法律解釈22: 懸賞当選車にかかる費用返還請求

 
相談事例から“法律解釈と実務”

法律解釈22: 懸賞当選車にかかる費用返還請求

 相 談 概 要

 7月中旬、ショッピングモールが開催する懸賞に応募した。応募したのはK社という事業者が出品する中古車「クラウンロイヤルサルーン2500cc」で、7月下旬頃に当選のお知らせが届いた。お知らせには、登録費用や陸送費が約334,000円必要ということで、その後、正式な懸賞の結果と注意書き(中古車のため現状有姿引渡し、等)、料金振込先が書かれた用紙が送られてきた。改めて、K社には中古車がきちんと使用できることを確認した後、すべての内容に納得してK社の指定する口座に振込みをした。

その後、いつまで経っても納車日等の連絡がなく、お盆前にこちらから電話をして問合わせたところ、8月27日には納車をしますと約束してくれた。8月26日に確認の電話を入れたところ、明日(27日)に確認してお電話しますと言われた。
27日の午前中にK社から電話がかかってきて、「今朝整備会社に見に行ったら、クラウンが置いてあったが、整備士と話をしたら、足回りに不具合が見つかり、お客様にお届けしても2、3ヶ月でガタがくると言っていたそうです、クラウンがお届けできないので、他の商品を代わりにいかがですか?」と提案された。

約束も守らない、連絡も取ろうとしない会社なので信頼が無くなった事を伝え、最初に入金した金額の全額返還を要求したところ、「整備会社に15万支払ったため、お返しできるのは15万を差し引いた額になります」と言われた。
K社に電話連絡を何度もしているが、店長・社長共に外出中のため連絡が取れない、と言われる。携帯電話の番号も個人で使っているため教えられないとのことで、伝言をお願いしても折り返しの連絡は来ない。K社の従業員と話をしたところ、「車を送ればいいんだろ!」と言われた。不備のある車を送られても困る。ショッピングモールには報告した。

そこでK社には、こちらの希望は以下の通りであることを伝えた。

・振り込み金額(334,000円)+振込み手数料(420円)+書類郵送費(190円)+印鑑証明費用(400円)+車庫証明登録費用(2,500円)の合計で337,510円。
・現在所有している車を知人に売却することが決まっていて、8月27日に納車してくれないと車が無くなり困るため、これから新しい車を探すにしてもK社から別の車を受け取るにしても、再度車庫証明や車検などで2週間ほど代車を借りる事になる。なので、1日3,500円の14日分の49,000円を別途請求したい。
・郵送してある委任状と印鑑証明を返してほしい。
・来年4月に自動車税の請求が私の所に来ない事を約束し、もし自動車税の請求が届いた場合には責任を持って相手会社が全額負担することを約束してもらいたい。

 それに対し、9月1日に届いたK社からの回答は以下の通りであった。

・振込みした金額(334,000円)のみ返金する、それ以外の費用は返金できない。
・返金は9月16日までに銀行振り込みで行う。
・書類一式は今週中(9月6日まで)に到着するように送る。

そこで、334,000円以外の手数料等はK社に負担させられないものなのだろうか。こちらとしては、代車費用、その他諸経費の52,510円を返金してもらいたいと考えている。

 法 律 解 釈

懸賞に関する注意書きをみると、当選車両は現状有姿での引渡しで納車後のクレームは受け付けない旨を記載されているが、本件では、車両の状態に関する当事者間の事前のやりとりがあって、相談者は車両には問題のないこと及び、「事故歴、修復歴はなく納車後明らかな不覚が発覚した際は責任をもって対応させていただく」という説明を信じて、その後の手続をとっているので、本件キャンセルについては、相手方に責任があるといえると思われる。

但し、原状回復(支払った金銭の返金)以上についてどこまで損害賠償請求を求められるかは、「このようなケースにおいて通常発生しうる損害か否か」という観点から、通常制限されると考えられている。(「相当因果関係の有無」という判断基準である)

そこで、銀行への送金手数料、車庫証明登録諸費用、印鑑証明取得費用、書類郵送費用については「車両を受け取るための準備行為のためにかかった費用」として請求できると考えるが、代車費用の請求までは、現実に相談者に生じた損害としても、一般的にこのような損害が発生するものだと考えることは難しいと考える。

 解 説

 この相談に関しては、相談者に、この見解を伝えたところ、今回は334,000円の返金で良いということで、その後は、無事に返金されたことを確認して終了となった。

 この場合、もともとが懸賞品であったということ、中古車なので交換という考え方が難しかったという点がある。
中古車を懸賞品にするということも、少し意外な気がしたが、それより中古車はただでも、それにかかる諸費用に、別途33万円もかかるということも、なんだか意外であった。ただ、普通に当該中古車を中古車販売業者から購入するよりかは何十万円も安く手に入れられるという点では、確かに懸賞に当たったのかもしれない。

 約束が果たされないことによって発生する損害を、どこまで相手方に請求できるのか、このコーナーでもいくつか事例をあげているように、「相当因果関係の有無」、この判断にいつも悩まされる。実際何でもかんでも請求できると思っている相談者も多くいる。反面、こちらでは取引額以上の請求には、ほとんど立ち入ることができないということも多い。そういった相談者に納得いく説明をすることは、なかなか気を使うのである。