法律解釈13: 30年前の商品の不具合・誰の責任?

 
相談事例から“法律解釈と実務”

法律解釈13: 30年前の商品の不具合・誰の責任?

 相 談 概 要

 先日30年前のブランド物のバッグ(グッチ)をオークションに出品し、17,500円で落札された。出品時の状態を写真とコメントで掲載の上 状態を見たままに記載して出品していた。

取引後、落札者が使用したところ、バッグの内張りが剥げ、そのときに入れていたポーチ等に付着してしまったとのこと。具体的には、化粧ポーチやキーケース、プリント類、財布、携帯が劣化したバッグの内側の革くずが付着し、とれないほどになってしまったということ、たった1度、3時間ほどの使用で、乱暴に扱ったわけでもないのに、このようなことになってしまったとのことである。
ただ、私は出品時に30年ちかく前のものであることは記載しており、バッグの内側についても、見たままに記載している。

私は商品の返品・返金には応じるつもりであるが、落札者から 内張りの交換費用、ポーチ等の修理代を請求されている。どうすればよいのだろうか。相手方からは既に内容証明郵便を送りつけられている。また、バッグのブランドには責任は無いのだろうか。

 法 律 解 釈

1 事案の概要

1.相談者がインターネットオークションでブランドのバッグを出品した。
2.相手方が落札し、バックを送付した。
3.バッグが古かったため、相談者が相手方にバッグを発送する段階では、既に鞄の中が汚れており、相手方の財布等鞄内に入れていた物が汚れてしまった。
4.相手方はバッグの返却、及び財布等について弁償を求めている。
5.相談者としては、バッグの返却については応じられるが、それ以上の財布等の弁償まではできない。

2 ブランドに対する責任追及について

 ブランド(グッチ)の責任追及を考えていたようであるが、すでに30年くらい前のバッグということで、この点については、無期限の修補特約(保証)のようなものをブランドが負担していない限りは、認められないものと考える。

3 相談者の責任

 相談者は5のように、バッグの返却については応じるとのことだが、民法上も相手方はバッグの返還を求めることが可能である(契約の錯誤無効、瑕疵担保責任による解除等が根拠となる)。
 相談者が汚れた財布等について損害賠償義務を負担するかという点だが、この点については、拡大損害が生じた場合の損害賠償の範囲の問題となる。
 拡大損害についても損害賠償義務が認められるかという点については、それが相当因果関係の範囲内にある損害といえるか否かによる。理論的には、社会通念上、債務不履行によって一般的に生じると考えられる損害(通常損害)、および予見可能な通常損害の範囲外の損害(特別損害)について損害賠償責任が発生すると考えられている。

 本件の場合に相談者が財布等の汚れについてまで、損害賠償する義務があるのかという点については、例えば、バッグがかなり傷んだ状態で、中に物を入れれば、内張りがはがれて物が汚れることが引渡し前に当然わかり得たにも関わらす不注意で気付かなかったような場合には、損害賠償義務が認められる可能性もありうると考えられる。もっとも、実際の裁判等では、当事者の立場や具体的事情を考慮しつつ、損害賠償責任を負担させるのが公平かという観点から先に損害賠償義務が存在するかを判断しているのが現状であり、仮に相談者に不注意があったとしても、直ちに拡大損害全部の賠償義務が認められるという結論になるわけではない。

4 紛争解決について

 相手方は内容証明郵便を送っているようであるが、内容証明郵便が送られたからといって、直ちに相談者に支払い義務が生じるというものではなく、あくまでも法律上支払義務があるか否かが問題となる。また、相手方が訴訟を提起して勝訴しなければ、強制的に回収することもできない。
 本件の場合、紛争になっている額が17,500円であり、たとえ少額訴訟であるといっても訴訟を行う物理的、心理的負担を考えると、訴訟により解決を図るといった事案ではないように思われる。

 解 説

 引き渡された商品を使用したことにより拡大被害が発生し、その損害に対する賠償請求に関するトラブルは多い。
ただ、通常新品を販売しているようなネットショップで発生することは殆ど無く、大抵はオークションでの個人間売買において発生している。また、相談が寄せられるのは、今回のケースのような、相談者が出品者側で落札者から請求されて困惑しているケース、逆に落札者側で拡大損害が発生したので出品者に請求をしたいが可能だろうか、というケース、大体同じぐらいの割合である。

 ただ、正直、返品・返金の可否については回答できても、その拡大損害の賠償請求に対して具体的な回答を返すのは難しい。法律解釈にもあるが、請求の可否やその額などは、その因果関係やその当事者の立場や具体的事情を考慮した上で決められるものと思われるし、例えばあっせんや調停などにより、双方において、かなり突っ込んだ内容を聞かないと見えてこない。発生しやすい割には、早期解決が困難なトラブルかもしれない。
 法律解釈の「4 紛争解決について」では、訴訟により解決を図るといった事案ではないと思われる、ということで、こちらでのあっせん等で解決したらどうか、という締めになっていたのであるが、最終的に合意が取れず、あっせんがかなわなかったのである。

 このケースでは、落札者側である相手方においては、多分取引したバッグの金額より、被害を受けた私物の方が高額だったのだと思う。だから、単にバッグの代金を返還するだけではなく、被害を受けたものの幾ばくかでも良いから賠償してよ、と言いたくなる気持ちもわからないでもない。
 【今どきの消費者:第16話】では、解説において、商品によっては出品に気を使って欲しい旨の事例を挙げたが、バッグであっても、その商品の不具合が原因で後からトラブルが発生することはあるのである。ただ、今回のケースはちょっとバッグが古すぎた。一方で個人が自由に楽しむオークション上で、出品に対して、だからと言ってあまり神経質になりすぎてもいかがなものか、とも思ったりもする。

 でも、何年も前の中古車をオークションで落札し、現地で引き取り、乗車して帰ろうと高速に乗ったら、いきなりブレーキが利きにくくなり危うく事故になる寸前で脇に停車しJAF呼んだ、という相談を受けたときは、ちょっとゾッとした。