法律解釈42: 他人物売買と売主からのキャンセル

 
相談事例から“法律解釈と実務”

法律解釈42: 他人物売買と売主からのキャンセル

 相 談 内 容

 オークションで商品(車)を落札したのだが、落札後、出品者から、「この商品は委託されたもので、所有者の方が他で処分をしてしまいました。まことに申し訳ありません。今回の取引はなかったことにしてください」とメールが届いた。

 オークションの出品コメント欄には、「現状渡し。取りに来られる方を希望します。現車確認歓迎です。落札後、現車確認後のキャンセルは受け付けますが出品手数料3,500円はいただきます。引渡し後は、ノークレーム、ノーリターンでお願いします。 陸送手配できます。ほかにも声をかけてるので他で決まった時はオークションを終了します」と書いてあり委託商品とは書いてない。

 「ほかにも声をかけてるので他で決まった時はオークションを終了します」と書いてあるが、オークション終了日時前に終了するなら話はわかるが、落札(オークション終了後)に「今回の取引はなかったことにしてください」と言うのは、おかしくないだろうか。落札した時点で、売買契約が成立しているのではないのだろうか。
 このような場合、どのように対処したら良いか教えて欲しい。

 法 律 解 釈

 落札後、出品者(売主)が「他人の車の委託販売だった。今回の取引はなかったことにしてください」と申し入れてきたとのことだが、
1 
 他人物売買は、契約としては有効に成立し、売主は、買主に対して目的物の所有権を移転する義務を負っている(民法560条)。
 なので、相談者(買主)は、売主に対して、あくまでも履行を求めることも一応可能である。しかし、本件は、売主が「なかったことにしてください」と申し入れて来ているので、所有権移転はまず期待できないため、履行不能と考えることにする。

 その場合、買主が善意(他人物売買であることを知らなかった)であれば、契約の解除をすることができ、売主に対して、損害賠償を請求できる(民法561条)。

2 
 また、売買契約が成立したことにより、売主は契約内容を履行する義務を負う。
 売主が契約内容を履行しない場合や、売主の帰責事由により履行不能になった場合には、買主は売主に対して損害賠償を請求できる(民法415条)。

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 本件では、出品者(売主)は「他人所有の商品を、委託商品と明示せずに販売した」が、「結局、売主に引き渡せない」のだから、買主は出品者(売主)に対して、民法561条及び民法415条により損害賠償請求できる。
 しかし、問題は損害額である。損倍賠償請求の対象になる損害は、実際に発生した損害のうち、債務不履行と相当因果関係のあるものに限られる(民法416条)。本件では具体的な損害は発生していないのではないだろうか。

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 したがって、売主の態度には大いに問題があり、相談者は釈然としない気持ちでいるだろうと察するが、本件でどのような対処ができるかといえば、有効な対処法は見当たらないのが現実である。

 解 説

 オークションでは、第三者の所有物を代理で出品しているケースも多いが、その所有者が他で処分してしまったので渡せません、とはなんとも無責任な出品者である。

 ただ、落札しても、代金を支払う前に、出品者側から一方的にキャンセルと告げられれば、残念ながら現実にはそれに従うしかなく、もちろん、オークション評価欄には出品者側にペナルティが付くが、それで落札者の取引が救われるわけでもない。
 このようなケースの相談は、実は結構寄せられるのだが、なかなか落札者の思いを満足させられる回答が出来ないのは、上記法律解釈でもあるとおりである。

 中には、「契約が成立しているのだから、その商品を向こうが責任持って探してきて、契約通りに引き渡せ」と主張する相談者もいるのだが、そこまでする義務はないのでは・・と思う。
 このような相談者に出会うと、今は自分の立場が強いからこそ、そこまで強引なことが言えたりするのだと思うが、もし逆の立場だったらどう考えるのだろうか。自分はそこまでして、約束を果たす自信があると断言できるのだろうか。そのような相談者に限って、自分が逆の立場だった場合は、約束を果たそうと努力するより責任逃れの理由をあれこれ探し始めるのではないかと思う。