その2: 契約成立を巡るトラブル

 
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その2: 契約成立を巡るトラブル

 いつの時点で契約が成立するのか

<事例>

 インターネットにて、ゲームソフトを購入しようとしたのですが、注文画面で何回も受付できませんと出たため、他店でインターネットにて同じ商品を注文したところ、後日、メールにて商品を発送しましたというメールが来てしまいました。
 そのため、商品をキャンセルしたいとメールを送ったところ、注文後のキャンセルはできないと回答があり、ホームページを調べたところ返品も出来ないと書かれてありました。
 キャンセルや返品したいんですが、出来ないのでしょうか?

 このケースは、双方の「買います」「売ります」の意思が合致して契約が成立しているのでしょうか。 法律上の契約成立時期を確認したいと思います。先ず民法では、遠隔地に対する意思表示は以下のようになっています。

(民法)
遠隔者に対する意思表示・・(第97条)
  ・隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる
  2 隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。
(遠隔者に対する意思表示は到達主義)

遠隔者に対する承諾の意思表示・・(第526条)
  ・隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する。
2 申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。
(遠隔者に対する承諾の意思表示は発信主義)

承諾の通知後の申し込みの撤回・・(第527条)
  ・申込みの撤回の通知が承諾の通知を発した後に到達した場合であっても、通常の場合にはその前に到達すべき時に発送したものであることを知ることができるときは、承諾者は、遅滞なく、申込者に対してその延着の通知を発しなければならない。
(承諾通知発信後に申込の取消通知が届いた場合、通知義務を承諾者に課す)

 これで見ると、民法上の申込みに対する承諾表示は発信主義が取られていることになります。それに対して電子商取引上では、「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律(電子契約法)」により、この民法の特例として以下のように定められています。

(電子契約法)
電子承諾通知に関する民法の特例・・(第4条)
  ・民法第526条第1項及び第527条の規定は遠隔者間の契約において電子承諾通知を発する場合については適用しない

 従来に比べネットなど電子的方法を用いて承諾の通知を発する場合、瞬時に相手方に意思表示が到達するため、発信主義を維持する前提を欠くものと考えられます。そのような場合には契約成立時期を、承諾の通知が到達した時点と変更されたものです。
 これはB2Cに限らず、全ての契約において適用され、また任意規定のため、双方合意のある特約があればそちらが優先されます。

 「電子商取引及び情報財取引等に関する準則(準則)」では、さらに具体的な記載があります。

(準則)
電子契約法第4条の成立時期は具体的にいつか・・(第1・1(1))
  ・メールの場合・・承諾通知の申込者が指定した又は通常使用するメールサーバのメールボックスに読み取り可能な状態で記録された時点
   契約成立
  ・メールボックスに記録された後、システム障害により消失した場合
   契約不成立
  ・メールサーバが故障していたため、記録されなかった場合
  ・文字化けしていた場合
  ・添付ファイルによって通知がなされた場合で、申込者が有していないアプリケーションにより見読出来なかった場合
  ・ウェブ画面の場合・・申込者のモニター画面に受諾通知が表示された時点

   (注文後の承諾メールがあっても、申込後のモニター画面表示内容により、その表示がされた時点で、実質的に事業者の申込に対する承諾の通知があったと解される場合あり)

 冒頭のケースに戻りますが「注文画面で何回も受付できませんと出た」ということであり、それを見る限り、この申込みに対する承諾の通知は少なくとも本人には届いていないことと思われます。またショップからメールが来たのも、商品が発送されたことを知らせるものが初めてだったようです。
 何回申込んでも受付されないために他で購入手続きをした、という経緯を鑑みれば、客観的に見ても、当時、本当に受付がなされていなかったことが窺えます。

 仮に事業者側のサーバにて、この申込みが受け付けられていたとしても、それで注文者が承諾の通知を受け取ったという証明にはならないと思われます。でも逆に注文者がそれを証明することも困難です。受け取っていないものは証明できません。プロバイダで証明してもらう方法も考えられますが、フリーメールの場合、履歴が残されていなかったり開示しないケースも少なくありません。
 そこで、このような争いになった場合は、上記のように客観的にみて受付がなされていなかった様子が少しでも窺えるようであれば、、事業者側が引くのが理想的だと考えます。それが嫌であれば、予め「承諾通知を“送信”した時点で契約成立とする」としておけば良いのです。

 ただ、決済手段にクレジットカード決済を選択した場合、サイト上で注文が失敗していても、クレジットカードの認証が全て通っている場合が多々あります。その場合、リトライした回数全てにおいてクレジットカード決済がなされていきます。この場合はクレジットカード会社の調査協力が不可欠となります。

 また、契約が成立しないまま送付された商品は事業者側に返還請求権があります。
 契約が成立していない状態において、届いた商品を消費者がすぐ使用してしまった場合は、購入したとみなして代金の請求を行っても良いと考えられます。