日本人経営のアメリカ(ニューヨーク)のネットショップサイトより、B社のイタリア製バッグを24,102円で注文した。サイトは全て日本語表記である。
商品説明には「商品はメイド・イン・イタリー。
カリフォルニア製、中国製のフェイクとは素材や発色、縫製が明らかに異なります」と記載があったが、届いた商品には中国製のラベルがついていた。しかも、一部ホッチキスでとめてある箇所もあり、商品説明からのイメージとは、あまりにかけ離れたものだったので、原産国について説明をもとめ、返品が可能か問い合わせるためメールを送ったが、返答が無かった。
メールを送った数日後には「商品はメイド・イン・イタリー・・・」の記述が商品説明から削除された。こうなると、そもそもB社の商品であったのかも疑問である。
しかもサイト上には、返品する場合、それが購入先のミスであっても商品の送料は返金しない、と予め取引条件の中にある。
その後、購入先からの返信があり、説明によるとサンプル商品にはメイド・イン・イタリーのタグがついていたため、商品説明にはメイド・イン・イタリーと記載したようだが、私としては、メイド・イン・チャイナとわかっていれば購入しなかった。
さら購入先の説明によると、98%を中国で生産しても最終段階をイタリアに戻せばメイド・イン・イタリーになるとの事だが、この説明が正しければ原産国の表示自体に信憑性がないような気がする。
国内のバッグメーカーに勤務している知人によると、生産の途中までを(例えば刺
繍など)海外で行っても、日本でバッグの形に縫製すれば日本製として販売するそう
である。
しかし、今回のケースでは縫製の最終段階まで中国で行っていたものを、一旦イタリアに戻す事によってメーカー側がイタリア製としていたようだが、法律上の規定ではどうなっているのだろうか。返品は可能なのだろうか。
(前編の続き)
上記の商品説明の中で、カリフォルニア製、中国製の「フェイク」(偽物、つまりB社とは異なるメーカーという意味だと考えられる)とは素材や発色、縫製が明らかに異なる、としているが、上記説明は、B社以外の類似商品とB社製品の違いについて述べていると思われ、同じB社でもイタリア製と中国製とでは異なるという意味ではないと考えられるので、この部分は本件に直接関係しないと思われる。(もし、後者の意味で言っているとしたら、イタリア製のB社製品で無かったことは問題なく重要事項になると思うが)。よって、本件で問題なのは、単純にイタリア製と誤って表示した点と考える。
製造地や原産国は、通常(1)の「物品の質または内容に関する事項」にあたるとされているが、(1)の要件を満たしても、(2)を満たすとは限らない。
例えば、車や電気製品の場合、日本のメーカーでも中国等で製造することは頻繁に行われており、製造地によって品質等にも違いは無いことが多いと思われるから、この場合には、消費者が当該消費者契約を締結するか否かの判断に「通常影響を及ぼすもの」とまでは言えないのではないかと思われる。車や電気製品についてはむしろ、製造者が誰かという点に重点が置かれていると考えられる。
逆に、食品等については原産国がどこの国かで食品の質や内容に影響を及ぼす度合いは高く、(2)の要件も満たすのではないかと思われる。
それでは、本件のようなバッグの場合はどうかというと、これはバッグという商品に対する一般消費者の意識にもかかわってくるので微妙な問題であり、断定的に判断できる問題ではないと思うが、やはり一般的には、製造地がどこかという点については消費者の判断に影響を与えるのではないかと思う。
例えば、同じブランドでも、「イタリア製」と「中国製」では消費者に対するイメージは異なると思われ、購入先の返答のメールにも、品質は変わらないと言いつつも、メイド・イン・イタリーの方が日本の客にとってはイメージが良く受け取られていることを認めている。
購入先は、イタリア製でも98%の工程が中国で行われているのが実情なので品質は変わらない、としているが、そもそもそのような事実があるのかは定かでない上に、このような情報・知識は、一般的平均的な消費者が通常知っていることとは言えず、むしろ、一般的な消費者としては、イタリア製であれば、100%とまでは言えないとしても基本的な工程はイタリアで行うと考えるのが通常と思われる。
従って、現時点では、一般の消費者からすれば、品質についてもイタリア製の方が良いというイメージを持っているのではないかと思われる。
よって、製造地がどこかについては、一般的には消費者の判断に影響を与えるのではないかと思われるが、ただ、いずれにせよ限界事例と言えるので、裁判所が重要事項であると認定してくれるかどうかは微妙なところである。
以上から、バッグについて製造地が重要事項と言える場合には、相談者は、上記契約の取消・無効を主張し、返品をし、代金の返金を請求することが可能である。本件は購入先の主張しているとおり正規品だとしても微妙なケースであるから、相談者が購入先の言い分に疑問を感じ返品を望んでいるのであれば、購入先と返品について交渉してみることをお薦めする。
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また、送料についても購入先の誤った不実告知から生じた損害と言えるので、その賠償を請求できるのが原則であり、損害賠償の一部免責条項があっても、消費者契約法8条1項2号または10条により無効となるので、最初に支払った送料及び返送料の請求もできると考えられる。
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なお、製造地の表示に関しては、不正競争防止法の誤認表示にあたるとも考えられるが、購入先に不正の目的は無いと思われるので罰則の適用はなく、また、特定商取引法の誇大広告にあたる可能性があるが、本件契約の効力には影響しない。
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また、ホッチキスでとめてある点であるが、仮に、この部分が不良品だとすると、相談者は、不良品でない商品に替えてもらうように請求したり、債務不履行による損害賠償・解除等ができる(民法415条・541条)。
(前編の続き)
昨今の中国製品だって非常に優れているのだが、イタリア製と中国製、イメージ的にはどちらが良いか、と聞かれれば、一般的にはイタリア製の方が良いと答えるであろうことは容易に想像できる。ただ、消費者が、商品を購入するときに、どこに注目するかが、その商品の特質によっても異なっておるのも事実で、確かに産地がどこでもメーカーに重点を置く商品もあれば、産地そのものに重点を置く商品もある。
今回のようなバッグは果たしてどちらか、というと、確かに非常に微妙なところである。それがいわゆるブランド品であれば、生産地なんかどこでも、とりあえずそのブランド名がくっついていることが重要、というものもあれば、メーカーの名の通っていないものであれば生産地が重要かもしれない。ここは個別の交渉により解決を考えたいところである。
さて、注文者都合によらない返品にかかる送料に関しては、日本国内の事業者であれば、解釈のように事業者側が負担することになっているのだが、なぜか海外ではそれが通用しないことが多い。間違った商品が届いたり、商品が壊れていた場合の返品に関しても、なぜか注文者が返送料負担をするよう求められる。まして海外であれば送料も高額になるので、注文者は、国内事業者と同じ感覚でいれば納得できないのは当然なのだが、現実はそれが海外取引のひとつの姿でもある。前編で紹介した通則法が施行されても、それで海外事業者の意識そのものを変えることは容易ではない。
ただ、イタリア製であっても中国製であっても、どこの国であっても「ホッチキス止めのバッグ」なんていうものが、マトモなバッグではないことは共通していると思うが・・。