もある。

(※1:民事法律扶助事業は2006年10月に日本司法支援センター(法テラス)に引き継がれている)

 解 説

 事例自体はどちらかというと詐欺とは少々はなれた案件ではあるが、解説に刑事上の詐欺と民事上の詐欺について分かりやすく説明されているので、その部分をご参照していただきたいと思う。

 明らかに詐欺の場合、まずは警察に行くよう助言することがあるが、警察に被害届けを受理してもらって捜査してもらっても、それで被害に遭ったお金が戻ってくるわけではない。民事的にも詐欺としての被害救済を別途考えなければならない。

 この相談者、まずは怪しい金融業者に10万円を払わなくて何よりであるが、金融業者を紹介しているサイト自体も法律上の金融業者としての登録がなく、とてもまっとうな事業者とは言いにくい。ただ、例えまっとうな事業者でなかったにしても、約束をきちんと果たせば詐欺には該当しないものと考えられる。ただ、このような事業者が紹介する金融業者だって、絶対まっとうではないと思われるうえ、今後その個人情報が流出して、さらに怪しい金融業者から次々勧誘がくる可能性が大いにある。
どちらかといえば、警察にはこちらを取り締まって欲しい。