海外映画のDVDBOX、14,584円をサイトから代金引換にて注文。しかし注文ボタンを押してから、7日間、ショップからは何の連絡もなかったので、別の業者に発注した。
ところが8日目に出荷したとのメールが来て、10日目に両方から同時に商品が届いた。そこで別の業者のみ受け取り、現在、こちらは受取拒否をしている。
ショップのサイト上には、以下記載があった。
・ご注文を頂いて約1〜7営業日後に「納期確認メール」をお送りします。
・在庫が在る物は納期回答後、当日〜10日程度の発送になります。この場合はキャンセルできません。
・在庫が無い場合は予定納期を「納期確認メール」にてお知らせいたします。この場合はメール発送後48時間以内でしたらキャンセルできますが、それ以降はキャンセルできません。
今回は、注文から8日目に「納期確認メール」が送られてきており、同時に商品が発送されたことになっている。
そこで、ショップには「納期確認メール」が事前に届いていないこと、注文ボタンを押してから8日間何も連絡が来なかったので、てっきり受注されていないものと思い他社に同じ物を発注してしまったことを伝えた。
ショップからは以下の返信が届いた。
『この度はご丁寧なメールをいただき、ありがとうございます。
まずは、8日後にご発送させていただき、困惑させてしまった事をお詫び申し上げます。
わかりにくい表記でご迷惑をお掛けいたしましたが、営業日はメーカーを含め月曜日から金曜日となっており、週5日の営業となっております。
ご注文いただきましたのが、27日ですので、29日から翌月6日にご回答させていただくようなシステムをとらせていただいております。
メーカーによって対応は様々なのですが、本製品は納期が長期にわたるものではありませんでしたので、メーカーからの納期回答はなく商品が送られてきました。そして、当社もすぐにご発送いたしました。
こちらの希望ですが、一度メーカーへ注文を掛けた商品は返品ができませんので、昨日にご注文されたお店にキャンセルが可能か問い合わせていただけますでしょうか。
大変なお手間を取らせて申し訳ございませんが、よろしくお願い申し上げます』
そこで、ショップに対しては、今回の注文をキャンセルする旨を伝えた。
そして、「受注確認メール」さえ来ていれば、いくら納期がかかってもそのうち届くだろうと待っていられるが、本当に注文出来たのだろうか?と思ってしまうシステムは問題があると思うと伝えた。
そして、商品が届いたので受け取り拒否したところ、ショップよりメールが届き、「受取拒否するとキャンセル扱いとなり、サイト上に記載通り、キャンセル料75%を請求する」と書かれていた。
1. 本件について、契約成立に至る流れを整理すると、以下のようになると思われる。
(1)消費者がHPをみる。
ここで、ショップのHPは「申し込みの誘因」と評価できる。
(2)消費者が、注文メールを送る。
これが、契約の申し込みに相当する。
(3)ショップが、承諾の意思表示をする。
「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」4条により、承諾の意思表示が、発注した消費者に到達したところで契約成立。
業者は「納品がいつ頃になるか」という通知と、「商品を発送した」メールを同時に送付している。納期が通知されると同時に契約が成立し、HPの定めからキャンセルも不可能であり、同時に商品が発送されたことになる。
2. 相談者が、契約締結に先立って「納期通知メール」を期待した可能性があること。
業者のHPの記載から 相談者は
a)「まず納期通知メールが来る」(この段階では、契約は成立しない)
b)「その後に商品が発送される」
と考えたかもしれない。
ところが現実には a)b)が同時になされている。
この点は、たしかに業者が不親切であるように思われ、特に発注後、ただちに返答がある場合と比較すれば、申し込みした消費者を宙ぶらりんにする本ショップは不親切である。
3. 相談者の不満について
相談者は「納期通知メールが来ると思ったら、来なかった。」「待たされたうえに、いきなり商品が送りつけられてきた」という不満をもっていると思われる。
もし業者のHPに、『最初の発注は仮の申し込みにすぎず「納期通知メール」の後に、正式の申し込みをする』『まず「納期通知メール」を送ります。この段階でキャンセルしたければ、キャンセルしてください』『納期通知メールをみた後に、正式に発注して下さい』などの記載があるなら、相談者の不満は法律的にももっともであり、キャンセル可能と考える。
しかし、ショップのHPには、そこまでの記載はない。
従って、あくまで、最初の発注が「正式な契約の申し込み」と評価される。「申し込んだあとは、待っていてくれ」というのが、この業者の態度だと考える。「契約締結に先行して、納期通知メールが来なかった」という事情は、契約成立を左右する問題ではなく、業者の親切、不親切の問題である。
4. 申し込みの撤回をすべきであったこと
相談者は明確に発注しており、これは契約の申し込みをしたことになる。たしかに本件には同情すべき点もあり、「納期確認メールがいつ来るだろうか」「なかなか来ない」「心配だから他の業者から買おう」という心の動きは、よく分かる。
しかし、だからといって、契約の申し込みをした以上、契約が成立すれば、その拘束を免れることはできない。
契約の成立を意欲しないのであれば、申し込みを撤回しなくてはならない。そうしなければ、申し込みに対して承諾しようとする相手方の保護に欠けることになる。
相談者は、業者の承諾が到達する前に、他へ発注している。このとき、業者に対して、申し込みの撤回をしておくべきであった。
たとえば『なかなか納期確認メールが来ません。もう待てないからキャンセルします』というようなメールを送っておけば、契約の成立を防止することができたであろう。しかし、相談者は業者に対する申し込みを維持したまま、他から購入してしまった。申し込みが維持されているから、これを業者が承諾した時点で契約が成立したことになる。
契約に基づいて業者が納品した以上、この受け取りを拒絶することは許されず、従って、キャンセル料の請求を拒むことは難しいと思われる。
インターネット上の取引における契約成立時期は、上記法律解釈の文中でも出てきているように、特に事前の取り決めがなければ「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」第4条により、申込に対する承諾の意思表示が、申込者に到達した時点とされている。
このケースでは、注文をしてしばらく待ってもショップから注文に対する承諾の意思表示、つまり通知が届かず、他で同じものを買ってしまったら、後からショップより承諾の通知が届き、結果商品が重複してしまった、というトラブルである。
ショップのサイト上では「ご注文を頂いて約1〜7営業日後に「納期確認メール」をお送りします」という表記が予めなされており、この「納期確認メール」が、ショップ側の承諾の通知に該当すると思われる。
すると、このような申込みに対する承諾の通知がショップからなかなか届かないとき、何時まで待っていたらよいのだろうか、自分がした申込みが有効なのは何時までなのだろうか、といった疑問が出てくる。
法律には、以下の定めがある。
・承諾の期間の定めのない申込み・・民法第524条
承諾の期間を定めないで隔地者に対してした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。
・隔地者間における契約の申込み・・商法第508条
商人である隔地者の間において承諾の期間を定めないで契約の申込みを受けた者が相当の期間内に承諾の通知を発しなかったときは、その申込みは、その効力を失う。
・遅延した承諾の効力・・民法第523条
申込者は、遅延した承諾を新たな申込みとみなすことができる。
では、「相当の期間」とは、どのぐらいなのだろうか。
およそ1週間程度と考えられているので、それまでの間に承諾の通知が届けば、その通知は有効だと考えられる。その期間内に商品が届けば、それをもって承諾の通知と考えることも可能な場合があると考えられる。
それを過ぎれば、民法第523条により、承諾通知が新たな申込みとみなされる可能性もあるので、同時に商品を送ってしまうようなケースにおいては、特定商取引法第59条、ネガティブオプションに該当するケースも出てくる可能性がある。
ただ、この「相当の期間」は任意に当事者間で変更することが可能と考えられるので、もし、この民法や商法の考えと異なる扱いをする場合には、ショップはその表示をしておく必要があると思う。
さて、広告に対する申込みの有効期限に関しては、特定商取引法、通信販売の広告規制の表示義務事項に「申込みの有効期限があるときは、その期限」があり、広告している商品の申込みに対して有効期限がある場合は、例えば「このサイト(カタログ)の商品は○年○月○日まで注文できます」というように記載する必要があるが、一方、この民法、商法の申込みに対する「相当の期間」に変更がある場合も、別の意味での「申込みの有効期限」だと思う。自分の申込みが果たして何時まで有効なのか、それまでにショップから承諾の通知が届かなかったら他のところから購入できる、ということが予め分かってほうが、きっと親切だと思う。
そして、通信販売でも申込み期限のあることが多い、カタログ通販(例えば2007年春夏号、等)やテレビショッピング(例えば明日17時まで受付、等)とは異なり、ネットショップに限って言えば、店頭販売のように、現時点において在庫のある商品はいつでも販売できることが多いので、限定品でもなければあまりこのような表示をする必要が無いことも多いと思われるが、その理由からか、結構この「申込みの有効期限」の解釈や表示がショップによってばらばらであるように思う。
ともかく、大手ショッピングモールやシステム構築されたショップを利用する場合であれば、注文フォームを送れば、承諾の通知とまでは行かなくても、何かしらの自動返信メールが届くことがほとんどであろう。そのようなサイトと取引ばかりしていれば、ある日、申込んだサイトから、何日経ってもウンともスンとも言われなければ、「注文、受けられなかったのかな」と不安になるのは当然であるが、注文者側もトラブルを避けるためには、放っておかず、先ずは積極的に問い合わせをするなどの知恵を持つべきであろう。