<事例>
検索エンジンで、「純金」と、他は忘れたのですが、2つのキーワードを入れて検索し、そこでヒットしたショップページよりネット上で注文を行いました。
即日「注文請書の返信」が届いたので契約成立したと思っていたのですが、翌日、販売店から、「価格は古いものなので、新価格で購入して欲しい」との連絡がありました。
ショップが言うには「既にこの商品ページは、現在のオンラインショップサイト上からはリンクがなされておらず、見えなくしてあったはずの申込画面が、今回検索エンジンでたまたまヒットしてしまい、ウェブ上のシステム的にも、そこから注文申し込みまで自動でできてしまっていた」という事情のようです。
つまり、当時、購入したページが今でもショップのウェブサーバ上には残っていて、そこから削除はしていなかったが、ショップからのリンクは消していたという状態です。
現在の価格は、全く同じ商品が53万3,600円で、
旧価格:34万1,250円
現価格:53万3,600円
と、かなりの差があります。
なお、「注文請書の返信」は自動返信メールで、そこにも旧価格がしっかり載っていました。
ショップによると、これはオンライン上でのカタログ販売であって、カタログ自体には有効期限があるようです。こちらで注文してしまったカタログは2年も前のものでした。そのことは注文時には分かりません。
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形式上、消費者からの旧価格での申し込みに対して自動返信メールで注文請け書が返信されれば、契約の申込みと承諾があったと考えて良いと思われます。
また、このケースでは、前回説明した価格誤表記の事例のように、消費者側において錯誤による意思表示であることは判断がつかないだろうと思います。
従って、今回ショップ側が、昔のカタログをそのままウェブ上に残しておいたことが、民法95条の錯誤無効についての表意者の重過失に該当するかが問題になろうかと思います。
そこで、この件に関しては、法律専門家から以下の見解がありました。
通常の価格の誤表示は重過失と考えてよいように思われますが、ホームページからのリンクを外した旧ページに、サイト管理者の意思に反して検索エンジンからの深層リンクがなされてしまう可能性を看過し、インターネットサーバからページデータを削除しなかったことを重過失とまで言うことは難しそうに思います。
ロボット型検索というのはサイト管理者のコントロール外の出来事なので、これに対する対応の不足は(不注意であり過失ではあるかもしれませんが)、重過失とまでは言えない可能性が高いでしょう。確かに後知恵で不注意を批判することはできますが、旧価格のページのデータは価格を修正すれば使いまわしができるわけで、リンクを外した状態で削除せずに残した管理者の判断も理解できます。もちろん、本来はインターネットサーバからイントラネットに移しておくべきだったのでしょうが。
なお、インターネットサーバに通常ではアクセスできない状態で残しておいたデータについては過去にそこからの個人情報流出の問題も生じており、セキュリティの観点からも注意すべき問題ですので、事例として何らかの形で紹介して啓発には努めることが望ましいと思います。
というわけで、私としては消費者に旧価格での購入権がないという解釈の可能性が高いと思いますが、事業者側にも過失はあるわけですので、特別割引の提供や菓子折り程度の謝罪の形は示してもらうのがフェアではないかと思います。
ところで、一つの価値判断として、消費者と事業者は(消費者電子契約法と消費者契約法などの保護を別にすれば)契約法的には本来対等な立場ですから、互いに悪意のないミスで積極的な損害が生じていないものについてはある程度寛容に「許す」ということが電子商取引のルールとしては望ましいのではないでしょうか。法律の条文の具体的な解釈の問題は別にして、どうも、このような場合に旧価格での購入の権利を主張することが社会的に正当な行為だとは思いにくいです。同じ理屈で、私は、ワンクリック詐欺その他の悪徳商法で事業者側が契約の有効性を主張することにも厳しい解釈で臨むべきだと考えております。
価格の誤表記などにより、事業者側から商品注文のキャンセルと告げられた時、契約の有効性を主張し、ともかくその価格で商品を引き渡すよう主張する消費者も多くいます。しかし、事業者がその価格での商品引渡しを拒んだ場合でも、それで消費者に積極的な金銭的被害が発生するわけでもなく、それで損害賠償請求が認められるようなケースもほとんど遭遇しません。
ただ、だからといって、事業者が今度は徹底的に無視を決め込むと、結果、2ちゃんねるやショップレビュー、価格コムなどの掲示板を賑わすことで、他ユーザにもその対応が大きく知られることとなり、最終的には決して良い結果にはならないということだけはいえます。
このようなケースでは、いろいろなタイプの消費者も出てきますので、消費者の行動については、今どきの消費者のコーナーでも取り上げたいと思います。