友人Mがオークションにて、ハイウェイカード(ハイカ)50,000円分をA氏から42,000円で落札し、現金送金し、配達記録郵便にて送られてきた。数回使用したところ特に問題が無かったので正規品と思い、メールでさらに50,000円分4枚(168,000円)追加したい、と申し出たらOKということだったので送ってもらった。そのうち私は2枚を購入したが、高速道路の料金所でカードが偽造であると発覚した。
送られて来たカードを全て返却し、10,000円のカードを送り返すとの約束をしたが、なかなか用意が出来ないとの理由で、とりあえず10,000円ハイカを2枚だけ送ってきた。しばらく待っていたが、残りのカードが送られて来ないので、現金で返金してもらうことになったが、そんな時、後から送られてきた10,000円のハイカも偽造であることが発覚した。
返金に関しては、直接取引を行ったA氏ではなく、そのA氏がハイカを譲り受けたとされるB氏という人物が払うということになった。B氏とA氏は20年以上の付き合いがあるらしく、B氏は以前に金券ショップの経営をしていたことがあるらしく、A氏はSI関係の会社の社長で1000人以上の人を使っているらしい。
こちらとしては、誰から支払ってもらっても良かったので了承した。しかし全額返済には程遠い2万円だけの入金だった。
B氏の情報は携帯電話番号とファックスのみで、どちらも連絡が取れない。そのためA氏に電話し「B氏と連絡が取れないから、あなたが責任を持って返済して下さい」とお願いしたが「B氏に連絡をさせます、私は逃げも隠れもしません」の一点張りなので、とりあえず信用してみることにした。
その後A氏よりメールで「B氏に電話をしたが繋がらなかったので、また改めて電話します」と連絡が入り、更に追加で20,000円の振込みをしてくれたが、その後連絡は無く、その事をA氏に問い詰めたところ、A氏は「B氏は、『講入した相手(現在は逮捕されているらしい)が正規物として自分に販売をした』と言っており、民法上の心理留保的にも賠償責任は無く私達も被害者であり、今まで善意で返済をしていた」と言い出した。
私は「あなたもカードを販売し利益を得ているのなら責任がある」と追求したら「1枚あたり1000円の利益で、配達記録の料金を差し引きすると5枚で2900円の利益しかなく、その分は返金する」と言い、返金してきた。
A氏は「これで私の責任を果たした」といっているが、本当にもうこれ以上要求は出来ないのだろうか。これは詐欺ではないだろうか。
(注:ハイウェイカードは平成17年9月15日に販売が終了され、平成18年3月31日24時をもって利用が終了となっている)
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結論から言うと、「心理留保的にも賠償責任はなく」という主張はできず、相談者の友人M氏は、相手方のA氏に対し、未だ返金されていない金額(文面からは、合計で42,900円の返金があったと思われる)を返すよう請求できると考えられる。
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A氏とM氏との間には、50,000円分のハイカを42,000円の代金で販売するという売買契約が締結されており、A氏は上記ハイカを引き渡す債務を負っているにもかかわらず、偽造され使用できないハイカを送ってきたのだから、M氏は、偽造でなく有効に使用できるハイカを代わりに引き渡すようA氏に請求することができる。そして、この引き渡し義務を履行しない又はできない場合、M氏は、売買契約を解除した上で、既に支払った代金の返還請求をすることができる。
上記の返還請求は、意思表示の錯誤無効を主張することによっても可能である。M氏は、偽造され使用できないハイカであることを知っていたとしたらそれを購入しなかったであろうし、一般人も同様であると言えるからである。
この点、オークションで購入するハイカは、特定物ではないのか、という疑問もあるが、オークションで販売している物でも、その物の個性に着目しない取引で、他から容易に入手できるものであれば、不特定物と言えると考えられる。本件のハイカの取引は、その個性に着目した取引とは言えず、他から容易に入手できるものであるから不特定物といってよいと思う(なお特定物と言えたとしても、完全履行請求の点を除いて、結論はほとんど変わりない)。
また、売り主の行為は詐欺ではないか、という点については、売り主が、ハイカが偽造であることを知っていたとしたらなり得るが、連絡先等を買い主に教えて、いくらか返金しているところを見ると、本当に知らなかった可能性がある。
さらにM氏は、B氏が偽造のハイカを売ったことに過失がある場合には、直接の契約関係にないB氏に対しても、不法行為責任(民法709条)を問うことができる。B氏が以前に金券ショップの経営をしていたことが事実であった場合、若しくは、現在も頻繁にこのような取引をしている場合には、上記の過失が認められる可能性が出てくると思われる。
相手方の心理留保(民法93条)の主張だが、これは、表意者が真意でないのに意思表示をした場合でも、取引の安全のため、原則として意思表示は有効であることを定めた規定であり、本件とは直接関係はない。
また、A氏が偽造のハイカであることを知らなかったとしても、買い主は上述のような完全履行請求、解除及び錯誤無効の主張が可能である。A氏は、自分が買った相手であるB氏若しくはB氏に売った人間に対し損害賠償請求するしかない。
注にも記載したが、ハイカは現在利用が終了している。利用終了の原因として、組織的に関与しているものを含めたカード偽造が、深刻な事態にまで発展していたという背景がある。未使用分はETCへ付け替えたり、払い戻しが行われている。
それを受けてか、数年前から大手オークションでも、高額額面のハイカは出品が禁止されていたり、高額の金券取引には必ずエスクローを利用することを義務付けている。
このケースも、取引したハイカが偽造であったことが判明したことが、事の発端になっている。
そもそも最初に数回使用できたとされるハイカも果たして本物だったのだろうか。もし、入手経路が同じと考えるならば、最初のハイカは、たまたま使用できてしまっただけなのではないだろうか。そのとき、偽造ハイカだと気がつけば、その後の被害は防げたかもしれない。
それとも、オークション上で取引したハイカは間違いなく正規品で、オークション外取引になってから、初めて相手方は偽造カードを用意したのだろうか。相談内容では、最初に販売したとされる人物は逮捕されているとの話であるから、もし、この件がそこまで手が込んでいるものとすれば、なんだか非常に怖いものを感じる。
取引に関しては、誰が誰から返金を受けることができるか、という部分であるが、このケースでは、先ず相談者がハイカを譲り受けた友人M氏が、直接の取引相手であるA氏からはもちろん、A氏にハイカを販売したとされるB氏に対しても、過失があれば不法行為責任を問うことができるとされている。A氏は、同じようにそれをひとつさかのぼる。そして相談者は、その友人M氏から代金を返してもらう流れになるのだろう。
オークション取引で知り合った人は、あくまでオークション上だけ、直接のお付き合いは避けた方が無難かもしれない。