10代男性。弟(17歳)が携帯オークションでバイクを落札した。落札額150,000円、代金引換でやり取りしていたらしい。
しかし、未成年の為、支払う経済能力もなく、親にも言わずに入札してしまったものである。したがって相手に取り消しを依頼したのだが、断りのメールが届いた。
なんとか取引の取り消しはできないものだろうか。
・当該オークション参加年齢は「18歳以上」。
・取引手段は代金引換、若しくは決済エスクロー限定。
1. 契約は履行可能か
そもそも、バイクというのは常識的には代金引換便で送付できるものではないように思われる。もしそうであれば、契約内容は明らかに履行不能のため、契約が原始的不能で無効となる可能性が結構高いと思われる。
2. 「18歳以上」と名乗ることが能力者の詐術か
18歳以上かどうかを聞くということは、そもそも18歳では行為能力者ではないので、行為能力の確認としての意味が皆無であり、年齢を偽っても「能力者と信じさせるため」の詐術には該当しない。
3. 20歳以上と答えることや生年月日を回答することが詐術か
未成年者が年齢を偽ってIDを取得することが、「行為能力者と信じさせるための詐術」に該当するかどうかは、年齢確認の方法と取引内容の両方の要素を勘案する必要があろうかと思われる。
仮に、20歳以上かどうかを問う場合であればどうかといっても、準則にあるように「20歳以上ですか」と聞くだけでは不可である。これは、まず「行為能力と偽る故意」がないと民法21条の適用はないからである。少なくとも20歳未満は行為能力者ではないので、行為能力があるか否かを確認するために年齢を確認するという趣旨を十分に説明した上で確認する必要がある。
また、単にYes/Noで聞くだけでは、詐術とまでは言えない可能性が高いだろう。
それでは年齢を入力させたらどうか、だが、これについては新版注釈民法(1)の398ページは以下のように述べている。
「未成年者、成年被後見人、および被保佐人については(被補助人に比べて)、その保護の必要性がより高く、また詐術を行うに足るだけの能力を備えているかどうかについて、より慎重な判断が必要となる。たとえば、未成年が通信販売を利用して注文書を発信する際に、年齢を詐称したり、法定代理人の同意書を偽造する場合に、安易に詐術の成立を肯定することには問題があろう。このようなケースでは、実質的に見ると、未成年者は自己に能力があると述べていることとほとんど異ならず、また相手方としても、真実に合致しない表記がなされる可能性を十分に予測することができる。このような場合、未成年の意図的な不実表記は、普通に人を欺くに足りる程度には達しておらず、詐術にはあたらないというべきではなかろうか。」
まあ、これは取引金額とのバランスもあるので、オークションサイトとの関係での会員登録と会費の徴収とか、数百円から数千円レベルの取引であれば、年齢を入力することが詐術という可能性もないではないだろうが、15万円のバイクともなれば、生年月日を入力した、というだけでは到底詐術にはならないだろう。
4. 機械に対する詐術は詐術に該当するのか
これは準則に現時点では触れられていない「サイバーエージェント」論関係の論点だが、詐術や欺網は基本的には人に対する行為であり、また「詐術により誤信する」という要件も人が前提である。
従って、サーバの向こう側に人間がいて判断しているのなら良いが、自動処理であると、人が相手ではないので詐術ではないという考え方もあり得るところである。
ちなみに刑法上の詐欺罪については、「人を欺いて」という条文なので、機械を騙すのは詐欺には該当せず、窃盗罪か電子計算機使用詐欺(こちらでは詐術ではなく、虚偽の情報・不正の指令の入力行為を犯罪としている)のどちらかであるというのが判例になっている。
5. オークションとの相手方の関係で詐術があるか
オークションの相手方との関係では、要するに未成年であることを「黙っていた」というだけで、詐術は成り立たないだろうと思う。
6. なりすましの責任
まず知らない間にIDを使われたというだけをもって、ID名義人の責任を肯定することは通常は無理だと思う。ID名義人に負担を負わせることができるのは、基本的には預金の払い戻しなど債権の準占有者への弁済のケースであり(それですから預金者保護法で保護が図られているのが現状で)、他人が権限なしに行った法律行為は、それがなりすましであっても、故意に使わせたのでなければ、責任はないはずである。それが、民法の「意思主義」の原則である。
そもそも「なりすまし」のリスクがあるからこそ、オークションサイトは「代金引換ルール」を強制しているわけで、このようなシステムのもとで名義人に責任を負わせることは、まず不可能であろう。
7. 利益衡量
本件では、オークションの売り手はバイクを引き渡しておらず、何の損害も被っていないわけであるから、この状況で未成年者の保護や「なりすまし」における本人保護の必要性を後退させてまで売り手を保護することは考えにくい。
未成年者による意思表示については、上記の法律解釈にも出てきているように「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」にも説明がある。電子商取引は対面販売と違って、外観上の判断や身分証明書による判断が難しく、このような問題が増えると思われるが、他方、取引の安全面から見れば、このような問題は非対面取引一般に言えることでもあり、例外を認める必要性も無いと思われる。
そこで、準則では取り消すことが出来ない可能性のある例として、『「未成年者の場合は親権者の同意が必要である」旨警告した上で、年齢確認措置をとっている場合』とされており、取り消すことが出来ると思われる例として、『単に「成年ですか」との問いに「はい」のボタンをクリックさせる場合』とされている。
相談内容と属性より、恐らく相談者は、同じく未成年の「兄」と思われた。
そこで、このケースでは、もともと18歳以上で無いと登録が出来ないはずの当該オークションに、この17歳である「弟」は、年齢詐称で登録したか、または別人が所有のID(可能性として考えられるのは、兄か親が所有しているもの)を、勝手に、若しくは承諾の上で、オークションに参加しているものと考えられた。
その場合、詐術を用いてオークションサイトに登録していた場合の効果や、さらに、もし別人のIDを利用して落札していたのであれば、その取引相手に対して未成年者取消しを主張するのに、そのなりすましが影響するのかどうか等、いろいろな方向から問題が考えられるケースであった。
以前の大手オークションでは参加年齢が20歳以上というところもあったが、最近のオークションでは、ほとんどが参加年齢を18歳以上と引き下げられている。オークションにおける比較的高額な取引においては、出品者側も未成年者取消しのリスクを視野に入れた取引を心掛ける必要があるのだろう。