法律解釈34: 相当因果関係

 
相談事例から“法律解釈と実務”

法律解釈34: 相当因果関係

 相 談 内 容

 『600回の腹筋運動も可能、無理な食事制限なしで健康的に筋肉トレーニングし、太りにくい身体になる』の謳い文句を信じて、「高額だから絶対効果がある」と主人を説き伏せ、筋肉刺激でやせるという機器を148,000円で購入した。
 1ヶ月、とにかく続ければ痩せられるとおもい毎日頑張ったところ、ひどい疲れと下に痒みがあり婦人科を受診、「カンジダ膣炎です、何かひどく疲れることをしましたか?」との診断、歯もおかしかったので診てもらうと、「お疲れですか?歯茎がひどく腫れています」とのことだった。

 この機器を使用する以外に運動もしておらず「カンジダ膣炎」なんて聞いた事も無い病名で通院しなければならず、抗生物質と塗り薬で一ヶ月近く治療に通い、主人にもうつっている可能性があるので、塗り薬を塗ってもらい治療し、主人からはひどく怒られた。
 その後、やりすぎがいけないのだと思い、3日に1回の使用に切り替えたが、3ヶ月後にまた同じ症状になった。このときは前回余分に貰っていた抗生物質と塗り薬でなんとか治まったが、これはおかしいと思い、ショップにメールで連絡した。

 ショップからは「詳しく調べてお返事します」とのメールがあっただけで、その後連絡がなく手紙で詳しく説明すると、1度担当の方から電話があり、私の使用方法に間違いがあるかどうかを聞かれ、「最初続けての使用はあまり好ましくないので、1日おきぐらいにして様子を見てください、後の設定にはぜんぜん問題はありません、事情はわかりましたのでメーカーとも連絡をとって見ます、長いおつきあいになると思います、今後は月曜日ごとに電話をさしあげますのでよろしく」との回答があったが、その後電話連絡もメールも無い。
 現在使用方法に間違いはないはずなのに、3度目の通院をしている。時間をかけて一生懸命使用方法も確認をとって頑張った結果は、痩せるどころか2埖僚鼎増え、精神的苦痛と病院通いで仕事にも支障をきたしかねない。

 法 律 解 釈

1 返品・返金について
  返品・返金を求める方法としては、民法上、
 (1) 債務不履行解除(415条)、
 (2) 瑕疵担保責任に基づく解除(570条、566条)、 
 (3) 錯誤無効の主張(95条)
 などの規定がある。
 しかし、本件は、上記のいずれの要件も満たさないと考えられる。 
 もっとも、永久脱毛器の売買契約について、販売業者が効果を保証している場合に、契約の要素の錯誤による無効を認めた先例がある(大阪地裁、昭和56/9/21)。
しかし、本件商品の場合、契約時の広告や説明書にどのような効果・効能が記載されていたのか定かでない。

2 損害賠償請求の可能性について
 購入した商品の使用によって損害が発生した場合には、売主に対しては、民法上の損害賠償請求をすることができ(415条または709条)、メーカーに対しては、製造物責任法による損害賠償請求をすることが考えられる。
 しかし、どちらの場合にも、発生した損害との相当因果関係の有無が問題になる。本件商品は、「微弱電流の刺激により筋肉を収縮させる」ものだそうだが、これにより、カンジタなどの感染症の発症や歯茎の腫れといった損害が発生することが予見できるだろうか。医学的見地からの検証が必要だが、相当因果関係を認めるのは困難ではないかと思う。

3 交渉による解決の可能性について
 以上の通り、法律上の請求は相当困難な事案であると思われるが、相談者本人が販売業者とすでにコンタクトをとっており、販売業者が一応の話し合いの姿勢をみせているようなので、話し合いにより一部返金を求めること等で解決する余地が少しはあるのではないだろうか。

 解 説

 インターネットに限らず、通信販売などでは、前々から「やせる」を謳った、さまざまな機器が、これがまた、次から次へと販売されている。いかに「やせる」を謳うモノに消費者が弱いか、テレビ番組の捏造問題をとってみても、良く分かる。
 大体「やせる」を謳った商品は、「これを1日10分使用するだけで・・」とか「これを飲むだけで食事制限せずに・・」とか、いかにラクしてやせるかを目的としているはずであるから、それを使用することで他の病気を併発するほど疲れるようなものであれば、「やせる」機器、本来の目的ではないように思う。

 ただ、このような機械的な商品に関しては、今回のようなトラブルは起こりやすい問題といえる。要は、それを使ったことにより、別の被害を被ったというトラブルである。前からもいくつかの事例で挙げているが、その商品を使用したことにより被害を被ったと主張する場合、その因果関係を認めるのがかなり難しい。
 相談者の相談内容を見ると、大変な思いをしてきたことが非常に良く現れているので、何とか相談者の痛みに報えないか思考を凝らすのだが、そこは販売業者と最終的にはどのように“上手く”交渉するか、その点にかかっていると思われる。