数年前よりプロバイダA社を利用している。元々このA社のサービスには不満を持っていたが、長期契約期間の上、メールアドレスの変更も仕事等に支障をきたすため、仕方なく利用してきていた。
このA社をプロバイダB社が吸収の形で統合することになり、それに伴ってB社のA社担当部門からメールで、『PCの設定を期日までに変更しないとA社のメールアドレスが利用できなくなる、何かあればメールで連絡を』という知らせを受け取った。
そこで、設定方法がわからなかったのと資料がほしかったため、メールで問い合わせたところ、返信にて『PCの設定は変更せずに今までどおり使える、資料は追って送信する』ということだった。
しかし、その後B社A社担当部門より連絡は無かった。ただ、何も変更が必要ないということだったので安心していたが、突然メールの一部のサービスが利用できなくなってしまった。具体的にはA社のアクセスポイントを利用してのメール送信が出来なくなったというもの。
ただいろいろな理由よりメールアドレスの変更をすることが出来ないので、どうしてもA社のメールアドレスより送信したかった。やむを得ず他のアクセスポイントを利用してA社メールアドレスで送信したが、送信先のセキュリティではねられてしまったり、受信拒否にあったり、信頼関係にヒビが入りそうになってしまった。
そこで、これら報告と質問、前にお願いした資料の送付を、B社A社担当部門に求めたところ、別の担当者より『そのような資料は存在しない、変わりにパスワード等を送るので確認するように』といった返信があった。それ以外のこちらが求めていた質問に関しての返答は無く、メールは途中で文字化けしていた。その上、頼んでもいないパスワードを送ってきているが、以前パスワードはセキュリティ上メールではお知らせできないと聞いていたので、この矛盾した対応に腹が立った。
そこで、さらに返答いただけなかった質問と資料の送付依頼、パスワード送付に関する疑問、文字化けして読めないので何が書かれていたのか、満足にサービスを利用できないまま料金を支払い続けなければならないのか等、再度B社A社担当部門にメールを送信したが、以後、約1ヶ月半経過するが今になっても返信が一切ない。この間も料金はクレジットカードに請求され続けている。
希望としては、当初よりお願いしていた資料の送付と、疑問点に対しての納得できる答えが欲しい。それと利用できなかった分の料金の返還を求めたい。現在、中長期に渡り海外にいるので電話連絡という手段をとれない。やり取りはメールを希望している。
相談者は、当初、別の行政が行う相談機関に相談したが、相談者本人が海外にいること、電話でのやり取りが困難なことから、相談機関より相談室を紹介されたものであった。
事業者(B社)はプロバイダとしては大手であり、連絡が取れなくなるという事態があまり考えられなかったので、まずはあっせんとして相談室より事業者に連絡を取った。2回目の連絡で事業者より連絡が入り、相談者の件については対応するとの短い回答があった。その後、相談者より事業者から直接回答があったとの連絡があった。
ただ、相談者が相談室を介してのやり取りを希望したため、相談室より事業者に再度連絡を取り、その際に相談者より預かった質問を事業者側に伝えて、再度回答を依頼した。
相談者からの質問は、『どうしてIDとパスワードを送付したのか、それは担当者個人の対応か』『メール送信時、B社A社担当部門の担当者のほか、CCにて他部門にも送っていたのにどうして返信が無かったか』等、かなりのボリュームで約10項目にも及んでいた。
事業者からは、『IDやパスワードの送付は送付するための資料と間違えた、上司に無断で行ったもので再演防止を徹底する』『たらいまわし防止のため、問い合わせ窓口はひとつに絞っていた』等の回答があった。
それら回答に対し、相談者からは、さらにその質問の回答に対する疑問点がかかれており、そのほとんどは、『今までの事業者側の対応に問題があるから自分はこういった事態になっているのだ』という主張であった。
事業者側には、その相談者の主張を伝え回答を得たが、そのどの回答に対しても、相談者はさらに質問を繰り返す状態であり、当相談室としては解決の糸口が見えないため、今回の問題点は、『資料の送付』と『利用できなかった期間の利用料返金』であり、この2点についてのみ、相談室が関与することを双方に通知した。
そこで、事業者側から、資料に関しては手動で設定する『ガイド』が添付ファイルにて届いた。また返金方法はA社とB社からの返金処理になるので、もう少し時間が欲しいとの回答だった。相談者に伝えたところ、回答本文にある『ガイド』と添付ファイル名が異なっているがどういうことか、また以前3種類の資料があると聞いていたので、今回それがどれに該当するものなのか、といった質問、さらに返金に関しては、クレジットカードに返金して欲しいとのことであった。
事業者側からは、添付ファイルは本文記載と同じものであるということ、3種類の資料のうち残り2種類については、A社からB社に変更するときに新規パスワード等とともに、相談者の国内の自宅に送付しているとのことだった。クレジットカードへの返金は2社に分かれるため手続きが複雑なので、もう少し時間が欲しいとのことだった。相談室からは返金方法については至急検討をお願いしたい旨伝えた。
相談者は『郵送による送付は受けていない、メールで送ると約束していたのであるからメールで送付するべきだ』との主張であった。事業者側に確認したところ、判取証明があるとのことだった。相談者がそれをスキャンしてメールで送るよう希望したので、相談室を介してスキャンした画像を添付ファイルとして送付した。画像を見る限りでは、確かに相談者あてのものであり、四角い印が押されていた。相談者は、『こういった四角い印を家族のものが持っているか知らない、もともとメールで送ると約束したのだからメールで送るべき』と主張した。
事業者側は『パスワード等のデータがあるため、それこそ叱られたようにメールでは送ることが出来ない、CDで再送するので日本でも滞在先でもかまわないから送付先を知らせて欲しい』『料金返金に関しては、本月分は引き落としをストップし来月分は請求しないように処理を行った、その前の4か月分をクレジットカードに2回に分けて返金する』とのことだった。
しかし相談者からは、『滞在先にはいつまでいるかがわからない、CDで送付するのであれば、今までメールで資料を送付することを信じてやり取りしてきたのはなんだったのか』『引き落としをストップするなど、クレジット情報を勝手にいじられては困るし信用にキズがつく可能性がある、一旦引き落とした上でクレジットカードに一括返金して欲しい、その際レシートを発行して欲しい』とのことだった。
ただ、現実問題として資料をメールで送付することは不可能でありレシートも発行できないとの回答だったので、相談者には『滞在先の所在地を知らせても良いのか、またクレジット情報に影響が出ることは考えにくく、返金方法に関しては帳尻が合えばよいのではないか』という質問をしてみた。
相談者は『滞在先に自分の名前を表示していない、他の人が受け取る可能性もあるし、危険なところまで引き取りに行かなければならないかもしれない、どのようなサイズでどういった郵送方法をとるのかがわからなければ受け取れない』『CDに入るデータであれば、セキュリティ上問題あるデータのみ削除し、他は分割してメールに添付でも送付可能ではないのか』『レシートが発行できないのは納得いかない』等の回答があった。
この時点で相談室では、相談者側に解決の意思が全く感じられないことを確信した。相談者には、『問題点は資料送付と返金であり、それにおいては解決手段が具体的に見えてきていること、解決のためには一日も早く資料を受け取ることと返金を受けることが必要である』『事業者に対する怒りはわかるが、解決に向けて前向きな検討が出来なければ相談室を介していてもいつまで経っても解決できない』ということを伝え、相談者側でもある程度の譲歩を依頼した。
しかし相談者からは『元々事業者側が嘘をついたり適切な対応をしないからこのようにこじれている』『自分が傲慢と言っているのか』といった返事があり、最後まで解決に向けた前向きな回答は得られなかった。仕方なく相談室では事業者に対し、『当初は事業者側と連絡が取れないということであっせんを行ったが、現在はこのように連絡が取れる状況であり、具体的な解決手段が既に提示されていることもあるので、今後も相談者から問い合わせがあれば引き続き対応して欲しい』旨、伝えて相談を終了した。
相談受付から終了まで約4ヶ月かかった案件である。
基本的な問題点としては、統合時に事業者側の返答が二転三転したために相談者が混乱したということ、また相談者の再三の質問に対し、事業者から連絡が途切れたことにより、元々持っていた相談者の不満がさらに大きくなってしまったものと考えられる。
よく相談者の不満が大きくなることのひとつに、『約束していた期日に返答がない』というものがある。特に当事者間での交渉により解決可能であっても、事業者側より連絡を欠くことや一方的に連絡を絶つことにより、返答をもらえない相談者が第三者の介入を求めることも少なくない。
トラブルが発生して交渉している段階において、特に消費者は、トラブル発生による不満に加え、不安定な立場におかれていることにより、事業者側より自分の存在を無視されていると感じたときや約束を反故にされたときに、不満が一気に噴き出すものと思われる。
事業者側においても対応や回答に時間を要するのであれば『○日までに回答します』等の連絡をこまめに入れるだけでも、消費者は無視されていないと安心し、生活における仕事や学業にも専念する余裕が生まれ、その余裕が早期円満な解決を生むと考えられる。
事例に戻るが、この相談者は、ともかく1回のメールのボリュームが大きく読みこなすにも多大な時間がかかった上、その内容には、毎回事業者側への不満が事細かにかかれており、事業者側からの回答に対しては言葉の揚げ足取りまで始める始末であった。自分の形勢が不利になると『事業者の対応が悪かったからこうやってもめることになるのだ、最初から嘘をつかず対応していればこんなことにはならなかった』という主張に変わるのが特徴的であった。
また、相談者の主張の中で、『資料はメールで送ると事業者側が約束したのだからその通りメールで送るよう、自分の主張は最初から最後まで一貫している』というものがあったが、第三者から見れば、それは主張の一貫ではなく単なる頑固であり、当初の相談内容において『やむを得ず他のアクセスポイントを利用したら、事前に連絡するのが当たり前だ、と叱られたり、信頼関係にヒビが入りそうになった』という内容が書かれていたのだが、その程度で一般社会の信頼関係にヒビが入るものなのかも容易に考えにくい。
メール文の構成は、最後まで乱暴な言葉は使用せず外見上理論的な文章になっていたが、感情の高ぶりが感じられ、そのボリュームや内容より、日常の生活の中で、かなりの時間を割いて相談室への回答文を作成しているものと感じられた。また滞在先での時差を考慮しても、相談室からのメールに対し10時間以内に返信が届く状態であり、この期間、相談者の頭の中はこのトラブルの件でいっぱいであることが容易に想像できた。 残念なのは、それはどのようにしたらトラブルが解決できるかで頭がいっぱいなのではなく、事業者に対しどんな文句をいうかを一生懸命考えていたのであって、事業者に対し一方的に文句を言い優位に立てる自分の立場を楽しんでいたのかもしれない。それが最終的には、生活の一部や果ては日ごろのストレス解消になっており、この相談者には、もしかすると、解決して終了となり、この事業者に一方的に文句を言えなくなることのほうが恐かったのかもしれない。それとも、自分の主張を事業者側が100%で受け入れるまでは許すまじ、といった『戦』といったところか。そうでなければ返金額約2,000円のことで、ここまでは出来ないだろう。
ただ、この相談者は『クレーマー』ではない。感情論で行動し、それがやがて生活の一部になってしまった例である。この相談者には解決の意思は感じられなかったが、だからといって事業者側に対し、そのほかの金品の請求や目的も特に感じられなかったからである。また権利意識が高い消費者、という概念も当てはまらないだろう。 ただ、ストレス社会の現在、こういった消費者は増加傾向にあると思われる。