法律解釈15: 取引額以上の損害賠償請求

 
相談事例から“法律解釈と実務”

法律解釈15: 取引額以上の損害賠償請求

 相 談 概 要

 4ヶ月前、オークションでCD-ROMドライブを出品し5,100円で落札された。実際に落札者に会って商品の受渡しと料金の受取りをした。
受渡し後、1週間くらい後に先方から「CD-ROMドライブとパソコンをつなぐ『PCカード』が付いていない」との連絡を受けた。オークションでの商品写真にはPCカードが写っていた。

探したが見つからず、もしかしたら同じ時期にパソコンもオークションに出品し取引完了していたので、そのパソコンにPCカードが付いたままで発送したかもしれない、と落札者に伝え、また5100円を返金する旨も伝えた。その時落札者は、そんなに急いでいないとのことで、こちらで再度探しなおすことと、パソコン落札者に確認してみることになった。
ここから私の不手際なのだが、探しても見つからず、パソコン落札者に確認のメールを送ったきり、(パソコン落札者から何も返信がなかったこともあり)ずっとそのまま忘れてほったらかしにしていた。その間、落札者とのやり取りはまったくない。

そして、今になって突然落札者から『PCカードをメーカーから買ったので、その料金13,480円を請求する、すぐに銀行振り込みをしてほしい』とのメールが届いた。
このメールに対し私は『謝罪し、5,100円の返金には応じるが、いきなり13,480円の請求をされても困る。もし請求するなら事前に連絡してメーカーから購入することに対し私の了解を取るべきだ』と返信した。
落札者は『携帯電話に3度くらいしたが私が出なかった』とのことだったが、携帯電話に3度も連絡があれば、電話に出られないまでも着信に残り、折り返し電話が出来るはずなのだが、その痕跡は無かった。もちろんメールでの連絡も無い。また落札者からは、この件で、パソコン店などを色々探し回って労力を使ったとか、3ヶ月の猶予期間があったとの主張もあった。

私は落札額の範囲内の責任しかないと思っているのだが、そうでないと私の知らないところで勝手に修理などされて、仮に100万円かかったら100万円支払わないといけないことになると思うので非常に怖く思う。落札者の主張は正しいのだろうか。

 法 律 解 釈

(1)
 結論としては、相談者に13,480円の支払義務はないと思われる。理由は、以下のとおり。

まず、相談者がPCカード付きでCD−ROMドライブを売りに出したのか、が問題である。もし、PCカード付きでなければ、何の問題もないからである。
相談者は商品を実際に相手に会って引き渡しており、そのときPCカードがついていないことを相手も了解して受領したのであれば『PCカード付きではなかった』といえる可能性がある。しかし相手が『そこまで確認して引渡を受けたわけではない』といえば、それ以上の反論はなかなか困難である。
今回の場合、相談者がPCカード付きで写真紹介している以上、PCカード付きCD−ROMドライブを売りに出した、ということは争えないだろう。

(写真自体がないので断定できないが、ここから先は『相談者の写真は普通の人が見ればPCカード付きCD−ROMドライブと思うような写真だった』ということで話す)

そうすると、相談者はPCカード付きのCD−ROMドライブを引き渡さなければならないのに、PCカード付きでないCD−ROMドライブを引き渡したのだから、債務不履行責任を負うことになる。そして相談者は、もはやPCカードを引き渡すことができないのだから、相談者が負う債務不履行責任の内容は損害賠償責任である。
その内容は、通常発生すると考えられる損害の賠償で、具体的な金額は『トータルの
商品代金5,100円のうち、そのPCカード代金に相当する金額』と一般的にはいえる。

もっとも、PCカードが新品ならその代金も簡単に分かるが、中古品の場合は算定が困難である。あえて計算すれば、CD−ROMドライブとPCカードが別売の場合の代金を調べて、その割合を5,100円に掛け合わせて算定した金額、と一応いえるだろう。したがって、その金額が賠償すべき金額、ということになる。

ただ、相手にとっては、そのPCカードがなければCD−ROMドライブを買った意味がない場合には、自分でPCカードを別途調達し、その金額が多額になることもありえる。今回の件はこの場合である。
このような損害は、特別の事情によって生じた損害とされ、相談者がその事情、つまり相手が別途調達して多額の出費を強いられる、という事情を予測できた場合には賠償責任を負うことになる。

この点、相談者は相手に対して代金の5,100円は返金する旨、伝えており、また相手も急いではいない、と言っていたのだから、まさか相手が13,480円も出して調達するとは予測できなかったといえるだろう。もっとも、相談者は自分で落ち度があるといっているとおり、PCカードを探してみる、といったきりほったらかしにしていたのであり、その間、相手が別途調達することを予測できたのではないかとの反論もありえる。

しかし、その場合でも、5,100円で買った商品のなかの一品を再調達するのに13,480円もの出費をするということまでは予測できない、といえると思われる。
仮に、相談者が再調達費用を負担するという期待を相手に持たせたなどの事情があれば別だが、相談者は5,100円を返すといっただけで、上限でも5,100円しか払わないという意思を表示しているのだから、相手もそれ以上の出費をしないだろう、と相談者が予測してもやむを得ないだろう。
そして、ネットオークションで中古のパソコン周辺機器を購入するような人なら、同じように同程度の商品をネットオークションで調達することは可能なのだから、メーカーから正規の価格で調達することまでは予測できない、と判断しても公平に反することにはならないと思われる。
そうである以上、相談者は13,480円の賠償金を払う必要はない、ということになる。

(2)
次に、相談者は5,100円を支払うつもりのようなので、それを前提に5,100円を払う場合、その後のトラブルの処理の仕方についてお答えする。

まず、引き渡したCD−ROMドライブをどうするかをお互いに確認した方がいいだろう。また、今後はお互いに本件に関して一切の債権債務関係はない、ということを確認して書面に残しておくことをお勧めする。以上は、いずれも後々のトラブルを避けるためである。

 解 説

  オークションなんかは中古品を安く手に入れるには絶好の場であるが、取引金額が安価な場合、今回のように不完全な状態で渡してしまうことにより、相手方より商品代金より高額な賠償請求をされてしまった、というトラブルが発生することがある。
今回、出品側であった相談者も、まさか5,100円の、しかも中古商品の引渡が不完全だったからといっても、それを補うのに、相手方が正規でメーカーから調達してくるとは思わなかった、というのも良く分かる。

 このケースでは、相談者は相手方に「他から調達してきてもいいよ」とは言っていなかったのでまだ救われたが、実際にあるのは、取引後、相手方より、不具合のあったその商品を使う期日が迫っていて困っている、と言われ、とっさに「じゃあ、とりあえず他で調達してください」と言ってしまい、その結果、相手方は実際の取引金額の何倍もする同様新品を調達して、その請求を売主にすることがある。当然売主は、まさかそんな高いものを買ってくるとは思っていなかった、と言うことになる。

 中古車の場合だと、例えば10万円で取引した中古車に、説明に無い瑕疵があったせいで、その修理代やパーツの調達に30万円かかった、それを払えと言ってトラブルになることが非常に多い。オークションなどでやたら安価で販売されている中古車が、そもそもマトモに走ることを期待するほうも、正直おかしいと思うのだが、中古車も特に外車などになると、パーツの調達や修理代が国産車より高くつく。エンジン部分の修理となれば、かなり高額になったりする。
 でも、散々乗っていた中古車を出品する人なんて、大体どこか調子悪いなんてことは、ある程度分かって出品しているのではないかとも思ったりする。大分ガタが出始めた車を自分で高いお金を出して修理してまで乗ることを考えたら、現状渡しと書いて適当に安く売ってしまおう、なんて思う人も実際いるのではないかと思っている。
 そういった場合、売主に、結果取引金額より高額になってしまった修理代を請求しようとしても、そう簡単に応じるわけはない。確信犯であるから。残念だが、修理費全額請求で上手く話がまとまったためしはほとんど無い。

 あと、ちょっと違うが、よく魚を注文後、途中で個体が死んでしまうことにより引き渡せなかったショップに対し、その魚を飼うために購入していた水槽代金を請求する人や、PCを組み立てるためにパーツを注文し、それが何らかの事情で引き渡せなかった事業者に対し、他店で購入して揃えていたパーツ代金も請求する人がいる。口をそろえて言う言葉は「無駄になった」である。どうぞ別のショップで注文しなおして、無駄にしないようにしてください。