法律解釈41: ショップの破産手続き

 
相談事例から“法律解釈と実務”

法律解釈41: ショップの破産手続き

 相 談 内 容

 1年前、ネットからカーディーラーに新車の購入(1,484,713円)を申し込んだ。注文した車種が人気であったため、納車は約半年後になるとの連絡を受け、それを了解して注文した。また同時に申込金として45万円を振込んだ。

 しかしながら半年経過しても納車の連絡がないため催促したところ「人気車ため納車が遅れている」と言われ、その後もどんどんと納車を引き延ばされた。しかし、その4か月後、突然連絡があり、「車台番号が決まったので、今月末までに残金を振り込み、車庫証明を取得して送ってほしい」と連絡があった。
 車台番号も決まったので納車は近いと判断して、残金を振り込み、車庫証明書を送った。その後納車日の連絡を待っていたのだが全然確定せず、その2か月後、一度車庫証明書の有効期限が切れ再取得させられた。

 現在では注文してから1年以上が経過しており、ディーラーで購入すれば1か月程度で納車される現状を考えると、未だ納車されないのは異常だと確信している。以前にキャンセルも検討したが、その場合は申込金の45万円は返却されないとのことなので断念した。既に全額払い終わっていることだし、必ず新車を受け取りたい。

 (この相談の10日後、事業者が倒産、7日後、破産開始決定)

 自動車関連の相談窓口に相談したところ、「債権届出」の手続きは、事業者の代理人弁護士からお詫び状が届いているのならば必要はない、と言われた。
 確かにこちらの住所を把握している以上、事業者から何らかの名簿を預かってはいるのだろうが、本当に「債権届出」の必要はないのだろうか?
 後々になって、被害金額等の届け出がなかったからと、問題になっても困るので届け出が必要かどうか教えて欲しい。また届け出の要否はどのように判断すればよいのだろうか?他に頼るところもなく、困っている。

 法 律 解 釈

1 破産手続の具体的な手順について
(1) 倒産から破産申立まで
 手形不渡りなどの倒産状態が発生してから、破産申立するまでの日数は、事例によって差がある。

1. 早い場合は、手形不渡りと同時に申立、即、破産開始決定に至るケース。
 この場合、秩序を保ち、混乱を最小限にすることができる。

2. 遅い場合は、手形不渡りの後、破産申立まで1ヶ月以上かかってしまう。
 この場合は、混乱が大きくなる。

3. もっとも酷い場合は、倒産状態になっても、何ら手を講ずることなく放置される。
 この場合は、弱肉強食であり、しばしば早い者勝ちの不公平な状態が生じてしまう。

(2) 破産申立から破産開始決定まで
 会社が自ら破産を申し立てる(自己破産)場合の標準的な手順は以下のとおり。

 倒産会社が、破産申立を弁護士に依頼する。
 申立代理人弁護士が破産申立書を作成し、これを裁判所にもちこんで、破産申立する。
・この際、破産申立書の添付書類として「債権者名簿」を作成する。
・債権者名簿の作成のために、申立代理人弁護士が、取引先に被害額を問い合わせることが多い。

 破産申立すると、すみやかに破産開始決定がなされる。破産開始決定と同時に、裁判所が破産管財人を選任する。
 申立代理人(破産会社が申立を依頼した弁護士)から、破産管財人(裁判所が新たに選んだ弁護士)へ、バトンタッチされる。つまり、二人の弁護士が登場する。倒産被害者は、しばしば申立代理人の弁護士と、破産管財人の区別がつかないことがあるが、両者は全く立場が異なる(破産管財人は、公平な第3者・全債権者の代表であり、会社の代理人ではない)。
 以後、破産手続きは破産管財人を中心に進む。

(3) 債権の届出の意義
1.
 債権者は、破産手続きに「債権届出」をして参加する。債権届出をしない限り、どんなに大きい債権額があっても、破産手続きに参加できない。
 債権届出をしなければ、配当があっても貰えない。

 なお、事件によって、配当率は差がある。配当がゼロの場合も多い。破産開始決定の直後は、配当の有無、配当率などの予想がつきにくい。「債権者集会」が開催されるが、「集会」といっても、投票して何かを決めるわけではなく、管財人による中間報告の場である。
 債権者は「出席しないと損をする」ということはない。出席すれば、破産管財人から説明をきくことができる。
 近時は特に破産処理のスピードアップが図られている。東京地裁は、この集会のときまでに、配当の有無など、目処をたてることを目標にしている。小規模な事件であれば、目処をたてるだけでなく、この集会で手続きを終えてしまう。

2.
 配当の有無にかかわらず、破産債権について税務上、貸倒の処理をすることができる。貸倒の処理を適正にし、税務署から否認されないために、税理士に相談すべきである。
・税務処理のために必要な書類

 破産配当があった場合→配当の通知書(管財人から債権者に配当に際して送付される)
 破産配当がなかった場合(換価した財産は,管財人の報酬と税金等の支払でなくなってしまう場合。異時廃止という。)→配当なきことの証明書(裁判所が管財人に証明書を交付し,さらに,管財人が写しを作成して希望者に交付。当然には送付されないので,管財人に連絡することが必要)

 これらは少なくとも回収不能額を証明するためにこれは必要というものであり、そのほか債権の存在を証明する資料が必要となるので、そのほか必要な資料については、税理士に相談してほしい。

(4) 債権の届出の方法
 破産開始決定後、裁判所から債権者に対して「破産開始決定の通知」「債権届出用紙」が発送される。これに債権者が自ら書き込んで、裁判所に提出する。
(東京地裁の場合、裁判所ではなく、破産管財人の弁護士事務所に直接郵送する)

 裁判所は、破産申立代理人の作成した「債権者名簿」に従って、ここに記載ある者に機械的に発送している。破産申立代理人の作成した「債権者名簿」に記載漏れがあれば、裁判所からの書類も届かない。

2 相談者の疑問について

 破産会社の代理人弁護士が把握する「債権者名簿」に載っているだけでは「破産手続への債権届出」をしたことにならない。
あらためて、債権者みずからが、裁判所に対して「債権届出」をしなければならない。

 仮に、自動車関連の相談窓口が、「申立代理人からの案内が来ているなら、裁判所へ債権届出しなくてもよい」と回答したのであれば、それは間違い、あるいは、「申立代理人からの案内が来ているなら、裁判所に提出された名簿に記載されていると思われるので、やがて裁判所から債権届出用紙が届くはずであり、債権届出用紙を入手するために積極的に行動する必要はないだろう」と回答したのかもしれない。
 ちなみに、この点は、倒産被害者がしばしば誤解するところである。時系列で書くと、以下のようになる事例が多い。

1. 破産申立会社の代理人が、破産申立準備のために、債権者を把握しようと考える。

2. 破産申立会社の代理人から、債権者と思われる取引先などに通知を送付する。通知には「○○社は倒産した。債権額を届出してくれ」と書いてある。

3. 取引先は、破産申立代理人に、自分の被害額を届出する。

4. 申立代理人は、債権者からの届出をとりまとめて「債権者一覧」を作成し、これを添付して裁判所に破産申立書を提出する。

5. 破産が宣告され、管財人が選任される。

6. 裁判所から、債権者に対して、破産開始決定通知と債権届出用紙が発送される。ここで裁判所は、申立代理人が作成した債権者一覧(上記4)に記載ある債権者だけに発送する。
申立代理人が作成した債権者一覧に記載漏れがあれば、裁判所からの破産開始決定通知は発送されない。

7. 裁判所から届いた債権届出用紙に、債権者が自ら書き込んで裁判所に債権届出す。

 『3. 申立代理人への「被害額の届出」』
 『7. 裁判所への「破産債権の届出」』

 よく見かける誤解は、
自分は『3』の「届出」をしているから、破産手続の債権届出『7』も済んでいるはずだというもの。あくまで『7』裁判所への届出が「債権届出」である。『7』債権届出をしない限り、破産手続に参加できないイコール配当があっても貰えない。

 解 説

 ネットショップの経営が悪化し、ある日倒産や破産の連絡が届いた、という相談が時々ある。相談者を見ると、見慣れない通知が突然届いてビックリして、これをどう対処してよいか分からない、というのが正直なところのようである。特にネット取引などでは、商品未着で、そのまま連絡不能に陥ることも多い中、時々ショップがまっとう(?)な手続きを踏むと、かえって注文者のほうがあわててしまうようである。ただ、だからといってほとんど返金されないのは同じだが・・。

 破産開始決定の通知には、債権届出用紙が同封されていないこともあり、もうほとんど目ぼしい資産が無くて配当できないと分かっていると、今は債権届けをする必要が無い、もし今後資産が出てきたら改めて案内します、と言われてしまうようである。

 相談では、事業者やショップの倒産や破産に伴って、いろいろな内容の相談を受けるが、法律解釈にもあるように、最初にショップの代理人から破産手続きに入るという連絡が来ると、その代理人を破産管財人と勘違いするケース、また代理人が決まって、その連絡先が通知されているのに、さらにショップに直接連絡を取ろうとするケースもあるが、一番多い内容は、返金される見込みはありますか、というものである。これは、正直、相談者を期待するような回答が出来ないのが、残念なところである。