第九話: 的外れなこだわり

 
相談事例から“今どきの消費者”

第九話: 的外れなこだわり

 相 談 内 容

 オークションで出品者からウォーキングシューズを4,900円で落札した。写真を見ると、明らかに「緑色」だったが、送られてきた実物は「明るい茶色」だった。
確かに、説明文には「キャメル」とあり、これは「明るい茶色」のことと思うが、どう見ても実物写真は「緑」なのである。私は専門家ではないので、こういう色もキャメルと呼ぶことがあるのだろう、と思い、落札したのである。

『届いた品物の色が写真とまったく違い、使えないから返品したい』と出品者にメールで伝えたところ、『光を吸収してそういう色になったので、色のことは文章で説明してあるはず』と主張され、返品に応じてもらえない。

こういうことを言われてから説明するのでは遅く、『色が実物と違って見える』とはっきり書かなかったのは、出品者の明らかな落ち度であると思うので、返品・返金をしてもらえないのは納得できない。

 処 理 概 要

 相談者から教えてもらったオークション画面を確認すると、各人所有するモニターにより、茶色と言われれば茶色、緑と言われれば緑にも見えなくはない、といった非常に微妙な色であった。ただ、オークション画面の説明文には、はっきり「ブラウン」「キャメル」といった表記がされていた。
 また、相手方のオークション説明文には、返品にかかる特約内容が一切記載されていなかった。

さらに相談室では、相手方の自己紹介欄に「ショップです」「営業時間は・・」と記載されていること、出品している商品が靴ばかりであることを確認し、相手方が事業者ではないかと考えた。そうであれば、法律により返品にかかる特約を表記する義務があり、その特約が記載されていなければ、消費者保護をとり、いつでも返品可能、と解釈することが可能であるからである。
それを確実にするために、まずは相談者に対して、今までの相手方とのやり取りの中で、相手方が事業者名を名乗るなど、事業者と判断できるようなものがなかったかどうか訊ねた。

 相談者から、メールのやり取りの中でショップ名を名乗っていたということで、やり取りされたメールの一部が送られてきた。それを相談室にて確認したうえで、相手方を事業者と考えた。
 そこで相談者に対し、『今回の件では、モニター上で見える色は確かに微妙ではあるが、商品説明にはっきり「ブラウン」「キャメル」とかかれていることからも、残念ながら商品の色の部分では争えない』ということ、しかし、『そういったリスクを回避するために、ネット取引を行う事業者は予め返品にかかる特約を表示する義務があり、返品特約が一切かかれていない場合は、消費者保護をとって返品可能と解される』ということを説明し、最終的には相手方に対し返品を主張することは可能ではないか、と回答をした。

 その後相談者から、『相談室からの回答を元に相手方と交渉したが、相手方は全く理解を示さない』という連絡があった。
 ただ、相談者が相手方と交渉しているときに、ともかく色に違いがあったことを強調し、それにより事業者として返品対応するべきだ、と主張しており、その主張に対し相手方は、現物を撮影して載せているものであり、それを補う手段として「ブラウン」「キャメル」と説明しているのであって、この説明で、どう解釈しても「グリーン」にはなりえない、という反論をしていた点が、相談室では少々気になった。

 そこで、今後、相談室によるあっせんを希望するのであればあっせんする旨と、その際には、返品理由として、決して色の違いで争うのではなく、事業者としての表示を見る限り、返品可能と解釈されることにより返品を主張するものであることを伝えたところ、相談者からあっせん希望の連絡があった。
そこで、相談室より相手方に連絡を取るとともに、今回、相談室が返品可能であると解釈した理由を詳細に説明した。

 相手方から返事があり、『返品可能と解釈するという相談室の考えは分かった、今回は返品対応をする、ただ商品の状態を確認したいので、現在どのような状態であるか相談者に聞いて欲しい、色が違っていたという理由ではないので、相談者都合による返品と考えて返送料は相談者が負担して欲しい』とのことだった。

 相談者に伝えたところ、『返品に応じたという回答には驚いたが、相手方が、あくまで「こちらの都合による返品」と考えるのには納得いかない、間違いなく「緑色」であって、それは相手方の不備である』『ただ、相談室であっせんしてもらった理由は、こちらでも承諾している、だから今回のあっせんを取り下げて欲しい』『もし、相手方が色の不備を認め謝罪したのであれば、またこの事業者を利用しただろうし、返品の主張もやめたであろう』との回答があった。

 そこで相談者に対し、本当に今、この段階で、あっせんを取りやめてよいのか確認を取った。しかし、相談者は相談室の対応には感謝するが、あっせんは取り下げて欲しい、との意向があったため、あっせんを終了とし、相手方には、今後相談者が直接連絡してきたら充分な対応をして欲しい旨伝えた。

 解 説

 今回、正直なところ、一番理不尽な思いをしたのは相談室である。
 相手方に対し、普段は非常に苦労する事業者意識をきちんと持ってもらうことに、少なからず成功したものの、その後、相談者の取り下げにより、途中であっせんが終了する結果となった。出来たら最後までやりたかったのが率直な感想でもあった。

 相談者の考えを理解するためにいろいろ考えるが、ただ画面上に表示されている微妙な色合いのものに対し、はっきり「ブラウン」「キャメル」とかかれていれば、それを「グリーン」じゃないといって返品を主張することは、通信販売という特質上、第三者的には、やはり無理があると思われた。
 従って、事業者としての表示義務の観点から返品可能と解釈し、それにより返品の主張をすることで相談者からも事前の同意を得ていたのであるが、やはり相談者は最後まで「色」にこだわってしまった。この点逆に相談室では、相談者の真の理解を得られていなかったのかもしれない。

 最後に相談者が、『もし、相手方が色の不備を認め謝罪したのであれば、返品の主張もやめたであろう』と言っていたのは、自ら考える返品の主張が絶対正しくて、それを相手方になんとしても認めさせたい、という気持ちの表れだったのかと思われた。そのときの相談者のメールには、『相手方は法律上、仕方ないから返品対応するということであって、このような販売の仕方に対しての返品対応ではない』とも書かれていた。

あっせんする時点においては、既に被害救済が目的ではなく、自分の考えの正当性を、ただただ認めて欲しかっただけに過ぎなくなっていたのかもしれない。そして同時に、相談室に対しても、本音はそれを求めていたのかもしれない。相談者の表面的な承諾を以ってあっせんを始めてしまったが、本音と異なるところで話が進んでしまっても、やはり相談者的には納得は出来なかろう。

 相談処理は、どうしても被害救済ばかりに焦点を当ててしまいがちだが、その救済により表面的な解決をすることに、実は意味をなさないケースもあるということを考えさせられたのである。