私はオークションにおいて、サッカーのチケットを落札した。表題に「ペア」と明記されていたので、入札価格がチケット2枚分の価格と思い、価格31000円、数量1で落札したのだが、商品説明には「価格は1枚あたりの値段」となっていることに気付いた。そうすると決済額は31,000×2=\62,000となるので、すぐに出品者にキャンセルを依頼した。
出品者は、先ずわたしの個人情報を開示しないと話し合いが出来ないと主張したため、その要求により私が住所、氏名等を明かすと、契約は成立しているのでキャンセルは受け付けられない、
(1) そのまま取引するか、
(2) 出品者の定める損害賠償を支払うか、
(システム利用料\20円+システムオプション利用料\2,442=\2,462、損害賠償として落札予定金額\62,000×20%=\12,400、合計 14,862円。
端数をおまけして 合計 14,000円。ただし3日以内の振込みのこと、振込み料は落札者負担)
(3) 1・2でなければ、出品者が、出品者管轄地域の簡易裁判所に全額保証の民事訴訟を起こす。
と返事があった。
私は、 (1)〜(3)のいずれでもなく、別の和解案
(出品コストが¥2461で、出品2のうちの1つなので、このうちの半分¥1231円(端数切り上げ)を、「入札を取り消した後」反省を込めてお支払いする)
を提案し、キャンセルを受け付け、訴訟の意思を辞すよう依頼した。
しかし、結局、この出品者とは話し合いが決裂、簡易裁判所に訴訟を起こす旨を伝えてきた。
相談は、そもそもオークションに契約としての拘束力があるかどうか疑問があるのだが、この場合、私に支払い義務があるのだろうか?
また、相手が訴訟を起こした場合、棄却されずに私が出廷を求められるのだろうか?相手はダフ屋のようだが、形の上では個人売買ということになるのだろうか。
ここからは私の考えだが、最悪、出品者から訴訟を起こされ、出廷しなければならない場合、答弁として提出しようと考えている内容である。私の主張は正しいか判断して欲しい。
1.
オークションの説明には落札額が1枚分、キャンセル不可とあるが、オークションにおける決済価格は、原則、数量×落札金額である。表題に「ペア」と明記されていて、数量1でペアチケットを入札額で買えるようにみえる。
これでは非常に紛らわく、かつ、表題と説明が食い違っている。これは、消費者契約法第二章第四条第一項に定められた、「重要事項について事実と異なる事を述べる事」にあたり、同条に定めらたように、消費者は、当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
ただ、実際オークションにおいて今回のような出品手法は多いのだが、うっかり間違えた私も反省はしている。
2.
出品者が当該オークションで出品している興行チケットは、出品者の評価欄を見ると、どうも転売目的で大量に購入したもののようである。
これは、各都道府県の迷惑防止条例の定める、転売目的の多量のチケット購入の禁止、および転売行為に禁止に抵触しており、当該オークションに売買契約としての効力はない。
3.
出品者は契約の成立を主張し、落札者に契約の履行または損害賠償の支払いを求めている状況であるにも係わらず、その契約商品の買取先を他に募集している事実が認められる。これにより、出品者が売買契約を破棄したとみなす事ができる。
出品者は自身の出品する別のオークションの説明文において、当該オークションで出品されていたチケットと、同一の席番のチケットの購入希望者を募っている。
4.
出品者は、私の取り消し要請を受け入れ、オークションのシステム上、次点の入札者と交渉する事も可能だったが、私の客注品ではない当該チケットの売買について、私を対象とする交渉に固執し、次点の方との交渉の可能性を放棄した。
また、当該チケットの興行日まで7日残されていたにもかかわらず、当該チケット取引に支障がでたとして、損害を主張している点が不当である。
他にも、細かな点を上げると、商品そのものを受け取っておらず、返品したわけでもないのに代金請求されている、そもそもオークションに契約としての有効性があるのかとか、恐喝まがいであるとか、書きたい点はあるが、入札をミスした反省もあるし、このような出品者に身分を明かしてしまったことも後悔している。
チケットの販売で、オークションの成約手数料を低額でおさえるために、実際の金額と商品説明の欄との間で記載が異なるという例が見受けられるようである。
オークション自体は、売買契約であるから、一旦成立した以上、一方当事者の都合でキャンセルを行うことは原則としてできない。しかしながら、本件のように金額に齟齬があった場合、金額は契約において重大な要素となるので、入札を行う際に錯誤(実際の真意(ペアでの金額だと思ったこと)と表示された意思(1枚あたりの金額であったこと)とが異なっていること)があったとして契約の成立を無効と主張することは可能と考える。
なお、この場合、入札した側がこのような錯誤をしてしまったことにつき、重大な過失があった場合、無効の主張を行うことはできなくなるのだが、本件の場合、出品者の側があえてこのような錯誤を招くような出品の仕方をしているので、落札者の側に重大な過失があったと主張することはできないのではないかと考える。
なお、相手としては、訴訟を提起する権利はあるので、実際に訴訟をおこした場合、これを無視することは、相談者の敗訴につながる。したがって、実際に訴訟が起こされた場合、出廷することはやむを得ないと思われる。
しかしながら、上記の点を主張すれば、争うことは十分可能であると考え、実際に、同一の席番の出品をしているのであれば、相手がキャンセルを受け入れたと考えることも十分可能だと思われる。
なお、相談者が論点としてあげているもののうち、迷惑防止条例違反その他については、残念ながら契約の成立の点については直接関係してこない。
また、消費者契約法については、消費者と事業者の間の契約に適用される法律なので、もし、これを主張するのであれば、相手方が事業者であることを相談者にて主張・立証する必要があると考える。
(平成18年1月 特定商取引法の通達の改正について インターネットオークションにおける「販売業者」に係るガイドライン 『(チケット等)に該当する商品を一時期において20点以上出品している場合』)
なお、実際に訴訟が提起された場合は、一方当事者にのみ助言をするのは難しいと考えるので、弁護士会の法律相談等を利用して欲しい。
オークションにおいては以前より、出品者が、落札額に対して数パーセントかかってくる手数料を逃れるため、出品者があの手この手で、その手数料逃れをするケースがあった。昔は、それこそ購入できる権利を1円で落札するとかいう手口が流行ったが、最近はオークションサイトも厳しくなり、そのような手口で出品するのも、かなり難しくなってきていると思う。それでも、落札額をめぐってのトラブルが全くなくなるわけではない。
特に複数個出品されているものや、複数個購入することになる出品には注意が必要である。(これには送料のトラブルも発生しがちである)
このケースはチケットという、トラブルになると非常に解決が難しくなる商品であったことが問題を大きくする原因の1つでもあった。公演日や開催日が迫っているチケットが出品されていることも多く、その場合に落札者によりキャンセルされた場合、再出品が難しかったり、再出品しても、その価値が半減してしまうケースも多い。
また、原則として落札後の一方的なキャンセルは、オークションの特質を考えれば出来ないと考えるべきだと思われる。
しかし、かたや今回のように、落札者の錯誤を招くような出品をしていた場合は、たとえ落札者に重大な過失があったとしても、錯誤による無効を主張できるかもしれないと考えられる。
また、この出品者が、相談者と話し合いの最中にもかかわらず、コッソリ同じものをオークションに別出品して、期日の迫ったチケットを取引できなくなるというリスクを回避しようとしていることを考えると、今後、出品者による落札額全額保証の訴訟は考えにくいと思われるが、しかし、いずれにしても出品者である相手方は訴訟をする権利はあるので、もし訴訟を起こされた場合は無視するわけにはいかず、相談者はこれらを主張して争ったり話し合いに応じないとならなくなるわけである。
さて、実際、相談者とこの出品者との間で取り交わされたメールのやり取りを見たが、どうも最初のボタンの掛け違いは、落札した時点で相談者が自分の名前も住所も明かさないまま、いきなりキャンセルを申し出たことのように見受けられた。
出品者が「先ずはあなたの個人情報を開示してからの話し合いを」というと、相談者は先ず名前だけを名乗り、さらに出品者が連絡先も全て知らせるよう求めて、やっと相談者がそれに応じる、といったやり取りがあり、キャンセルの交渉の前にすっかり出品者側の心証を悪くしてしまっていたようである。
未だ落札しただけの段階であり、また自分がキャンセルを申し出るという不利な立場であるために、なるべく相手方に個人情報を渡したくないという相談者の気持ちも分からなくはないが、誠意の受け取り方は人それぞれである。そこはなかなか難しい問題である。