法律解釈30: 広告表示義務と省略可能事項

 
相談事例から“法律解釈と実務”

法律解釈30: 広告表示義務と省略可能事項

 相 談 概 要

 WEBサイトにて有料で情報を販売しようとしている。そこでいろいろ調査したところ特定商取引法について知った。
 法律上では、事務所の住所を表示しなければならないとなっているが、事務所が無い場合は表示しなくてもいいのだろうか。あるいは私書箱等でも良いのだろうか。尚、自宅の住所を表示しようとしたのだが、アパートの賃貸契約上、アパートの住所を表示できない。
 また、電話番号の表示は携帯電話でもいいのだろうか。

 法 律 解 釈

1 
 今回は個人で有料情報サービスをするとのことだが、継続的に販売行為を行うような場合は事業者と扱われ、特定商取引法の適用がある。

2 
 特定商取引法上、住所、電話番号、その他の事項の表示が必要である。
ただし、第11条ただし書で、「当該広告に、請求により、これらの事項を記載した書面を遅滞なく交付し、又はこれらの事項を記載した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式、その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)を遅滞なく提供する旨の表示をする場合には 〜中略〜 これらの事項の記載の一部表示をしないことができる」と定められている。

 要するに、今回に沿った形で言えば、HP上に価格、送料その他負担すべき金銭、アドレス等、表示できる部分を表示し、加えて、メールをくれればHP上表示していない特定商取引法上要求されている事項についても直ちにお知らせしますよ、という趣旨の記載をしておけば、HP上住所等を公開しなくてもいいということである。
但し、HP上に記載していない事項については、問い合わせに対する回答に、もれなく記載しておかないと、やはり特定商取引法に違反することになる。
なお、HP及び問い合わせに対する回答に私書箱を記載しても住所を記載したことにはならない。

3 
 電話番号は携帯でもかまわない。電話番号の記載を要求する趣旨は、連絡手段の確保という点にあるからである。

 解 説

 通販事業者が雑誌等に広告ページを載せる場合、『電話やはがきで資料請求してくれれば、詳しいカタログをお送りします』という表示を載せていることが多い。限られた紙面で、商品や価格をすべて掲載できない場合は、請求があればそれら特定商取引法の表示義務事項をすべて記載した書面をすぐに渡すことができるような体制になっていれば、一部、表示を省略することができるとされている。
 ただもちろん、資料やカタログを貰うために、こちらの個人情報を先に提供する必要がある。ショップによっては、資料請求のつもりが、後からセールス電話がかかってきたりするケースもあると思う。

 従って、ネット通販においても同様に、メールや電話で問い合わせを受ければ、すぐにそれら表示義務事項をすべて記載した書面やサイト案内、メール返信を行うようにしていれば、サイト上でも、一部表示を省略することができることになる。
それら広告の表示事項を一部省略できる事項については、ここではすべてを記載しないが、経済産業省のサイト等にて改めて確認して欲しいと思う。

 ただ、ネット通販においては、雑誌や新聞広告、チラシと比べ、表示できるスペースがはるかに広いウェブ上でいつでも商品を広告、販売注文が受けられるのだから、わざわざ表示義務を省略して二度手間をかける必要は無いと思われるし、問い合わせのわずらわしさを避け潜在的な顧客を逃す必要も無いと思われる。従って、ウェブ上で通信販売を行う事業者では、原則、サイト上に特商法の広告表示義務事項を全て表示し、表示の一部省略を行う事業者はほとんど見られない。

 また、リーフレット等において『電話番号に携帯電話はダメ』といった説明を見たことがあるが、法律上、どこにもそのような制限は無い。金融業者とは違う。ただ、携帯電話しか表示がなければ、注意深い消費者はもちろん、一般の消費者からもかなり怪しいとは思われると思うが・・。逆に個人事業者などの場合、固定電話番号のほかに携帯電話番号も併記し「連絡が取れない場合は携帯に」と書かれていると、なんだか親切なような気もしてくる。

 そして特定商取引法の表示義務違反には電話番号の欠如が一番多い。よく取材を受ける中で、大体聞かれる質問が「ネットショッピングで気をつけることは」のようなものだが、その回答としていつも答えるのが「決済手段が多い」「返品特約の確認」とともに「電話番号が必ず記載されているか確認し、書かれていてもわざわざ注意書きで“連絡はメールで”などのように電話連絡を避けたがるところは注意」と言っている。こういったケースでは、何かトラブルがあっても大体電話はつながらない。法律解釈にもあるように、電話はつながってナンボで、連絡がつかない番号を載せても、それは表示が形骸化しているだけで何も意味を持たない。

 逆に表示義務のひとつ、メールアドレスなどは、サイト上にそのまま正直に載せていたら、3日でスパマーの餌食であり、毎日数十通のスパムメールやウィルスメールに閉口することになる。今やメールアドレスのウェブ表示には、メールアドレスのロボット収集に引っかからないような各種細工が必要なのである。今後はメールアドレスの表示については必ずしも必須ではなく、問い合わせフォームの用意だけでも可能にしても良いと思う。