法律解釈44: 消費者に対する遅延損害金請求の妥当性

 
相談事例から“法律解釈と実務”

法律解釈44: 消費者に対する遅延損害金請求の妥当性

 相 談 内 容

 販売事業者。
 CD内蔵DVDナビゲーションセットを133,500円で販売。商品代金は前払いでお願いしている。
 支払期限までに、合計請求金額を指定口座へお振込み下さるよう、お客様にお願いしていたが、現在まで商品代金のお支払いをいただけない状態。配達証明で送った請求書が、先方不在のため戻ってきたため、その12日後に、普通郵便で再度請求書を送った。
 サイト上の利用規約には、以下の記載をさせていただいている。

「遅延損害金について」
お支払期限までに弊社でお振込みの確認をできない場合は、お支払い期限の翌日から完済の日まで年14.6%(1年を365日とする日割計算)の割合による遅延損害金を弊社に支払うものとします。
支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額をお支払いいただくために、クレジットカード情報の提供を求める場合があります。

「返品・保証・ご注文のキャンセルについて」
いったんお届けしました商品の返品には応じておりません。
お届けしました商品が万一初期不良であった場合は、新品と交換をいたします。保証はメーカー保証の範囲内で対応いたします。
ご注文のキャンセルは、受注確定メールがお客様ご利用のプロバイダメールサーバ等に到達した時点をもちまして不可とさせていただきます。
受信確定メールのメールサーバ等への到達後のキャンセルのお申し出には、いかなる理由を問わず、お受けいたしません。

 そこで、今回の注文者に対しては、この利用規約をもって今後、請求、対応をしたいと思うのだが、この一旦注文を受ければキャンセルは受け付けない、また支払い期日経過後には遅延損害金を徴収する等につき、違法性(または、それに近い問題性)はないかどうか確認したい。

 法 律 解 釈

 本件だが、先ず結論的には、承諾通知到達後のキャンセル不可の点は違法とは言えないのではないかと思われる。
 また、遅延損害金の約定については、いつから遅延かの問題があるが、消費者側が対しうる一定期間経過以前の部分に関して一部無効の余地はあるかと思う。この点、全面的に遅延損害金を課すことができないとなるのは少々疑問を感じる。

 本件「違法」となる場合があるかの観点から検討してみる。

 まず、本件申込時に確認画面が表示されていたかは不明だが、表示されていたのであれば、民法95条但書が適用されうるところとなる。
 申込者の年齢などにもよるのだろうが、一般的には確認画面を無視して申し込んだ場合には重過失が認定される可能性はありそうで、よって、錯誤無効の点を考慮しない点が直ちに違法とは言えないと思われる。

 また、キャンセル不可としている点についても、承諾メール到達後の返還を不可とする特約は、それ自体が直ちに消費者に不当に不利益ということではないだろう。
 特約としての記載もなされている点に鑑みても、違法とはならないのではないと考える(もちろん、本件で承諾メールが申込者に到達していないのであればキャンセルが可能であるが)。

 さらに、遅延損害金の点については、業者側が定めた期限を徒過した瞬間から遅延損害金発生というのも確かに穏やかではないが、それが消費者にどれほど不利かによるのではないかと思われる。
 履行方法の変更を伴う本件において、一定期間の猶予はあってよいと思うので、その準備のための合理的期間経過後は遅延となるというのであれば、妥当ではないかと思料する次第である(一部無効(=違法)の可能性あり)。

 従って、本件業者の申立内容がそれほど重大な違法性を伴うとは思えないのではあるが、ただ、業者側としても何ら履行をしていない段階であり、実質的には被害ゼロの段階で損害金まで含めて請求をしていくのも尋常ではない。
 よって、消費者には非を理解させて、業者は矛を収めるのがよろしいのではないかと思料する。

 解 説

 このケースは2つの問題があって、1つは、注文送信後「キャンセル」が出来ないというのは正しいのか、また、代金を支払わない客に対し、商品引渡し前にも関わらず消費者契約法に定められた範囲内で遅延損害金を請求することが出来るのかどうか、の点である。

 このキャンセルに関しては、あくまで「商品到着前」の状態を指し、商品到着後は「返品・交換」となるのだが、当該事業者においても、届いた商品に初期不良があった場合は交換に応じている。つまり、商品が到着するまでの間は、事業者側から注文を取り消したり商品が届かないなどの理由がない限り、注文者は文句が言えないと宣言しているものである。
 ただ、この点は、やたら大袈裟な表現とはいえ、単に「注文後お客様都合によるキャンセルは出来ません」と、ほぼ同じような内容とも思われ、一概におかしいとは言えない。ただ、商品発送前であれば、正直、事業者側にも、あまり実害は発生していないのではないかと思われる。
 このような内容は、規約を盾に強引に発送後、注文者の受取拒否等により不要な手数料が発生するなどしてトラブルの元になりやすく、ECネットワークのガイドラインにおいては、商品送付前のキャンセルについては、基本的には受けるよう定めている。

 さらに、契約成立後、代金を支払わないこの注文者は確かに約束の不履行状態だといえるが、商品引渡し前の段階にて、このように逃げた客に対し遅延損害金をもって請求を行う事業者も、はっきり言って、いかがなものだろうか。
 規約内容に直接違法性がないからといって、それが全て許されるというのではなく、実損を伴わないものであれば、最終的には事業者側が引くのが一般的ではないかと思われる。
 少なくとも、この事業者に関して言えば、規約通りに請求をするのはやめていただきたいし、書面の届かない相手とのやり取りは時間の無駄である。他の客に再販売したほうが合理性も高いと思われるのだが。