オンラインショッピングサイトで、ワンピース「DIANE von FURSTENBERG ロマンティックリーフワンピ N」を購入した所、ワンピースの胸元下の部分中央(ちょうど服を着たとき体の中心辺りになる箇所)に5-8cm程度の大きなホツレ(布の切り替えし部分でパックリ服が開いてしまっている状態)、その他数箇所にホツレがあり、明らかに「不良品」であった。
販売業者に連絡したところ、販売業者は「アメリカの商品は元々縫製が雑なので、ホツレは当たり前の事」という返事だった。しかも、「ご自身で直して着たらどうですか?」というあまりにも購入者を馬鹿にした態度だった。
業者のサイトには「返品不可」となっているが、同様に「不良品も無し」となっており、また、商品に難があった場合には「難アリ」というランクになるはずが、購入した商品は「新品同様」と記載されていて、不良品箇所についての明記は一切なかった。
再度何とか誠実な対応を求めたところ、このワンピースのメーカーの商品を取り扱っている「Fショップ」に直接持ち込んで直してもらうよう指示を受けた。そこで「Fショップ」に電話をしたら、「そのようなお直しは一切行っていない」という事だった。
現在その旨、先方に連絡しているが、私としてはこのような不良品は直して着る気も失せてしまったので返品を希望している。
本件は、通信販売で購入した商品に瑕疵があった場合に、買主はどのような対応が可能か、という相談である。
ここで「瑕疵」とは、取引の通念から見て、何らかの欠陥があることをいうところ、本件では、女性用の衣服について
『胸元下の部分中央(調度服を着たとき体の中心辺りになる箇所)に5-8cm程度の大きなホツレ(布の切り替えし部分でパックリ服が 開いてしまっている状態)その他数箇所にホツレがあった』
ということであり、瑕疵に該当することは明らかだろう。
1.特定物売買と不特定物売買
売買契約は、その目的物の特定性に応じて、特定物売買と不特定物売買に分類されるが、本件では、相談者は、販売業者のHPを閲覧して、「DIANE von FURSTENBERG ロマンティックリーフワンピ N」という種類の商品を注文していることから、不特定物売買がなされていると考えられ、販売業者は、上記種類の商品を引き渡す義務を負っているものである。
2.不特定物売買における「特定」
そして、不特定物売買の場合、売主が「物の給付をなすに必要なる行為」(本件では、買主へ発送するための準備行為)を完了したときに、買主に引き渡すべき商品が確定し、売主は、以後、当該商品を引き渡せばよいものとされている(いわゆる「特定」 民法401条2項 ※)。
しかし、たとえある商品を買主へ発送するために準備したとしても、当該商品に瑕疵がある場合には、特定がなされたといえず、売主は、依然として、瑕疵のない良品を買主に引き渡す義務を免れない。
本件の場合、販売業者は、商品を相談者に送付し、相談者もそれを受領しているが、上記のように、送付された商品には瑕疵が存在するので、「特定」はなされておらず、売主は良品を買主に引き渡す義務を負っていると言える。
3.例外
ただし、買主が、売主に対しいわゆる瑕疵担保責任を問うなど、引き渡された商品に瑕疵があることを認識しつつ、その引渡をもって商品の引渡であると認容したと認められる特別の事情がある場合には、買主は、もはや良品の引渡請求をなしえないとされている(最高裁判所昭和36年12月15日判決)。
本件では、相談者は、
『明らかに「不良品」であった、販売業者に連絡したところ、販売業者は「アメリカの商品は元々縫製が雑なので、ホツレは当たり前の事」という返事だった。しかも、「ご自身で直して着たらどうですか?」というあまりにも購入者を馬鹿にした態度だった。
(略)
再度何とか誠実な対応を求めたところ、こちらの商品を取り扱っている「Fショップ」に直接持ち込んで直してもらうよう指示を受けた。そこで「Fショップ」に電話をしたら、「そのようなお直しは一切行っていない」という事だった』
ということなので、相談内容から窺われる限り、上記「その引渡をもって商品の引渡であると認容したと認められる特別の事情」があるとまでは言えないのではないかと考えられる。
4.結論
したがって、相談者は、販売業者に対し、良品の引渡を請求する権利を有しており、相当期間を定めた催告にもかかわらず、販売業者が引渡をしないときには、相談者は、本件売買契約を解除して、支払済みの代金の返還を請求することができると考えられる。
なお、この場合、販売業者が「返品不可」とHPに表示していることとの関係が問題となるが、返品が制限されるのは、販売業者に瑕疵担保責任や債務不履行がないことが前提と考えられており、商品に瑕疵がある本件では、返品が制限されることはない。
5.今後の対応
4で記載した良品引渡の催告及び解除にあたっては、後の証拠のために、販売業者に対し、「何月何日までに瑕疵のない何々の良品を引き渡してください。引き渡されない場合には、売買契約を解除します。つきましては代金何々円を返還してください」という趣旨の内容証明郵便を(配達証明付きで)送付するべきだろう。
ただし、販売業者がそれに応じない場合には、法的手続をとるにせよ、費用が代金を大幅に超過する可能性がある。
リアル店舗や事業者の通販ショップなどでは、そこで販売している商品は、在庫等、同じ商品の存在や取り寄せが可能な状態で販売されていることが多く、そういった商品の取引は不特定物売買となる。それに対して個人がオークション等で出品しているような中古品の売買は、その中古品の状態が個々に異なり1つとして同じ状態のものが存在しないと考えられるので、特定物売買とされる。この場合は交換という考え方は基本的にはしない。
今回のケースでは、そのような不特定物売買において、民法第401条2項により引き渡す商品が特定されていても、その商品の瑕疵が存在するので特定がなされず、販売業者は良品を相談者に引き渡す義務を未だ負っているという話である。もちろんその際「返品不可」とあっても、この制限は受けないとされる。
不特定物売買に瑕疵担保責任が適用されるかどうかは、いろいろ見解が分かれると聞いたことがあるが、少なくともちゃんとした商品を引き渡さなければ、契約の解除事由になることにかわりはない。
今回、メーカーでもない全く関係無いショップに持ち込んで修理してもらうよう指示するところを見ても、もともとこのショップの誠意の無さが伺える上、そのような商品をもう使用したくないという相談者の気持ちも理解できるが、それでもいつも問題になるのは、相談者の主張がいくら法的に正しくても、全額前払いのネット通販の場合、それを実行するのが困難なことが多いということである。