法律解釈37: 個人出品者の説明義務

 
相談事例から“法律解釈と実務”

法律解釈37: 個人出品者の説明義務

 相 談 内 容

 先日、オークションにて

 「今年の春、購入した黒のバックストラップパンプスです。通勤用に購入したもの、退職してしまったので、活用する機会がなくなりました。1回だけ外出時に履いたきり、使用していません。靴底に使用感はありますが、表面はまだ新しいです。定価は14800円でした。お安く提供いたしますので、活用してくださる方のご入札お待ちしております。ノークレーム・ノーリターンで。他にも多数出品しておりますので、是非ご覧下さい」

 と書かれていた靴を落札したのだが、届いた商品はとても1回だけとは思えないくらい靴底に傷があり、「ノークレーム・ノーリターンで」と書いてあったのだが、オークションでは靴底の画像はなく、また、あきらかに傷があるのにそれを説明していなかったことから、出品者に返品をお願いした。

 出品者は返品には応じるということだが、「送料やオークション費用、返金の振込み費用はそちらでもってください」ということだった。
 この場合は、それら費用をこちらが負担しなければならないのだろうか。

 法 律 解 釈

 本件では、個人間の売買契約で、売主の説明義務がどこまであるかという点が問題となる。
売主の1回履いたという発言を前提として、靴底が1回履いただけとは思えないほど劣化していて、それを知っていれば、相談者だけでなく、一般通常人も買うとの意思表示をしなかったといえるようなものであれば、売主は、靴底の状況をより詳しく説明する義務があり、売主の説明が足りなかったといえる。
 この場合、買主が誤信して買うと意思表示したことにつき過失がなく、錯誤による売買の無効主張又は瑕疵担保責任追及(民法95条、570条)ができると考えられる。そして、買主は、代金の全額返還と送料の負担を求めることができ、手数料を負担する義務もない。

 逆に、靴底の状況を知っていても、一般通常人が買うとの意思表示をすると考えられるものであれば、今回のケースは、合意解約による返品であり、手数料や返送料の負担は免れないものと思われる。
 本件では、写真(相談者から送られてきている靴底のもの)からは、靴底の状態が1回使用のみとは思えないほど劣化しているように見受けられるので(あくまで写真からの判断で)、錯誤又は瑕疵担保責任の規定により、売主に手数料返品料等を負担するのが妥当のように思われる。

 ただし、インターネット上の取引に関しては、相手方に厳格な責任追及をすると、当該相手方の態度が頑なになり、まったく返金してもらえなくなってしまう、費用対効果のバランスが取れない等難しい状態になりかねないため、売主の方と温厚的に交渉して解決するのが得策かと思われる。

 解 説

 オークショントラブルの典型的な例だが、返品には合意できても、それに関する費用負担は誰がするのか、それでこじれて解決がつかないケースが本当に多く発生する。
 もし、取引金額が高額であったり、悪質商法などで騙されて契約した商品を解約、取消しするときは、もう救済されるなら返送料ぐらい、と、思うケースも多いと思われるが、少額ネット取引においては、返送料負担は非常に重要なウェイトを占める。

 もちろん各ケースによって判断していくのだが、その見解とは別に、特にオークションの個人間取引の商品瑕疵におけるトラブルに際し、こちらから回答する場合、まさにこの法律解釈の最後にあるような内容をアドバイスとして必ず伝えるようにしている。取引相手とは喧嘩することが目的ではなく、あくまで解決することを目的として交渉しないと、結局解決しないで終わってしまい、心情的にもっと辛い思いをするからである。

 ただ既に、互譲による前向きな話し合いが無理なほど、こじらせてから持ち込まれるトラブルもある。その場合は、もう誰が何を言っても相手方は話し合いに応じないだろう、といった状態になっているが、だからといって本人は訴訟による解決も選択できない。こうなってしまっていては、正直、もうどうしようもない。出来ることは、当事者の怒りや悲しみを出来るだけ和らげてあげるだけである。