法律解釈27: ソフトインストール時の不具合

 
相談事例から“法律解釈と実務”

法律解釈27: ソフトインストール時の不具合

 相 談 概 要

セキュリティソフトを同社ホームページから購入、インストール後、さまざまな不具合が生じてアンインストールを試みたが動作しなかった。

事業者に連絡し、ユーザーサポートセンターの電話指導により、数度にわたり修復を試みた結果、コンピュータがさらに機能しなくなってしまった。PCメーカーにも相談したが、そのやり取りの結果、コンピューターがさらに機能不全となり、結局、OSから全てリカバリーしなければならなくなった。

この間の業務停止、コンピュータ復帰のための専門家調達の費用、消失フアイル等の下記損害について、まずは知りたい。損害賠償額は書き物主体の個人事業主であり少額だが、同ソフトは量販店で大量に売られており、また同様のトラブルも多いと聞いている。おこり得る事態についての警告、注意など表示されていないなど、売り方そのものに問題があったのではないかと思う。

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商品購入費 3,850円 (アップグレード版)

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その後、およそ一週間、コンピュータの建て直しを試みた期間、コンピュータが使用できなかった損害。 一週間かかった理由には、まず、相談した事業者のサポート体制が貧困であり、電話はほぼ終日、話し中であり、ようやくつながっても朝の相談への返事が夜8時以降になるのが常態であったこと。間に土日が含まれたため、連絡不能であったこと。そのために業務停止時間が長引いたこと。その上で以下の損害を受けたと考えている。

1) 文筆業として、メールでの連絡、添付フアイルの送受信が不能となった。

2) コンピュータの建て直しに集中したため、日常業務を停止せざるを得なかった。

3) 執筆環境のかく乱が創造的業務に与えた影響。 以上、3点に伴う損害額、およそ10万円。

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最終的にOSをリカバリー、パソコン環境再設定のための業者費用。26,000円。

以上、13万円を請求したいと思っている。

また、ソフト使用に伴い同社との契約文書に同意する形ではあるが、おこり得る損害についての正しい情報がなく、サポートの質と性格、商品返還についての説明がないなど、その同意は法的に同意の意味を持つのかどうか疑わしいと思っている。

また、その後のサポート体制でコンピュータのレジストリを直接、操作することになる作業を素人にさせたこと、その結果としてコンピュータに再起不能の損害が与えられたことは極めて遺憾である。 このような市場に出回るソフトによる損害について、どのような対応をしたらよいのだろうか。

相談させていただく理由は、現在、野放し(に見える)のソフト販売のルールを確認させていただければと思ってのことで、金銭面の問題よりも法の論理を知りたいと思っている。

 法 律 解 釈

 問題のセキュリティソフト(以下「本ソフト」という)のインストールに伴う業務停止、消失ファイル等の損害については、次のとおりだと思われる。  

 

 一般的に、新たなアプリケーションをインストールする場合、殆どの場合、問題は発生しないが、コンピュータ自身との相性、既に、インストールされている他のアプリケーションとの相性により、不具合が生じる場合があり得る。

 このような不具合を全て回避することは困難であるため、通常販売されているアプリケーションソフトの約款には、このような場合に備えて、責任の限定条項が規定されているのが通常である。 最近はあまり一般的ではないが、現在のように、コンピュータの利用者が増加する前までは、このような場合に備えて、新しいアプリケーションをインストールする前には、重要なデータのバックアップをとることは重要なことでもあった。

 この観点から考えると、相談者の要求は、なかなか難しいものと思われる。

 

 しかしながら、本ソフトの場合、相談内容によれば、不具合が発生している率が高いとのことであり、もし、そうだとすると、インストール前に、データのバックアップ等をとる必要性を、もっとはっきり明示しておく必要性が高いと言える。

 実際に、当方で同社のウェブページを確認してみたが、このような不具合の危険性、データの消失等の危険性について、(インストールまでの手順を示した)「ご利用の案内」「ダウンロードする前のご注意」などのサイトでは、この点を明示してはいなかった。

 

 したがって、同社に対し、不具合の危険性についての注意喚起をもっと早い段階でするべきである旨を強く主張することにより、何らかの請求(損害賠償請求)をできる余地はあるのではないか、と考える。但し、もし、この点の主張が可能である場合でも、前記のとおり、予めバックアップ等は自分で行うもの、という観点からの過失相殺の可能性はある。

 解 説

 セキュリティソフトは特に相性問題があり、他のセキュリティソフトと共存させることは出来ないものとも考えられている。

従って、ワープロや表計算ソフトと比べ、インストール時に問題が発生して、正常に動作しないというトラブルが発生しやすい。さらに、製品版として店頭で販売されているものと比べ、ダウンロード版はトラブルが発生しやすい。 さらにさらに、それが原因かどうかは分からないが、サポート窓口はいつも混み合っており、日中マトモに電話が通じない、メールやFAXの返事か来ない、といった二次的なトラブルも発生しやすい。「サポートを受けるにはどうしたらよいか」といった相談を多数受けるのは、殆どがこういったセキュリティソフトベンダーに対してである。

 

 現在、セキュリティソフト無しのPCでインターネットやメールをやることは、命知らずな行為であるとも言え、また自分のPCとともに、他人のPCやネットワークにも被害をもたらすような脅威に、絶えずさらされている状態でもある。

 従って、今やなくてはならないこういったセキュリティソフトは、初心者ほど必要であり、その初心者が安心して使えないようなものは困るのだが、インストール時は、かえって他のソフトよりハイリスクだったりするのである。 あるベンダーが「無期限」が売りのセキュリティソフトを販売したが、これはソフト販売価格のうち、サポートにかかる費用の割合が高く、ユーザからサポートが必要とされるのは、インストール時と更新時が大半を占めるので、それをカバーできれば、1年更新だろうが無期限だろうが費用的には大差がなくなるから、という理由と聞いた。

 

 この相談者は、名前で検索するとそれなりに著書のある、ノンフィクション作家のようであった。他でもないセキュリティソフトをインストールして、まさか最終的にハードディスク内のデータが全てお釈迦になるとは夢にも思わなかっただろう。

 確かに誰でもPCユーザであれば、データのバックアップは常に必要とは思うが、あのOSから始まり、全てのソフトを再インストールしていくという苦痛は、例えデータのバックアップがあったとしても、あまり味わいたくないもののひとつである。しかもサポートが全然つながらない、回答が遅いというイライラがあり、しかも最悪OSが再起不能になるという危険性をはらむレジストリいじりをさせられ、サポートの言うとおりにしたら、PCそのものが再起不能になったのである。

 その点、全ては無理だとしても、事業者には幾ばくかの賠償請求は認めてほしいと、個人的にも思う案件である。