法律解釈20: 福袋の中身(後編)

 
相談事例から“法律解釈と実務”

法律解釈20: 福袋の中身(後編)

 解 説

 12月20日に事業者が福袋を発送し、22日頃から、その福袋を購入した人たちから相談が入り始めた。相談内容では、届いた福袋の中身は、広告のような点数は入っておらず、大体は洋服が2〜6点、あとは髪飾りや靴下、ナプキン等で、総数でも5〜8点程度しか入っていなかったということであった。そして、サイズはばらばら、指定した商品も入っておらず、しみがあるという商品があったという人もいた。ほとんど全てにおいて、購入金額1万円に満たない内容だったようである。そのためにいっせいに苦情があがったということであった。

 24日になり事業者からも相談概要にあるような内容の相談が入っていた。そこにはメールで回答が来ても分からなくなる可能性があるということで、携帯電話番号が記載されていた。そこで、事業者に電話してみると、弁護士に相談をし、1万円未満、サイズ違い、あまりに内容が乏しいもの(洋服3点以下)については返品に応じるよう助言があったということであった。そこで事業者は、最初はその意思でいた、ということである。しかし、仕入れに170万円を使い、手元には40万円しかなく資金的に返品を全て受け入れるのは困難、ということであった。

しかも初期対応として非常に拙かったのは、その中で強硬なメールを送ってきた人10名弱に対しては返品対応、また、商品そのまま半額の返金に応じた人、そして手元の商品を追加発送対応した人もいた。すぐに資金的にも返品を受け入れられなくなり、メールに対応することも追いつかなくなったということである。
そのうち購入者たちが被害者専用の掲示板を作り、情報交換をし始め、事業者の対応に差があることがお互いで全てわかるようになり、かなりの速度でやり取りがなされている状態になったようである。

 そこで、その時点で入った相談者たちには「福袋の内容を全て知らせること」「事業者と連絡が取れるので、今後あっせんを希望するか」という質問をした。相談者たちのほとんどは、既に事業者とは連絡が取れなくなっていたためあっせんを希望したが、こちらで事業者と連絡が取れることを掲示板にかかれたことにより相談が殺到してしまった。最終的には50件を超える相談が入った。
 とりあえず、来た相談は全て受け入れ、福袋の内容を知らせるよう伝え、知らせてきたものから順に一覧をエクセル表で作成し、事業者にメールで送ることにした。ひどいケースでは、福袋の中身は靴下と髪飾りとズボンだけのものもあった。

 29日の段階では、既に速やかな返品・返金が出来ない状況であったので、事業者とは、今後購入者たちに対し、どのような対応が出来るか相談した。そのなかで、1月10日以降になれば、商品の追加入荷があるとのことだったので、それを購入者たちに追加発送することを検討した。最低でも合計で1万円、誠意を見せて、それを上回るような内容で商品を追加発送し、個別に個数を変えるのは人数的にも煩雑になると思われたので、購入者の希望サイズを一定の数量で追加する、といった内容で提案、事業者はその内容で了承するとのことであった。
 各相談者には、この内容を提案し、受け入れられるかどうかを一人一人聞いた。大多数は受け入れる旨、知らせてきたが、中には返金を主張する相談者もいたため、その場合は、再度直接交渉を続けるよう伝えた。

その間、購入者たちは掲示板で、マスコミに情報提供しようという動きが出て、それが功を奏したのか、1月5日に、民放キー局でのニュース番組にこの件が取り上げられた。相談者の1人が、その福袋の中身を公開していたのだが、これも拙かったことに、その後、事業者もテレビ局のインタビューに答えており、そこで「私も被害者」「13点〜17点入れる予定であり、入れるとは言っていない」といった発言が流され、購入者や相談者たちは、それを見て再炎上してしまった。また、それとは別番組において、こちらでも取材を受けた。

 ただ、この頃になると事業者は、だんだん自分のおかれた辛い状況を吐露するようになっていた。毎日100通届くというメールには、もう返金等の苦情ではなく、「死ね」とか「詐欺」とか書かれており、メールアドレスを出会い系サイトに無断で登録され、それによるサクラメールが大量に届くようになっており、恐くてメールボックスを開けることも出来ない、ということであった。こちらからメールで送る、各相談者とその商品内容リストも確認できないような状況であった。
 事業者は、その恐怖から病院に通うようになったと言うことであった。

 10日になり、事業者には仕入れ分の商品が入荷したかどうかを訊ねたが、その頃から事業者と携帯電話がつながらなくなった。何度か連絡を取ったが、それっきり連絡が取れることは無かった。
 最終的に各相談者には非常に残念ではあるが、事業者と連絡が途絶えたことを伝えたのだが、何十人といた相談者たちは、皆ほとんどすべてがその結果を受け入れ、こちらの今までの対応に感謝の意を伝えてきた。正直、何人かはクレームを寄せると思って覚悟していたのだが、不思議とそういった人はいなかったのが印象的であった。

 経緯は以上であるが、事業者たるもの、仕入れの量が分かるのであるから、福袋とはいえ販売できる個数を予め設定しておき、それを超える注文は受けない、若しくは受けられなかった分は代金を返金するのが当たり前の対応であろうと思うのだが、この事業者は、事前に注文を受けるだけ受けて前払いで代金を貰い、その後、全員に福袋の内容を「薄めて」販売してしまったのである。いかに、この事業者がプロとして未熟だったのかが良く分かる。

 この事業者は個人で20代の主婦であり2人の子供がいた。電話をすると、いつも電話の向こうで子供の声が聞こえ、相談者たちと全く同じ立場であった。だから注文者や相談者たちの思いは分かるはずだと思うのだが、それよりもすべてを投げ出して逃げる道を選んだようである。もう再びネットショップでマトモに営業することはできないであろう。

 そして、被害に遭ったのが小さな子供を持つ主婦であったというところが、またこの件を特徴的なものにさせた。小さな子供を持つという状況から専業主婦がほとんどであり、トラブルが発生した時期が年末年始にかかったということもあるが、基本的には社会人と同じように、一日中インターネット環境にいられるのである。
そして、専業主婦の結束力の固いこと、日中、家でひとり、小さな子供と過ごしているような毎日であれば、ひとつの話題で同じ境遇の他の主婦と盛り上がれるような掲示板は、大事なコミュニケーションの場だったのかもしれない。そこに被害者意識が加わると非常に大きなエネルギーになり、事業者を追い詰めるほどになる。当時の被害者掲示板の勢いは早く、その被害者掲示板をウォッチして、それを見て煽るためのスレッドが2chにできたほどである。
ただ、2chで「祭り」をしている相談者たちとは異なり、相談においては、相談者たち全員の個性を感じることができた。2chで連絡を取り合う相談者たちは、よく事前申し合わせをして、ほぼ同じような内容で、あえて個性を殺して相談を寄せてくる傾向があるのだが、相談者たちは、みなそれぞれ自分の個性が出ていた。ただ、どちらのケースでも、こちらは相談機関として、すべて個別対応を心がける。

そして1ヶ月も経てば、そのときの熱は冷め掲示板の勢いも減速し、状況を冷静に受け入れられる余裕が相談者たちにも出てきたのかもしれない。結果は残念なものであったが、大きなトラブルとしては、割と早く終息に向かったのである。