法律解釈28: 指定役務と前払式通信販売

 
相談事例から“法律解釈と実務”

法律解釈28: 指定役務と前払式通信販売

 相 談 概 要

姓名判断の人生相談の先生にアドバイスを頂きたく、サイトを見て7月28日に電話で申込んだ。家族みんなの関係があるから、家族4人分の鑑定となり「一人5,000円×4=20,000円」を29日に送金した。鑑定結果は3、4日とのことだった。

郵送してくれるものと思い待っていたのだが全く音沙汰がなく、8月4日受信メールの確認をしたら「蕁麻疹が出て集中して仕事ができない。週末まで待ってくれ」との内容のメールが来ていた。
メールを拝見した旨と「アドバイス頂けるように、引き続き待っている」とメールで返信した。

週が明けても連絡がなかったので、8月11日夕方電話をした。すると、「忙しくてまだやっていない、3、4日で出来る、パソコンの方に送信する」との返事だった。
8月15日夕方、再度電話をしたら、「まだです、やめますか?返金しますよ」と言われ、もうアテに出来ないと思い、郵便通帳の番号を知らせた。

9月1日、郵便局で通帳記入をしたら、15,000円の入金があったが、私が支払った料金は20,000円だったので 帰宅後すぐ「送金確認をしましたが金額が5,000円足りません。お忘れになったのか?何か理由があったのか?」とメールを送信した。
すると「常識としての解約手数諸費用を差し引いて送ってあります」とのメールが返ってきた。
しかし「3、4日位で鑑定できる」と答えながら、期日を守らない、まったく手を付けてもいなく、そちらから「やめますか、返金しますよ」とだけで、そのときもサイト上にも解約手数料に関して一言もなかった。

「解約手数諸費用とは具体的になんですか」と メールを送ると

『可愛そうな人ですね。
自分が何をし、何を言っているのか解っていない。
このような考え方をしていれば殺人者の心を持った人間を作り出すことになるのに。
それで無くともそれに近い人間が沢山増えている。
皆、親の心と育て方の問題である。
そのような心の持ち主に何を話しても自己中心の屁理屈しか帰ってこぬし、益々の闘争になって悲惨なことにしかならない。
そんな人に、どれだけ正しいことを明示しても通じないから、これ以上相手をする気はない。
自分の心をよくよく見つめて、それが子供や社会に如何に悪い影響を及ぼしているか考えて、どういう心を持つことが子供を殺人者としない心の持ち方かを真剣に考えるほうが余程大事です。
それがただしく理解できた時、このこともおのずと解決が付きます。
子供が社会に為したこととそっくりそのままの心を親も持っているということをしっかり理解することです。

もっと大事なことでメールください。
勝手なことを言っているのは貴方のほうだということをよくよく考えてはっきり解ったならお返事ください。
心を鋭敏にしてあるがままをしっかり見つめてみてください。
貴方の心が悲惨な人間を作らない心であることをお祈りいたします』

と、返信されてきた。

たかが5,000円なのだが、この鑑定師と名乗っている人は、もしかして、このように人の弱みに付け込んで「鑑定してやる」と言い送金させ、キャンセル料を騙し取る詐欺師なのかも?と思った。こんな誹謗中傷を受けたままでは気がおさまらない。

9月8日の朝、先方にメールをいれ、「債務不履行解除を主張いたします、事前の取り決めがない限りキャンセル料を支払う必要はない」と通知したが、現在、返信のメールは届いていない。

 法 律 解 釈

本件事業者と相談者との間では、7月28日姓名判断に関する役務提供契約が口頭で成立したものと思われる。その内容は、代金は先履行にて直ちに振込にて送金し、姓名判断という役務提供の時期は、契約締結後「3、4日以内」、すなわち期限として4日後(遅くとも1週間程度)を定めたものと考える(これを不確定期限とみても、契約締結後4日後に催告していることから結論は変わりない)。

この期限は債務者側の一身上の都合により遅滞し、複数回催告がなされた訳だが、遅くとも8月15日(=当初催告より約2週間経過時点)先方が「やめますか?」と返答した時点で履行への期待が極めて薄くなったものとして、解除権が発生したものと考えられる。

ところで、この時点で事業者側からの申し出に応じて合意により返金を求めているところから観て、本件では相談者は上記解除権を行使したのではなく、合意解除を行ったと考えられるが、その際、返金手数料については何ら合意されていない。
本件合意解除は、債権者(相談者)側の事情ではなく、債務者(事業者)の履行遅滞に基づき行われたものであることから観て、代金額の25パーセントもの手数料を控除する黙示の合意があろうはずはないものと思料する。
よって、事業者側としては、本件手数料を控除しうる理由がなく、合意解除による原状回復請求権に基づき、代金全額を返還するべきと考えられる。

なお、本件役務は易断(特商法2条4項・政令3条3項別表3、12号)に該当するので、商売の仕方次第では特定商取引法の適用も考慮に入れる必要が出てくる余地がある。
実際には通信販売として求められる一定事項の広告義務の不履行として業務停止命令、あるいは前払い式通信販売における通知義務の不履行として罰則の適用の可能性があろうかと思う。

 解説

この案件において、契約解除における返金やそれに伴う手数料に関しては、上記解釈通りであり、これについての解説は特に必要ないと思われるので、今回は、この「易断」という役務(サービス)の提供について、インターネット上で広告したり申し込みを受けたりする行為が、特定商取引法の通信販売に該当するということと、このケースで事業者(鑑定師)は何を守るべきか、という視点から解説したいと思う。

 サイト上には鑑定師の名前や住所、電話番号等の記載はあったが、解約手数料を含め、返品に関する記載は一切無く、また下記記載があった。

・遠方の方や来所できない方は《通信鑑定》… 電話・手紙・FAX・Mailでの鑑定をご利用ください。
・手紙・FAX・Mailの場合、約2週間以内に鑑定し、ご送付致します。
・《通信鑑定》の方は鑑定前に必要鑑定料をお問い合わせ、ご送金の上お申し込みください。

 まず、この相談での姓名判断は「易断」として、特定商取引法の指定役務に該当し、さらに今回のケースのように、ネット上で広告したり、電話のような通信手段を用いて申し込みを受ける際は、通信販売に該当すると考えられる。

 そして、通信販売において事業者は、先に代金を受け取り、その後“商品の引渡しや役務の提供に時間がかかるとき”は、「前払式通信販売の承諾等の通知」として、その申込みの諾否や受領金額、引渡し時期などを記載した書面を渡さなければならないとされている。
この書面は電磁的方法(メール)による代替が可能だが、その場合は予め申込者から承諾を得なければならず、それは書面または電磁的方法により承諾を得ることとされている。口頭で承諾を得ることは認められないと考えられる。

この《通信鑑定》を申込む際には先に代金を支払うことになっており、そうすると、代金を受け取った後に『遅滞なく当該商品を送付し、若しくは当該権利を移転し、又は当該役務を提供したとき』に該当しない場合は、「前払式通信販売の承諾等の通知」を行う必要があると考えられる。
このケースでは「鑑定結果は3、4日」とのことであったので、その点、約束通りきちんと役務が提供されていれば『遅滞なく』の但し書きに該当してくる可能性もあるが、サイト上では「手紙・FAX・Mailの場合、約2週間以内」と記載があるので、そうであれば、やはり事業者としては「前払式通信販売の承諾等の通知」を行う必要があると考えられる。まあ、申し込んですぐに結果が出るのであれば、易断というよりは、おみくじみたいなものだと思うが・・。

 このケースでは、最初、代金を支払っても何も音沙汰がないので、相談者は不安になっていたが、まさにそれに対処するために、事業者にはこの「前払式通信販売の承諾等の通知」を行う義務が課せられているものと考えられる。ちなみに「前払式通信販売の承諾等の通知」に違反した場合は、100万円以下の罰金に処せられるとなっている。

 ネット上で「商品」を販売する場合、それが「指定商品」だろうがなかろうが、ウェブ上で買い物かごや決済手段、自動返信メールなどをオプション提供しているようなサービスを利用する際は、否応なしに「特定商取引法に関する表示」がフォームで用意されていて、それが埋められていないとショップを開けないようなシステムになっているところも多い。サービス提供事業者が、脱法行為によるトラブルを避けたいからであろう。
しかしサービス契約に関しては、契約に買い物かごは利用しないし、独自に簡単なウェブサイトを作ってそこで宣伝をするだけ、というサイトも多い。こういったサイトを、今後も注目していきたいと思う。