第五十二話: ASPにお願いしたいこと

 
相談事例から“ちょっとためになるお話”

第五十二話: ASPにお願いしたいこと

 相 談 内 容

 手持ちの携帯電話に、ラインストーンやビーズ等を使ってデコレーションしてくれる(デコ電)サイトに注文、18,900円の代金を振り込んだ。
 注文などのやり取りは全てメールで行い、注文し、振込み受領まではメールの疎通は良好だった。注文時、商品の発送は振込み完了から3〜5日と返信があったが、期日を過ぎても商品が届かず、こちらから商品の発送状況を確認するメールを送信したが、相手先もこちらも別会社のフリーメールのためか、疎通がうまくいかなくなった。

 今月に入り、サイト先から「1度メール便で発送しましたが、厚みがあり戻ってきております。何度か連絡しましたが、お返事いただけません。明日連絡がなければエクスパックで発送します」というメールがきたので、これで商品が届くかと思っていた。
 しかし、今日現在も商品は届かず、こちらからは、メールでのやりとりしか連絡手段がないため、メールの相性が悪いと考え、先日、主人の持っているフリーメールのアドレスからもメール送信を試みたが、やはり返信がない。

 このネットショップは、ネット上の銀行振り込み先も個人名だったので、このまま泣き寝入りするしかないのだろうか。今まで他にもネット上での買い物は、何度となくしてきているが、このようなトラブルは初めてで、どこに相談して良いかわからず、こちらを紹介された。

 処 理 概 要

 回答を送る前に、相談者より連絡があり、入れ違いでサイトから連絡を貰い発送してもらうことになったということだった。
 そこで、先ずは商品の到着を待ち、商品が着かなかった場合はすぐに連絡するよう伝えた。

 解 説

 相談内容自体は、相談者には本当に申し訳ないのだが、非常に良くある相談内容な上、すぐにサイトから連絡があったとのことだったので、悪意ではなく、本当にフリーメールによる相性の問題、及び郵送の問題が少なからず発生していたという可能性もあった。

 しかし、こちらでショップのサイトを確認することにより、別の問題が浮かび上がってきた。
 このショップは、ネットショップ向けのシステム等を提供しているASPのサービスを利用して開業、販売を行っているのが確認できたのだが、当然、義務付けられている特定商取引法の表示について、このショップは以下のようになっていた。

販売主 ○○
住所 ご注文後メールに掲載
電話番号 ご注文後メールに掲載

 表示義務については、「法的解釈30 広告表示義務と省略可能事項」でも解説したのだが、消費者からの請求により、それら表示義務事項をすぐに提供できるのであれば、その一部については、その表示義務条項をサイト上から省略することが出来る。

 このケースは、一見、上記のケースに該当しそうな気もするが、「ご注文後メールに掲載」となっているので、消費者は実際に注文しないと、これら情報が事前には分からないこととなり、その場合は特定商取引法に抵触する可能性があるように思われる。

 さらに、相談内容では、『こちらからは、メールでのやりとりしか連絡手段がないため』とあり、注文後においても、本当に住所や電話番号を知らせているのかどうか疑問である。

 このショップを開設しているのは、このような個人事業主やごく小規模ショップサイトを専門に扱うASPであった。そのASPでサイトを開設しているショップには、全てそのASPを利用していることを表すドメインが付与されている。
 このASPは原則的には、ウェブサービスや決済などのシステム提供と保守管理だけを請負っているため、いわゆるショッピングモールとは少々異なるが、そのASPと契約するショップにおいては、当然、規約上、法律に違反する可能性があることは認めていない。特定商取引法の表示については予め雛形が用意されているものと思われ、各ショップは、その雛形を利用し、必要な表示を行っているものと思われる。

 ただ、ASPについては、その雛形は用意出来ても、そこにどこまでの情報を表示しなければ適切とはいえないかという判断まではなされていないのではないか、ショップの表示内容が常に正しく表示されているのかどうかの確認をきちんと行っていないのではないか、という疑問がわいてきたのである。

 このASPは比較的安価で、多種多様なサービスを提供しているため、手っ取り早く低コストで開業したいと思う個人事業主には打ってつけのサービスだと思われるが、まさに、そのような個人事業主こそ法律の順守について啓発が必要なため、それらと専門に契約するようなASPには、もっと知識を持って各事業主に対応してもらいたいと思う。

 また別件で、個人事業主から、このASPを利用してショップを開業しているが、サイト上から商品情報が消えてしまうというトラブルが発生しているにもかかわらず、そのサポートが長期に渡り行われず、料金だけは引き落とし続け、連絡もなかなか取れないという相談が寄せられている。
ショップとASP、どちらも安かろう、悪かろうでは、インターネット取引の安全はいつまで経っても期待できないように思う。