第八話: お金より大事な個人情報

 
相談事例から“今どきの消費者”

第八話: お金より大事な個人情報

 相 談 内 容

 インターネットショップでクオーツ時計を42,000円(支払額)で注文したが、私事情により注文から3日後にキャンセル依頼の申し出をした。
するとショップより、キャンセル手数料として定価(支払額ではない)の30%を求められた。しかし以下の理由により、このキャンセル料の請求には納得できないので、今後どう対処したらよいか相談したい。

・当初HPにはキャンセルの説明部分には手数料がかかるとのコメントはなかった。
(現在はその内容が変更されているが、以前の内容は印刷で残してある)

・私は、HPをみて商品発送前ならキャンセル可能だと思っていた。
キャンセルの説明欄に「お客様のご都合による返品の場合は、ご返送分の送料手数料+お届け分送料手数料+振込み手数料」をご負担いただくことになりますのでご注意下さい」と書かれていたし、注文後届いた注文確認書に「商品ご到着より2週間以上経過した場合、ご返品キャンセルは控えさせて頂いております」と書かれていたので、それまでなら大丈夫だと思っていた。

・確かに「事前連絡(ご注文より2日以内)なしに一方的にキャンセルされた場合には保証金としてキャンセル料ご負担(定価の30%)頂く場合がございます」と支払方法の欄には記載されていたが、私は、上記のキャンセルの説明欄を重視していたので分からなかった。
また、同じ欄に「必ず確認メールをお送りいたしますので、キャンセルご希望の場合には、折り返しご連絡下さい」ともかかれていたので、折り返し連絡すればキャンセル可能だと思っていた。

・注文確認メールには「ご入金を確認させて頂きましたら、すぐに商品手配させて頂く予定で御座います」とあり、未支払いなのでキャンセルできると思っていた。

 処 理 概 要

 相談室がサイトを確認したところ、確かにサイト上には「キャンセル料 定価の30%」という記載があった。相談者に更なる詳細を求めたところ、相談者よりサイト変更前の印刷した画面と、事業者とのやり取りが送付されてきた。

その上で、『事業者からは、定価52,500円×30%=計15,750円をキャンセル料として請求されているが、キャンセル料として5,000円程度であれば支払っても良い』、『キャンセルの理由は、この時計を以前から欲しがっていた友人のためにクリスマスプレゼント用にと考えていたが、本人が既に購入済みだったため』との知らせがあった。

相談室で双方のやり取りを見たところ、相談者は既に相談室の具体的名称を挙げて、そこで相談をしている旨を事業者に知らせていること、事業者側からは『キャンセル料に関するサイト記載内容の変更に関しては、表記が曖昧との指摘があったので変更している』こと、キャンセル料そのものに関しては、『客観的に考えても、現時点にて、不利益、損害と呼べるものはなく、一方的なキャンセルを受けたことにより、「ご注文商品仕入代金」としての「経費」が損失として出ている』との回答があったことが分かった。

 さて、当該事業者から商品を申し込む際、申込者と商品届け先が別の場合は、別途届け先を記載するようになっている。やり取りの中では、相談者が商品を申し込んだときに記載した『申込者の名前』と『お届け先氏名』、及び『申込者の住所』と『お届け先住所』が、以下に指定されていることが分かった。

『申込者の名前』→相談者名   
『お届け先氏名』→会社名 相談者名
『申込者の住所』→○○町2-5 2階
『お届け先住所』→○○町2-5

 この点、事業者からの最後のメールには、『上記ご注文お申し込み時の内容に偽り間違いはありませんか?お住まいのご住所がお勤め先の2階となっておりますが、こちらは何号室になりますでしょうか?またあわせて当初から記載のない固定の電話番号もご連絡下さい』という問いかけがあった。

 そこで、やり取りの中で既に相談室の名称が出てきており、事業者側も相談室からの問い合わせに応じる気配があったため、相談者の了承のもと、事業者に連絡を取った。
 事業者から返信があり、以下のような内容であった。

・当店の販売マニュアル(規約)の主要内容は、相談者が申し込んだ時から一切変更していない、相談者より「表示の方法も少々曖昧でわかりづらい」との指摘を受けたので、わかりやすい様にごく一部記載方法を変更した。
・注文内容で、『お届け先住所』先は相談者の会社宛となっていたが、ご自身の住所が「お届け先会社住所と同様住所の2階」となっており、部屋番号記述は無かった。自営業者ならわかるが、ある程度の規模の会社で「お住まいが都会にある会社の2階」という点が不思議に思った。この点は重要視している。
・電話番号は「携帯電話番号のみ記載」であり、メールアドレスも勤め先のドメインのようである。この点、「ご住所記載などご注文内容に偽り間違いはありませんか?」「又、固定電話番号もご連絡下さい」と確認をお願いしたが、その返答は一切無い。
・相談者の提案であるキャンセル料5,000円を検討する前に、まず「ご注文内容及びキャンセル希望内容に偽り間違いないか」と言う点を確認して欲しい。
 万一、偽りの住所にてご注文をされ、キャンセル理由も曖昧なまま一方的にキャンセルクレームをしているとなれば、こちら側も根本的に今後の対応方法を考え直さなければならない。

 そこで相談者には、まず事業者の回答内容を伝えるとともに、事業者に対して、相談者にはどのような確認が必要なのか、またその理由について質問をした。事業者からは以下回答があった。

・注文内容(お客様個人情報)に万一偽りがあるとすれば、最初からキャンセルするつもりで注文を入れているのではないか、と疑わざるを得ない。
・キャンセル内容について「プレゼント相手が既に購入済みだったため」とのことなので、その方にその時計の保証書を見せてもらう(場合によってはFAX、写真などで)ことで事実確認が出来ると思う。時計には必ずメーカーの保証書がついており、その保証書の仕様、ご購入日時、時計品番、ご購入店舗などの内容を確認すれば詳細がわかる。
・例え、規約通りのキャンセル料金15,750円を負担してもらったとしても、それでも到底仕入れ代金には及ばず、また多数品目を販売しているので、上記のような高額商品は、またいつ注文があるか分からない。
決して高額なキャンセル料を請求しているわけではない、他店においても大体仕入れ後のキャンセル料金が定価の30〜50%というのが通例となっている。
・ただ、上記、注文内容とキャンセル内容に間違いはないと確認できたら、相談者提案のキャンセル料についても考慮する。

 相談者からも回答があった。

・勤めにでていて日中家を空けることが多いため、特に大意なく住所の記載も全て勤務先にした。2階としたのは、勤務先が2階のフロアだからであり、たまに間違って1階に届いてしまうから明記したものである。
・住所が必要なら以下記載するが、(※実際の相談者の住所の記載あり)固定電話は自宅に引いていない。
・クリスマスプレゼント用にと考えたキャンセル理由は事実だが、とてもその相手に保証書などみせてほしいとは言いたくない。
・あっせんしてもらって恐縮だが、今回は買い取りをするので、私の個人情報は、このような感情的になる事業者に伝えたくない。今後このような事業者とは関わりあいたくない。買い取りで解決できるのであればそうしたい。
・確証はないので断定はできないが、会社に変な電話もかかってくる。私が会社に在籍しているかどうかの確認で名前を名乗らず、電話に出た事務員の女性が名前をきくと信販会社のものです、と言われたそうで、不審がって私に連絡があった。

 そこで、相談室では相談者の意向を汲み取り、この相談者の回答内容を一切伏せた上で、事業者には、ただ買い取り希望である、とだけ連絡した。

 事業者からは、今までの相談者の意気込みから見ると、ちょっと意外な展開でビックリしており、また相談室から真偽を問い合わせたとたんに『やっぱり買い取りする』というのは何となく納得いかない感じもするが、注文当初の条件のままお買い上げということであれば、こちらからお断りをする理由は無い、という返答だった。

 その後、相談者より振り込みを完了したという連絡を受け、事業者が商品を発送するところまでを見届けて、相談を終了とした。

 解 説

 この事例において、相談者と事業者、果たしてどちらの言い分の方に理解を示せるだろうか。それは、読み手の立場により微妙に異なってくるのではないかと思っている。
 
 事業者の一連の行動を見ると、相談者からキャンセルの通知をもらったときから、急に相談者の所在やキャンセル理由を確認したがり始めたように見えるし、その規定のキャンセル料が果たして適切かどうかも疑問である。また注文時、キャンセル料に関する表示が曖昧だったところも事業者側の落ち度と考える。

 もちろん相談者にしてみても、注文が終わってから、いきなり『プレゼントとして贈る相手が持っていたから』という理由にてキャンセルを申し出ることは、明らかな自己都合によるものだと考えられる。そのようなことは、何気なく事前に確認すべきである。
しかしだからといって、そのキャンセルのために、その贈る相手に対し、その商品の保証書を見せろ、などとはとても言い出せないだろうし、そんなことをして何の目的があるのかも全く不明である。

 そして、注文時に記載した相談者の住所と届け先についても、経緯を見る限り、特に他意があるようには感じられず、1人暮らしと思われる相談者が日中は家にいないため、勤め先に送って欲しいと考えたことはある程度理解できる。また、最近の1人暮らしにおいては固定電話を引かず携帯電話だけのケースも、決して珍しいことではないと思われる。

 それらの点を、キャンセルを申し出たとたんに、事業者側が急にこだわり始めたため、1人暮らしの女性である相談者が不安がり、事業者に住んでいる住所を知らせるくらいなら、代金を支払って終わらせたいと考えたことも、今の世の中、もしかしたらごく自然な流れであったような気もする。
現に、相談者から買い取り希望の旨、伝えた後においては、事業者はその相談者の勤め先に通常通り商品を送付しているのである。

 小さなショップであれば、せっかく受けた注文を、注文者側の身勝手な理由によりキャンセルをされてしまうことに対し、理不尽さを覚えるケースも多いと思う。でも、その場合でも、キャンセルに関する取り決めについて丁寧に説明することは必要であっても、注文者を不安に陥らせる必要は無いだろう。