第十一話: 選択の自由

 
相談事例から“今どきの消費者”

第十一話: 選択の自由

 相 談 内 容

 ガーデニング資材である英国製化粧砂利の購入を検討し、何種類かの化粧砂利のサンプルを近所のガーデニング店より入手し、オレンジ系である商品「ウェセックスゴールド」の購入を決めた。

しかし、商品変更中との話を聞いたので、T商事にメールし、商品変更前後での色の違いを確認した。T商事からは『ウェセックスゴールドに関しましては以前のものに比べると、ややオレンジ色が強くなったのは事実です、すでに販売させて頂いておりますが、色が違うなどの声は今のところお聞きしておりませんので、ほぼ同じと考えて頂けたらと思います』とのことだった。

そこでT商事に直接発注を申し込んだが、「こちらはベンダなので代理店を通してほしい」との回答があり、T商事のHPに掲載されていた代理店数社から比較検討し、代理店K店に「ウェセックスゴールド(25kg)」35袋を発注、代金78,204円を入金した。

K店より35袋が納品されるが、2袋ほど敷設したところ色がベージュ系なのでビックリし、T商事に商品変更の前後で色が違うことを指摘し、対応策の提案を依頼した。その後、T商事から言われてオレンジ系のサンプル実物を送付した。

その後、T商事から以下のメールがあった。
『本日、サンプルとして入手されました砂利と、弊社からお送りした砂利が届き拝見させて頂きました。こだわりを持って砂利を決定されたということが大変良くわかりました。ただ、弊社は代理店制度をとらせて頂いております関係上、代理店様を無視することはできませんので、代理店様を通してご連絡頂けないでしょうか?』

そこで、発注先の代理店K店へ電話連絡し、T商事の送料負担で交換してほしい旨を伝えたら、代理店K店から電話があり「交換は可能だが、交換にかかる送料(約3万円)をT商事と折半でどうか。これ以上の交渉はしない。YesかNoか」と言われている。
 
しかし事前にT商事に「商品変更前後で色は同じ」と確認していたのに、実際は色が違っていたのであるから無償で交換してほしいが、それよりも、その説明については何もなく費用折半を押し付けてくるような解決策は如何なものかと思い、消費生活センターへ相談したところ、こちらを紹介していただいた。あっせんをしてほしい。

 処 理 概 要

 当初、どのような方法により取引をしたのかが不明であったため、相談者には、そもそもインターネット上での取引なのかどうか、またその場合は、砂利の色の違いがどの程度のものなのか、画像があれば参考までに送って欲しい、と伝えた。

 相談者から、取引はメールで行われたものであること、また画像を添付したので確認して欲しい、とのことだった。画像については、35袋納品された商品の中に箱に入れられたサンプル品を置き、色の比較がしやすいように写されたものであった。
 画像を見ると、確かに箱に入ったサンプル品は、若干オレンジ色が強いような印象を受けた。ただ、全く違う色、とまでは言い切れず微妙で、ある程度自然素材であることを考えると判断が分かれるところかと思われた。

 そこで、メールによる取引であれば、あっせんが可能かどうかを検討するために事業者とやり取りしたメールを見せてくれるよう伝えた。
相談者から17通のメールが送られてきた。しかし、その中で気になったのは、T商事は変更後の商品を希望するのであれば「NEWウェセックスゴールド」と発注するよう言っていたが、相談者が実際K店に発注する際は、「ウェセックスゴールド」となっていた点である。
 この点相談者は『T商事から、仕入れ先やパッケージ等も変更になっていると言われていたので、自分では商品自体がほぼ同じであれば、パッケージ等までこだわるつもりは無かったため、特に指定はしてしなかった』とのことであった。

また、相談者はT商事にこだわっており、T商事からは「購入したK店を通して欲しい」と言われているにもかかわらず、交換に関しても何度もT商事で対応するよう申し出ていた。また、T商事からは「そのサンプルはどこから入手したのか?」という問いに対しては、あくまで「近所のガーデニング屋」としか回答していなかった。
そこで相談者には、あっせんするとしても、その最初の窓口はK店になることを伝えた。

 しかし、あっせん開始する直前になってから相談者より、実はK店より「交換にかかる送料(約3万円)をT商事と折半でどうか。これ以上の交渉はしない。YesかNoか」と電話で言われたときに、「話を大きくしたらこの話はない、公的機関へ話を持ち込まないのであれば半分は負担する」、という意味のことも言われているとのことであった。

 相談者としては、その点を大変悩んであり、交換はどうしても必須なので、送料全てを自己負担という結果は避けたい、というのが本音にあり、その一方で消費者として、カタログと違う、サンプルと違う、事前に確認したもの違う、という状況の中で、このように首根っこを掴まれるような条件を言われ、どうしてよいか迷っているとのことであった。

 あっせんをすれば、当然事業者には第三者機関に相談している旨、知られてしまうので、連絡を取ることで事業者の態度が硬変し、かえって事態が悪化する恐れも充分考えられたため、相談者には、そのリスクを負ってでも送料全額を事業者側に持つよう主張し、相談室を通じてあっせん交渉してみるか、それとも送料を半額は負担するという事業者側からの条件を不本意ながらも呑みリスクを避けるかを、まずは自分自身で判断する必要があることを伝えた。

 解 説

 最終的に相談者はあっせんを希望しなかったのだが、このように第三者が入らないことを条件に、なんとなく中途半端な解決方法を相手方から提案されて悩むケースもあり、まさに『他言無用』というところである。
 ただ、仮に同じ条件を第三者から提案されても同じように悩むのであろうことから、最終的な判断は当事者が決めるということに変わりは無いだろう。

 どちらが送料を負担すべきかの判断基準のひとつになる砂利の色の程度に関しては、砂利が自然素材であることを考えると、主観的なものがほとんどであろうと考えられた。ただ、一袋25kgの砂利を35袋分であるから、当然それなりの送料がかかり、それをどちらが負担するかは当事者には大きな問題であるといえる。

 相談者は当初、K店から「話を大きくしたらこの話はない」と言われていたことを相談室には言っていなかった。
しかし、相談者は最初からあっせんを希望していたことから考えると、相談者的には、あくまでT商事とのあっせんを希望しており、相談室より、あっせんにおいてもK店が窓口になることを告げられてから、慌ててその話を出してきたのかもしれない。

 事業者側においても、いろいろな見地から、譲歩したことを他に知られたくない、という考えを持つこと自体は理解できる。それは取引先に対しての立場もあり、また他の顧客に対しての立場もある、という両方の意味があるだろうと思う。
 しかし、トラブルが発生し、その状況にあわせ個別に解決した内容に関しては、通常特別な合意を設けなくても当事者間でのみ共有され、他に知られることはあまり考えなくても良かったのかと思う。相談機関が間に入っても、相談機関は原則第三者には開示しない。

 ただ、このケースとは別に、最近相談を受けて多く見受けられるようになったのが、たまたま良い条件で事業者と解決できた人が、その内容をインターネットの掲示板等に詳細に書き込み、それを見た同様のトラブルを抱えた人が、その条件と同じ解決を希望して事業者と交渉したり、相談機関に相談するといった状況である。
 トラブルはまさにケースバイケースなので、もちろん紛争解決もケースバイケースなのが基本だが、やはり良い条件で解決できた例を見ればそれと同じ内容で解決したいと考えるだろうし、その条件より悪い内容で解決した場合は「負けた」と思うのかもしれない。  相談機関は、そういった相談者の場合はケースバイケースになることを必ず説明する。

しかし、一方事業者側のほうでは、そのことを知ると「あの時、あんな条件で解決するんじゃなかった」と思って、以後の態度が硬化するケースもある。
『他言無用』をキチンと担保しないと、危なくて合意も出来ない状況がちらほら出てくる時代になったのかもしれない。