ヤフーオークションに事業者より「中古部品取り用車」の出品があったので、こちらから希望の部品(アルファロメオ75TSウォッシャータンク)をメールで知らせ、オークションシステム外の取引として、その後は携帯電話とFAXでやり取りし、指定口座に代金5,000円と送料1,000円を振り込んだ。
2日後、宅急便にて商品は到着したが、汚れがひどかったので、こちらで水洗いを行った。しかし、商品の状態が悪く、作動の確認も取れなかったので、同日、メールにて返品する旨を連絡するとともに、宅急便で商品を返送した。
その後、メールで何度も返金を依頼、督促したが『確認する』との返信が一度あったきりで、その後の連絡も返金も無い。
取引から1ヵ月後、事業者の携帯に電話したところ『一方的に送りつけられても返品は受けられないし返金もできない。商品には問題はないはず。メールを何度もしてくるのは非常識、第三者機関に相談すると書いてあったが、そんなことすれば大変なことになるぞ。洗ったときにそちらが壊したっていうこともできるんだぞ』と半ば脅しのよう言われている。
いずれにしろ、事業者側は返送されたものを受領したまま1ヶ月余り何も対応せず、こちらは代金を支払ったのに返金されず商品もない状況である。もっとも、商品を再度返還されたとしても、こちらとしては『不良』を理由に返品している関係上、そのような対応は希望しておらず、解決とはならないと思っている。
しかし、商品代金に鑑み、法的手続きに訴えることも出来ないので、事業者とあっせんをして欲しい。
相談室では、まず商品の具体的状態がわからなかったので、その状況と、事業者とのやり取りの詳細と知らせるよう伝えた。
それとともに、不具合のある商品を送られてきたという理不尽な気持ちは分かるが、事業者側と交渉をしないまま一方的に商品を返品しても、それで事業者側から返金されるという保証は無く、かえって商品が手元に無いまま代金が返還されない、という不利な立場になってしまうことを伝え、法的手段による解決を望まないなら、時に譲歩も必要であるという考え方が理解出来るかどうかを訊ねた。
相談者より事業者とのやり取りと、当時の商品状況を知らせてきた。
事業者とのメールのやり取りに特に問題はなさそうに思えたが、事業者からの返信は確かに一度きりであった。
また、ウォッシャータンクにはポンプが付いており、ポンプはウインドウォッシャー及びヘッドライトウォッシャー、これにレベルセンサーが付いたもの、不良箇所はヘッドライトウォッシャーが稼動しなかったとのこと、その原因は分からないが、一度確認のため、配線をつないでいるとのことだった。
相談室では、水洗いしただけでポンプに影響を及ぼす可能性は低いと考えたが、相談者の車の配線に問題が発生している可能性は無いかどうかを、再度相談者に確認してみるよう伝えた。
相談者からは、車の配線には問題はないと認識している、但し、ヒューズなど自分で点検できる範囲のものは点検しているが、整備工場等で点検をした上で「配線の問題はない」と言うところまでの結論を得ているものではない、との回答であった。
また、あっせんにおける相談室の考えも理解するとのことだったので、相談室より事業者に連絡を取った。
事業者からは以下の主張があった。
・ウォッシャータンクは、相談者と何度も連絡をとり、「汚れていますが、よろしいですか?」と問い合わせをし、相談者からは了承をもらって送ったものである。
・こちらから発送する際には、中古部品のため必ず2名で、稼動するのを確認した上で発送している。従って「水洗いした事により、動かなくなってしまったのではないか?」との回答をした。
・その後、こちらでも「稼動しないウォッシャータンク」を確認したかったので、「送り返してください。新しいウォッシャータンクをお送りします」と連絡をしたが、相談者からは「こちらは、受け取り拒否いたします」 と回答されてしまった。そのため、こちらからは他のウォッシャータンクを送ることをしなかった。
・相談者に連絡を取るにも、メールでの回答でしかなく、連絡も無しに勝手に返品した後に、「不良品」としか言わない。
・今まで何百件と取引をしてきたが、このように一方的なお客様は初めてである。今後このようなメールをもらうのは迷惑なのでやめて欲しい。
相談室では、上記回答の中で、「送り返してください。新しいウォッシャータンクをお送りします」という相談者とのやり取りがあったことを初めて聞いたので、事業者には、その点を、こちらにて相談者と確認すると伝えるとともに、相談者の不利な立場への理解と、相談室のあっせん業務への理解を求めた。
相談者から回答があり、『事業者とはメールで何度か問い合わせをしても、一度「確認する」との返信があったきりである』ということ、従って、『「送り返してください。新しいウォッシャータンクをお送りします」と連絡があった事実は無い』ということ、また『送り返したものが不良品だったのかどうかも回答が無い』とのことであった。
その上で相談者は、『新しいウォッシャータンクがあるのであれば送って欲しい』ということ、『商品は既に販売店の手にあるにもかかわらず、返金に応じてもらえない理由の説明が全く無く、また購入時に「不良以外の返品不可」との説明も無く、インボイス(納品書)も無い、2ヶ月余りの間、代金も商品もとってしまっていること自体、商売としてフェアではないと思う』『本当なら、もう返金して終わりにして欲しい』とのことであった。
相談者の主張を伝え、再度検討するよう事業者に伝えたところ、事業者は『こちらには、落ち度は無く納得できないが、送り返されてきた商品を返送し、その上で \3,000を返金する』といった回答があった。
相談者に、この事業者側からの条件で検討できるかどうかを訊ねたところ、その内容を受け入れるとの回答であり、今まで直接交渉において全く進展しなかったことを考えれば、たとえ全て希望通りでなくても、その内容で解決したいとの意見だったため、事業者にその旨通知した。
その後半月ほど経ち、相談者から \3,000の返金があったが、商品が未だ返送されてこないとの報告があった。
相談室より事業者に連絡を入れたところ、『工場移転の為パーツの在庫がどこにあるか確認が取れず、少人数での作業なので、1週間〜2週間かかるかもしれない、時間が欲しい』との連絡があった。
双方合意より1ヵ月ほど経った後、相談者から商品が返送されてきたとの報告があった。
インターネットオークションに限定せずとも、届いた商品に問題があった場合、相手方の了解を得ずに一方的に商品を返送する相談者が、結構多くいるように感じられる。
代金後払いであれば、それほど大きなトラブルにはならないかもしれないが、特にオークション等においては、大抵代金先払いのため、このように商品を手元に残さないまま返送してトラブルが拡大し、交渉がますます困難となってしまうことも多い。
先に紹介した第4話の案件も、このケースに該当する。
返送する相談者の考え方にもいろいろある。腹立たしい商品をひと時も自分の手元においておきたくない、というケース、返送すれば当然契約は解除となり、相手方は返金してくると考えているケース、強制的にでも商品返送をして受けとらせ、相手方の良心に訴えることにより返金をさせようと考えるケース、などである。
返送料を自己負担するケースもあれば、いきなり着払いで返送するケースもある。
そして、相手方の対応といえば、おとなしく全額返金に応じればよいが、一方的に手数料等を差し引いた代金を返金するケース、返送されたものを受取拒否し合い、郵便局や宅配業者に多大な迷惑をかけるケース、また今回のように、返送された商品を受領したまま一切の返金に応じないというケースも多い。
今回の案件では、あっせんにて解決したが、その点、何よりまず事業者側の対応に問題があるように見受けられた。事業者として、たとえ一方的に商品が返送されてきたとしても、その相談者に対し、まずは前向きな話し合いを持とうと努力するべきだったと思う。
また、「送り返してください。新しいウォッシャータンクをお送りします」をいうやり取りがなされていたかも最終的には分からないままであり、また『取引した商品そのものを返送し、取引代金の一部返還を行う』という解決を取ったところから、事業者の手元に、果たして代替商品がきちんとあったのかどうかも疑問がのこる。
また、合意後の対応も遅く、本来、相談者のものである当該商品の保管管理にも手落ちがあるように感じられた。
ただ、本当に訴訟に向かないトラブルに対する解決に関しては、まず当事者間の交渉が不可欠であり、相手方のほうに非の割合が高いと思われるのであれば、一方的に商品を返送して、わざわざ自分から交渉の立場を不利にする必要も無いと思われる。
相談を受ける立場としては、相手方の合意得ずして返送する前に、せめて1度、第三者の意見を聞くように心がけて欲しいと思う。