法律解釈14: 間違いと気づかず使用してしまった!

 
相談事例から“法律解釈と実務”

法律解釈14: 間違いと気づかず使用してしまった!

 相 談 概 要

 ホームページや雑誌の広告を調べ、ある販売店より車のマフラー「アペックスN1タイタニウムマフラー」を購入した。電話にて在庫・価格を確認して、同日、振込みにて代金を支払った。
問屋から直送してもらい、商品を受け取り後、すぐに車に装着し帰宅したが、“もしかして違う商品ではないか?”という疑問を抱き、メーカーに電話連絡して確認したところ、品番・商品の形状等より、違う製品「アペックスN1マフラー」ということが判明した。両商品の違いは、素材・細かな部分の形状が異なるが、大まかな設計等は大体共通である。
装着のスケジュールが込み入っていたことや、まさか違う製品が送られてくるといったことをまったく考えもせずにいたため、細かな疑問点は仕様変更されたのであろう、とか共通のものを用いているのであろう、と思い、疑いもしなかった。

違う製品だと判明した後、すぐさま販売店にその旨を伝えたところ、回答は「装着してエンジンをかけてしまったのであれば返品は不可能です」とのこと。どこで手違いがあったかと問い合わせると、問屋とメーカーとの間での間違いとのことである。問い合わせても、ともに「使用したからには返品には応じてもらえないでしょう」「エンジンをかけたからには新品の商品として販売することは不可能」と言われている。

ただ、広告を載せている雑誌社からは「これらの製品であれば、双方を見たことがある方や詳しい方でなければ間違える可能性は大いにある」との見解をもらっている。また、そのメーカーに勤めている知人からも「一般の人に『この製品ですよ』と見せれば、ほとんどの方がそれで納得してしまうようなものだ」という意見をもらっている。

今回、販売店の話によると、確認をせずに装着してしまったのだから私に全責任があるような言い方だったのだが、本当にそうなのだろうか。そもそも手違いがなければ、このような事態には陥らなかったと思う。もちろん、私も確認を怠った点は落ち度だと思うが、販売した側にも間違った商品を発送した、という落ち度はあると思う。
無償で交換してもらえることに越したことはないが、交換する際の工賃までは求めようとは思っていない。ちなみにこの件以降、不便はあるが車には一切乗っておらず、マフラーをできるだけ新品に近い状態で維持しておきたいと思っている。これで装着に関して悪意がなかったことを証明したい。どんな意見でも良いので、お聞かせ願いたい。

 法 律 解 釈

 まず原則だが、販売店と相談者との売買契約は「アペックスN1タイタニウムマフラー」を目的物とするものだから、それと異なる「アペックスN1マフラー」が送付されてきても、販売店としては売買契約に基づく義務を履行したことにはならない。
したがって、販売店としては、依然として相談者に対し、「アペックスN1タイタニウムマフラー」を引き渡す義務を負っており、相談者はその引渡しを請求することができる。したがって、この意味で販売店の主張は必ずしも当を得たものではなく、相談者は本来の商品の引渡しを強く主張することができると考える。

 ただ、その一方で、相談者は販売店に対して、販売店から預かった形となる「アペックスN1マフラー」を返還する義務を負っているのだが、問題は、相談者がその「アペックスN1マフラー」を装着してしまったために、残念ながらこれをオリジナルの状態で返還する義務を履行できないことにある。
このような場合、販売店の相談者に対して「アペックスN1マフラー」を返還してくれ、と請求する権利は、金銭による損害賠償請求権にかわると考えられる。この損害賠償義務自体は、相談者に帰責性がなければ、これを支払う必要がないものではある。

そこで、本件では、相談者が実際に装着してしまったことについて帰責性が全くないと言えるかどうかが問題となると思うが、この点は相談者自身で、品違いに気付いたこともあり、「装着前にきちんと確認しておけば気付いたはずである」という販売店の主張が全く理由のないものではないと解される余地がある。但し、このことは販売店が主張するように、相談者に「確認をせずに装着してしまったのだから、全責任がある」ことを意味する訳ではない。

したがって、相談者としては、「本件では、通常、注文した商品が送付されてくると期待するのが通常であり、外見上そっくりな違った商品が送られてくるとは誰も思わないでしょう」と主張して、相談者には帰責性がないと主張してみてはどうだろうか。これに関連して、「レストランで、注文違いの料理が送られてきたときに、1口食べてから注文と異なる料理であることに気づいた場合と同じであり、こういう場合、レストランでは注文者が『これでいいです』、と言わない限り、本来注文した料理を改めて提供するのが当然でしょう」という主張である。
その上で現実的な解決としては、販売店自身にも外見がそっくりな商品を送付したこと自体、相談者がこれを装着してしまったこと即ち誤送付された商品の価値が毀損されたことに過失があることを主張して、相談者の負うべき損害賠償義務を軽減させる、即ち、新たな商品を送付してもらうにしろ、支払わなければならない金額をできるだけ低額にさせることだと思う。

 解 説

 事業者側の手違いにより違った商品が送られてきたが、外見上、ほとんど同じものだったために間違いに気がつくのが遅れ、交換を申し出たときは既に使用後だった、ということである。車のマフラーなんて、素人目にはほとんど区別がつかない。相談者が、まあ、ちょっと仕様が変更されたのかな、程度にしか感じなかったのであれば、その感覚は分からないでもない。

1度使用してしまった商品は、例え間違った商品を送ってしまっていたとしても一切交換や返品に応じなくても良い、とはならず、注文者に帰責性が無ければ損害賠償の義務を負わないと考えられる。ただ、それを証明するのは結構大変かもしれない。

 届いた商品を開封せずにそのまま放置して、いざ、使おうとして開けたら違う商品だった、でも既に定められていた交換返品期間が過ぎた後だった、というトラブルもある。通信販売の場合は『届いたものが注文した商品と違っていた』といったトラブルが避けられないので、商品が到着したら、すぐに開封し、注文した商品と間違っていないかきちんと確認することが必要である。