法律解釈23: メイド・イン・イタリー、実は中国産・・(前編)

 
相談事例から“法律解釈と実務”

法律解釈23: メイド・イン・イタリー、実は中国産・・(前編)

 相 談 概 要

 日本人経営のアメリカ(ニューヨーク)のネットショップサイトより、B社のイタリア製バッグを24,102円で注文した。サイトは全て日本語表記である。
商品説明には「商品はメイド・イン・イタリー。 カリフォルニア製、中国製のフェイクとは素材や発色、縫製が明らかに異なります」と記載があったが、届いた商品には中国製のラベルがついていた。しかも、一部ホッチキスでとめてある箇所もあり、商品説明からのイメージとは、あまりにかけ離れたものだったので、原産国について説明をもとめ、返品が可能か問い合わせるためメールを送ったが、返答が無かった。

メールを送った数日後には「商品はメイド・イン・イタリー・・・」の記述が商品説明から削除された。こうなると、そもそもB社の商品であったのかも疑問である。
しかもサイト上には、返品する場合、それが購入先のミスであっても商品の送料は返金しない、と予め取引条件の中にある。

その後、購入先からの返信があり、説明によるとサンプル商品にはメイド・イン・イタリーのタグがついていたため、商品説明にはメイド・イン・イタリーと記載したようだが、私としては、メイド・イン・チャイナとわかっていれば購入しなかった。
 さらに、購入先の説明によると、98%を中国で生産しても最終段階をイタリアに戻せばメイド・イン・イタリーになるとの事だが、この説明が正しければ原産国の表示自体に信憑性がないような気がする。
 国内のバッグメーカーに勤務している知人によると、生産の途中までを(例えば刺 繍など)海外で行っても、日本でバッグの形に縫製すれば日本製として販売するそう である。

しかし、今回のケースでは縫製の最終段階まで中国で行っていたものを、一旦イタリアに戻す事によってメーカー側がイタリア製としていたようだが、法律上の規定ではどうなっているのだろうか。返品は可能なのだろうか。

 法 律 解 釈

 
まず、本件で問題となっている購入先の会社はアメリカの会社だが、準拠法(どこの 国の法律が適用されるか)については、購入先のサイトで特に条項を設けていないため、日本語のサイトで、日本の顧客向けにビジネスを行っていることを考えると、店と顧客間で日本法に準拠する黙示の合意があったと考えられ、仮にそう言えない場合でも、契約の申込みをした国が日本なので、いずれにせよ日本法が適用されると考えられる。
従って、本件については日本法を前提にする。
(但し、外国で裁判になった場合などには、必ずしも日本法に準拠して判断されるとは限らない)。

 
まず、バッグは特定商取引法の「指定商品」で、インターネットでの販売は、「通信販売」に該当するが、通信販売にはクーリングオフの適用はない。通信販売の場合、返品特約の表示が義務づけられているが、購入先のサイトで本件バッグは返品ができない商品とされているようであるから、返品特約による返品はできないと思われる。

 
そこで、他の法律による規制を検討すると、民法上は契約をする際の意思表示は法律行為の要素(重要部分)に錯誤がある場合には無効であり(95条)、また、消費者契約法4条1項1号によれば、重要事項について事実と異なることを告げたことによりそれを事実と誤認した結果契約の申込みをした場合には、これを取り消すことができるとされている。
本件では、本件商品の製造地は中国であったにもかかわらず、購入先が「商品はメイド・イン・イタリー。 カリフォルニア製、中国製のフェイクとは素材や発色、縫製が明らかに異なります」とサイト上に記載した商品説明が、上記の「重要事項」(又は「重要部分」)について事実と異なることを告げたと言えるかが問題となる。

「重要事項」と言えるかどうかは、
(1)消費者契約にかかる物品の質、用途、その他の内容に関する事項で、
(2)消費者が当該消費者契約を締結するか否かの判断に「通常影響を及ぼすもの」と言えるかどうか、
による(同法4条4項)。
従って、重要かどうかは、当該取引の購入者の主観だけで決まるのではなく、一般的平均的消費者が通常重要だと考えるかどうかで決まる。

 解 説

 事例でもたびたび見られる準拠法の問題であるが、これに関しては、平成19年1月1日より、「法の適用に関する通則法」が施行されている。これは、国際取引における民事の法律関係において、どこの国の法律を適用するのかを決定する、準拠法決定ルールを定めた「法例」を見直したものである。「法例」では、当事者間の合意がない契約の準拠法は、契約をした行為地の法を適用するとされていたが、特にインターネット取引では、その行為地がどこだか分かりにくいという問題があった。

そこで、法案骨子では、「法律行為の成立及び効力に関する準拠法について、当事者による選択がない場合には、法律行為の当時における当該法律行為の最密接関係地法によるものとする等の規定を設ける」とされ、 また日本の消費者が海外の事業者と取引を行う際、準拠法が海外に決められていると、弱者の保護が不十分と言うことで、「消費者契約の成立、効力及び方式並びに労働契約の成立及び効力について、消費者及び労働者の保護の観点から、消費者の常居所地法又は労働契約の最密接関係地法中の特定の強行規定を適用する旨の主張をすることができるものとする」とされた。

 ネット取引にありがちな、もともと訴訟にそぐわないようなトラブルに直接有効的かどうかはなんとも難しいところではあるが、しかし、これにより、インターネットで海外事業者と取引を行った日本の消費者が保護されることになったことは、非常に有意義なことである。

(後編に続く)