法律解釈18: オークション不正入札

 
相談事例から“法律解釈と実務”

法律解釈18: オークション不正入札

 相 談 概 要

 オークションで出品されていたヴィンテージジーンズを90万円で落札し、取引自体は正常に行われた。しかし、その後このオークション出品者による不当入札操作(吊り上げ入札)が行われたものと確信したので、その旨をオークションサイトに通告した。
オークションサイトは、出品者と、私が競い合った入札者のIDを、ガイドラインに違反したものとして削除した。そこで私は、このオークションが不公正な状況下で行われたものとして、出品者に対する取引の無効(返品と払い戻し)を主張している。

出品者とのメールのやり取りでは、私と競い合ったIDの持ち主は、出品者が働く店の顧客のようである。その出品者と、競い合った入札者のIDは店のパソコンを共有し、更に両者のIDに登録されたメールアドレスも共通であることを認めているが、互いに吊り上げ入札などの行為は無かったとの一点張りである。

そこで、このような状況において、取引の無効を主張することは可能だろうか。今後、警察、弁護士への相談や依頼などについて、どのような行動を取れば良いのかアドバイスが欲しい。

※ 以下は相談中に、相談者が一般法律相談を受けた回答である。

1.
吊り上げ入札の事実が実証されたとしても、これが詐欺罪になどの罪になるかどうかは無理と思われる。
2.
例えば、バナナの叩き売りや街頭販売などでは、「サクラ」という手法が一般的で、事実吊り上げ行為のようなことが行われており、このケースもそれに似ている。購入した側も自分で納得した値段で買っているということもあり、現状では、その様な行為を取り締まる法律は無い。
3.
あなたも、その値段で買っても良いという意思で入札し落札した訳なので、ある意味仕方ない部分もある。
4.
但し、吊り上げ行為についてはネットオークションのガイドラインにあるように禁止行為でもあり、そのオークション趣旨からすれば、不公正な状況下であったことには違いない。
5.
今後、ネットでの取引に関して、新たな法律や見直しが必要とは思われるが、前述のように現状の法律では、どうしようもない。
6.
また、別の観点で見れば、オークション側は吊り上げ行為を禁止している訳だから、事前に取り締まる事を怠った、あるいは何らかの対策を講じることを怠った責任に対する訴訟も考えられる。社会的な責任感から、オークション側と徹底的に戦う事も選択肢としては有り得る。

 法 律 解 釈

 出品者に対して取引の無効を主張することができるかだが、取消も含めて検討した結果、立証の点から困難かと思われる。

 まず、無効といえるかどうかだが、売却する意思の合意があり、その意思表示に無効原因があるかというと、これはないとしかいえない。しかし、出品者が競争入札者と共謀あるいは、競争入札者が落札の意思がないのにつり上げ入札が行われていたことがあれば、詐欺による取消(民法96条)の適用が考えられる。

 競争入札者が入札の意思がないのに、相談者の落札価格を上昇させることだけを意図して入札に参加していた場合には、相談者は「競争者がいるから、より高値を付けなければ落札できない」という誤信をしたのであるから、相談者が本来落札できた価格からつり上げたということになり、欺罔行為(相談者を騙して入札行為を行わせようとする行為)があると思われる。
 ただし、詐欺の欺罔行為は違法性がなければならない。取引にはある程度の「まやかし」はつきものであり、社会的に容認できない信義に反するような行為でなければ詐欺にはあたらないとされている。一般法律相談では、「サクラ」という手法が一般的であるから、それに類似しているので問題とすることはできない、との回答を得られているが、これは商取引上の駆け引きと同じと考えたからだと思われる。

 しかし、インターネットオークションでは、バナナの叩き売りとは違い、吊り上げ入札は、参加者が遵守するよう求められているインターネットオークションのガイドラインの禁止行為に該当していたのであり、またインターネットオークションは、参加者は全員が落札する意思をもって参加していることを前提に参加するのが通常でもあることから「サクラ」はいないだろうと思うのが一般的な認識と思われる。
したがって、信義に反し社会的相当性を欠いている行為であると評価できると思われる。販売業者と通じた「サクラ」がいることが一般にも認知されているようなバナナの叩き売りと同列には扱えないと思われる。

 出品者と競争入札者とが共謀していれば、出品者の詐欺と同視してよいと思われるので、96条1項による詐欺取消が可能と思われる。しかし、共謀がなく、競争入札者が単に値をつり上げるためだけに入札に参加していた場合には、出品者がそれを知っていたときのみ取消ができることになる(第三者の詐欺による取消。民法96条2項)。
 また、詐欺的な行為については、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求という考え方もある。これは、契約自体をキャンセルするものではないが、詐欺がなければ形成されたであろう価格との差額を損害として損害賠償請求するものである。

 ただし、証拠関係から競争入札者と出品者との共謀を立証することや、競争入札者が入札する意思が全くなく吊り上げの意図をもって入札に参加していたということを知っていた、ということの立証は、なかなか困難である。メールアドレスや店のパソコンを共有しているという事実だけで立証はできるかどうかは見解の別れるところかもしれない。
 また、刑事事件としてみるとしても、詐欺罪に該当するとしても詐欺のような知能犯の場合、民事事件よりいっそう立件がむずかしい犯罪なので、警察でも被害届や告訴は受け付けてもらうのには困難が伴うと思われる。

 解 説

 出品者が何処の誰かも分からないまま入札するネットオークションでは、かなり高額なほうの取引と思われるので、もし実際に吊り上げが行われていたのであれば、相談者の納得できない気持ちは良く分かる。

 ただ、実際オークションではガイドラインで禁止されているとはいえ、入札操作が行われていると見られるケースは、結構垣間見られる。もちろん、必ずしもみんなうまくいくわけではない。途中で「ターゲット」があきらめてしまえば、その「サクラ」がオークションのシステム上、落札してしまう。
 でも、もともと「サクラ」が商品を買う気はさらさら無く、出品者側もそれを承知なので、その結果、大体はオークション終了後わずか数十分のうちに、お互い「非常に良い」という評価と「このたびは有難うございました、また宜しくお願いします」という無難なコメントを残し、終了となる。評価欄のオークション終了日時と評価日時を見て、どう考えてもこんな短時間で取引が終了するわけが無い、という状況で良い評価が入っていたら、それは操作が行われていたかもしれないという、判断基準のひとつと考えられる。(その他「評価稼ぎ」の可能性も捨てきれないが・・)

 ただ、確かに出品者が本当に「サクラ」と結託して、第三者の入札を操作しようとしていたのかどうか、立証するのは難しい。落札時間直前に熱くなって、つい考えていた限度を超えた入札をしてしまい、落札後、冷静に考えてみたら、そんな値段で買うのはばかばかしい、と思ってキャンセルするのと、外見上何も変わらない。