その18: 消費者契約法(2)

 
知って得するネット取引法入門講座

その18: 消費者契約法(2)

 法律上の「事業者」と「消費者」に不利な条項について

<事例>

 地方自治体が出品するネットオークションにて、H市財政部納税課より375,630円で落札した日本刀は、美術品として購入しましたが、次の通り刀身の「鍛え疵」の説明が不足であり、当方の刀剣商に鑑定して貰いましたところ、鉄くずに近い(せいぜい数万円程度)品物であるとの評価でした。

 そこでH市の担当課へ返品理由を述べ、引取を申し入れましたが、引取を拒否されました。担当者も商品説明が十分ではなかったと弁解はしておりました。私は商品の表示内容と実際の状況が異なる旨を伝え、今後、法的手続きを持って再度申し入れをする事を伝えて、電話を切りました。

1、刀身の鍛え疵の相違点
1)、H市は「鍛え疵」3ヶ所と一部錆があるとの説明
2)、日本刀の良さを十分鑑賞できると標記
2、商品の現状
1)、疵は刀身の中で広がっていると思われ、疵の表面が下の錆で浮き上り割れはじめており、写真・説明と明らかに違っています。
2)、上記の表示が説明されていれば、十分鑑賞に堪えるとは思わず、入札もしませんでした。
以上の点から、瑕疵担保責任も有り、公的機関がオークションに依る返品拒否をするのは、了承出来ません。

・・・・

 H市のサイト上には、「インターネット公売ガイドライン」のページがあり、H市の出品ページからリンクが貼られています。その中には、たくさんの細かい規定がされていましたが、特に以下の記載がありました。

・公売財産はH市税滞納者などの財産であり、H市の所有する財産ではありません。
・公売財産に隠れた瑕疵(かし)があっても、現所有者およびH市には担保責任は生じません。
・ 買受人は、買受代金の納付後に公売財産の返品および買受代金の返還を求めることができません。

 そこで、先ずは、これらの規定が落札の合意の内容になっているかどうかが問題です。これらの条項に落札者が同意したといえる事情がなければ、これらの条項は落札者を拘束しないことになります。
 「電子商取引に関する準則」では、これらの規定を見せられたうえで、同意クリックをしたような場合は、確実に落札者を拘束しますが、リンクが張ってある程度では微妙となります。
 仮にこれらの規定が落札者を拘束しない場合は、この落札は通常の売買契約ですから、瑕疵担保責任の適用があることになり、解除と返金を求めることができることになります。

 そして、仮にこれらの規定が落札者を拘束するものであったとしたら、その効力はどうなるのでしょうか。

 瑕疵担保責任を負わない旨の特約は、「知りながら告げなかった事実」には適用がありません。
 
先方が説明不足を認めているということは、「認識はしていたが説明はしなかった」ということなので、これにあたる場合が多いと思われます。また、内部の錆で表面が割れてきているような状態であれば、外見上明らかですから、「一部錆がある」とか「日本刀の良さを十分鑑賞できる」と書いたことは、知りながら事実を告げなかったと認定される可能性があります。

 ところで、「公売財産に隠れた瑕疵(かし)があっても、現所有者およびH市には担保責任は生じません」といった、いわば瑕疵担保責任を負わない特約は、そもそも消費者との取引において有効なのでしょうか。
 また、このような行政機関は、消費者契約法の「事業者」になりえるのでしょうか。

消費者契約法

第二条 
この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。
2 この法律において「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。
3 この法律において「消費者契約」とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいう。

第十条
民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

 第十条は、「消費者の利益を一方的に害する条項の無効」を定めたものですが、内閣府の消費者契約法のポイント解説では、「事業者が損害賠償をすることを全部免除しているもの」は無効になりえる条項と位置づけていますので、今回のような条項も無効と判断される可能性もあるのではないかと思われます。

 同じく内閣府の逐条解説では、第二条の定義について、2の「法人」とは

自然人以外で法律上の権利義務の主体となることが認められているもの。国・県・市・町・村のような公法人、特別法による特殊法人、民法第34条の公益法人、商法上の株式会社のような営利法人、協同組合のように個別法に根拠を持つ法人、特定非営利活動促進法人等に分類される。宗教法人や労働組合法第11条に基づく労働組合もこれに含まれる。なお、行政主体が一方当事者となる場合は、行政法学上、下記のような類型の行政においては、「契約」と解される。

1、調達行政
行政処分によること(課税、土地収用等)もあるが、土地の任意買収、普通財産の売却の場合等は、民事上の「契約」と解される。 

 と書かれています。

 以上のことから、今回のH市が、滞納税者から差し押さえた物をオークションで販売することに関しては、H市は消費者契約法上の「事業者」となりうるものと思われます。

 なお一方、参考までですが、特定商取引法に関しては、以下のような適用除外の定めがあります。

(3)適用除外(第26条)
・・次の販売又は役務の提供で訪問販売・通信販売又は電話勧誘販売に該当するものについては適用しない。

3. 国、地方公共団体が行う販売または役務の提供