第十話: ネットショッピングをするレベルとは

 
相談事例から“今どきの消費者”

第十話: ネットショッピングをするレベルとは

 相 談 内 容

 オークション上で事業者の出品していたCDを4枚購入した。(即決価格:約4,000円)
しかし、商品が全く届かない。事業者は送ったといって、自分に落ち度がないと主張している。電話やメールでやりとりもしたが、喧嘩みたいになってしまい、メールを送っても電話をかけても応対してくれない。
もう、この件は忘れようと、こちらから謝罪のメールを送ったが、返事も返って来ないので許せなくなった。

相手は株式会社でこっちは無職の30代で、精神障害者2級を国に認められている。元気な人とダメージが全然違う。こちらは社会的立場が遥かに下で、事業者に勝てる要素がひとつもないのである。
 国民年金生活者で働くこともできず、母親(父は2歳のとき他界した)の扶養家族である。今まで、精神病院に入院暦は2回で、1回目は1ヶ月、2回目は3ヶ月、完全隔離病棟で入院していた。今も「○○クリニック」という精神科に通っている。精神的におかしくなっている。

 処 理 概 要

 相談内容後半部分のセンシティブ情報には触れず、相談室としては、オークションで商品が届かないのであれば補償制度を利用できないのか、また補償制度が受けられないのであれば、今までの詳細を知らせるよう伝えた。それとともに、相談者が事業者に対し、何を希望しているのかも分からなかったので、希望する解決方法を併せて知らせてくれるよう伝えた。

 相談者から、事業者とのやり取りメールが送られてきたが、そのほかの質問には答えていなかったので、再度相談者に質問を行った。送られてきた事業者とのやり取りはメール1往復分であり、やり取り全てではなかった。

その内容は、相談者からのメールで『消費者センターにて、クーリングオフのやり方教えてもらう、もしクーリングオフの煩雑な手続きが面倒だと思うなら4,390円+130円(送金料)=4,520円を私の口座に振り込むか、同じ商品を一週間以内に送って欲しい、郵便局は公的機関であって、企業経営では無いのでサービス等が悪い、もう見つからないだろう』といった内容であって、それに対し事業者からは『その申し立てには了承できない。こちらは商品を約束どおり発送しているし、発送方法もそちらの希望通り定形外郵便で送っている。もちろん、紛失時の保証がないことも連絡している。こちらにできることはこれ以上ない』とのやり取りであった。

 そこで、今回商品は定形外郵便にて送付されており、その送付方法を相談者が選択しているものと思われたので、相談者に対し、どのような経緯にて定形外郵便を選択したのか、を聞いた。併せて今回の取引は、いわゆるクーリングオフの対象外であることも説明した。
 相談者からは、いくつか送付方法の選択肢を与えられ、その中で選んだということ、また事業者へは返金希望であるということ、事業者とあっせんして欲しいという申し出があった。

 そこで相談室としては、それまでの相談者との数回のやり取りの中で、意思の疎通が図れない部分がかなりあったので、その点からも事業者から同時に話を聞いたほうが、事実確認の意味でも話が早いかもしれないという考えがあった。そこで、相談者のあっせんの希望を受け、事業者に連絡を取った。

事業者から回答があり、その内容は以下の通りであった。

・この相談者とのトラブルは実際こちらも困っていた、こちらは発送に際してお客様より料金負担して頂くため、発送方法をお客様に選択してもらっている。
その中で『定形外郵便での発送は商品が無くなる事もあります』と確認しているし、『もし無くなったときも、こちらでは補償できません』とはっきり申し上げている。そんなリスクをわかりつつ「定形外で送ってください」と申し出があったため送ったのである。
確かに無くなったことは事実だとは思うが、届かないからといってお金を返せといわれても、それは一方的な申し入れであると思う。

・発送は金曜日に行い、土日を挟んで月曜日頃に届くのではと考えていたが、月曜朝に、いきなり「少額訴訟をする」とメールがあり、その後、以下のような脅迫めいた文面のメールが何度も送られてきた。
『「少額訴訟」とゆうものは、被告がいくら落ち度が無いと主張しても、証拠がないと、敗訴とゆう形になります。また、最低条件として、見舞金無しで、(※アーチスト名)8センチシングル、8枚全部(全部新品)と今回取り引きの、商品を送ってくれたら、すべて水に流しても結構です』

・そこでこちらとしては『郵便局に調査依頼して商品を探してもらう手配をしているので、少し時間がかかるかもしれないけど待ってください』とメールでも電話でも連絡したが、相談者からは待てないといった、一方的な返事ばかりだった。
「精神障害がある」ということで、実際、精神的に不安定な方だったので、少し時間を置いて、又連絡するつもりだった。今のところ郵便局の連絡待ち状態である。郵便局から連絡がきてから相談者に連絡するつもりだった。

 相談室では、この事業者からの回答を受けて相談者に対し、特に少額訴訟に関するメール内容など、これら事業者の主張が正しいのかどうかの確認とともに、もし本当であれば、『他の選択肢があるにもかかわらず、紛失の際のリスクを認識した上で自ら定形外郵便にて発送するよう申し込んでいるようであれば、万一紛失したとしても事業者側が必ずしも全て責任を負わなければならないとは限らない』ということ、『現在郵便局で調査中であるから、まずはその結果を待ってみたらどうか』ということをやんわり伝えた。

 相談者から回答があり、今は郵便局の調査待ちなので、この事業者とまた取引が出来るまでに仲直りしたいとの申し出があった。ただ、今でも本当は返金されることを希望している、との回答があったが、そのほかの回答内容は無かった。
 従って、相談者には郵便局の調査を引き続き待ってみるよう伝えるとともに、事業者に対しては、可能であれば今でも相談者は返金を希望しているということ、ただ、今回いろいろトラブルがあったようだが、相談者は関係の改善を一番に希望している、ということを伝えた。

 解 説

 この相談者からは、この案件だけではなく、ほぼ同時期に別の相談が寄せられてきていた。その内容は、インターネット上のサービスでクレジットカード決済をしてしまったが、そのサイトと解約手続きが出来ないというものだった。そこで、まずはクレジットカード会社に相談してみるよう伝えたところ、10枚以上クレジットカードを持っているので、どのカードを使用したか分からない、というものであった。

 相談者が本当に精神的な病を患っていたかはわからないが、実際の相談者の文章や言い回しが非常に独特で、少なくとも意思の疎通がはかりにくい相談者であったということは言える。何より回答に終始一貫性が無かったのである。

 さて、インターネット上で発生するトラブルを専門として、それを全てオンライン上でやり取りするとなると、相談機関として、実は相談者に対して、無意識に、それなりの文化的、知識的、そして経済的なレベルを要求しているものと気付く。
今、インターネットは当たり前のツールになったとはいえ、インターネットを利用しない人も、まだまだたくさん存在するのであり、本当の意味での社会的弱者は、そもそもインターネットなんてとても利用できる状況ではないだろう、と思えるからである。
 
では、相談者にどのようなレベルを要求しているのだろうか。
自宅にてプロバイダ契約と通信料の支払いが可能、または学校や会社などにおいて望めばオンライン環境にいられる状態であり、ブラウザの利用方法を知り、メールにいたっては、送受信はもとより、場合によってはメールに添付ファイルをつけることが可能なレベルを要求する。そのためには各種ファイルの保存方法や、デジカメ画像の取り込みなども必要になってくるだろう。
「それでは添付ファイルで送ってください」と相談者に簡単に言ってしまうが、相談機関として、その感覚は正しいのだろうか。

 ただ、そのレベルを相談者に求めるということは、裏を返せば、少なくともインターネット上で取引を行った結果、トラブルが発生したのであれば、当然にそこまでのレベルに達している相談者であろうと想像できるからである。
それは社会的に見れば、少なくとも判断能力はあると思われる人(未成年は別として)、とも言えるのかもしれない。

 インターネット取引は、自ら望まないと出来ないものである上、このような社会的に一定のレベルに達している人が行うことがほとんどであるため、実はトラブルが発生しても「自己責任」という言葉で片付けやすくなっている。
では、インターネット取引が出来る=自己責任が問える、で良いのだろうか、いや、多分違うような気がする。